北海道の夏山遭難に関して思うこと

北海道大雪山系のトムラウシ山と美瑛岳において、夜間の風雨中動けなくなった登山者が遭難し、現時点で10人の方の死亡が確認されている。それにしても相変わらず、メディアはどうして事の状況と責任の所在だけを垂れ流すのだろうか。

僕の母は登山が趣味だ。趣味といっても、あの人のそれは通常の趣味の領域を完全に逸脱していて、冬の八ヶ岳は縦走するは、ヒマラヤにトレッキングに行くは(しかも僕がその事実を知らされたのはどちらも帰ってきてからだった)……若い頃忙しくてなかなか好きなことができなかったとはいえ、あの恨みを晴らすような登山は、傍目から見ていてちょっと怖いものがあった。

しかし、母が事故を起こしたり、巻き込まれたりしたことはただの一度もなかった。母はよくこんなことを言っていた:

的確な状況判断の上で引き返すことは、登山では非常に重要である
今回の山行、もし僕の母だったら、おそらく引き返すか、コースの大幅な変更をしていたはずである。

まず、今年の北海道の気候が例年と異なっていたこと。今年の夏の大雪山系は異常な低温が続いている。こんなことは web でも電話でも簡単に調べられたはずだ。しかも、この一月ほどの北海道は「まるで梅雨が来ているんじゃないか」と言われるほどに雨が多かった。山行中の雨は、確実に体温を奪うし、たとえ本州の夏山でも夜には冷えるのだから、おまけに北海道、しかも雨、となったら、今回のような事態は容易に予想できていたはずである。つまり、今回のツアーの企画者や参加者は、行き先の気象状況のチェックを行っていなかった可能性が極めて高い。遭難の原因として、まずこれが挙げられるであろう。

そして今回の遭難者は、夜間の雨に加えて、夕刻からの強風にさらされて低体温状態で動けなくなった、というのだが……この話を聞いて、登山にあまり明るくない僕ですら、とっさにこう思ったのだが。

どうしてツェルトを持っていなかったんだろう?
これはまさに謎としかいいようがない。少しでも気象状況に関して小耳に挟んでいたら、ツェルトを持っていかないなど考えられないし、そうでなくとも、まさかのビバークのために必ず用意しておくべきものだろう。

今回亡くなった方々は、いわゆる「団塊の世代」前後の方々が多いようである。残念なのだけど、僕が見る限り、この辺りの世代の人は、自分に関する諸々の事物に関して、最終的には他者に保証されている、と信じ込んでいる人が有意に多いような気がする。自分で気象状況を調べる、ザックにツェルトと緊急用の保温シートなどを放り込んでおく……そういう、自分で考えている人間なら当たり前のことができていなかったために、今回の方々が亡くなったのは、厳しいことを書くようだけれど事実であるとしか言いようがない。

いつだったか、穂高辺りから帰ってきた母と、こんな話をしたことがあった。

「今回は、滑落した人がいてね、ヘリで運ばれていったよ」
「……なんか、さらっと言うけどさ。そんな風なメには遭わないでくれよな」
「(笑)そんなことになったら、うちは破産よ。だから、そうなりそうだったら、そこで引き返す。いつもの私のルールですから」
「破産?遭難救助ってそんなにお金かかるの?」
「当たり前じゃない。山狩りしたら、地元のボランティアの人たちに謝礼払わなきゃいけないし、ヘリだって、飛ばしてもらうのにいくらかかるか」

母は未だに元気である。今回の遭難した方々や、そのご遺族には誠にキツいことを書くことになるけれど、こういうことが山での生死を分けるということは、事実なのである。たとえ日本国内の、夏の山であったとしても。


[後記]
あの後、メディアに注目していても、一向に「ツェルト」という言葉が出てこないので、2ちゃんねるのニュース速報板で検索をかけたら、結構な数の人が「ツェルトと防寒具があれば死なずに済んだろうに」という論旨の書き込みをしていることを確認。う〜ん、そうですよねぇ。なんで今回の犠牲者の方々がツェルトを所持・使用していなかった(に違いない)んだろうか。理解し難いとしか言いようがない。

2009/07/17(Fri) 17:41:45 | 社会・政治
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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