皆さん、マニフェストを読み返してみましょう

この日記でも過去に「がんとワクチンに関するメモ」で書いているけれど、子宮頸がんのワクチンである Cervarix が昨年末に日本でも発売されている。とにかく、子宮頸がんの原因がヒトパピローマウイルスであることははっきりしているし、この Cervarix を接種しておけば、7割以上(これは他のワクチン、たとえばインフルエンザワクチンなどと比較しても十分な値である)の確率で感染を予防できる。問題は4〜6万円かかる任意での接種費用で、各地方自治体が全額、もしくは一部の援助に向けて動いている、という話をニュースで耳にすることも多い。昨日も、こんなニュースが流された:

子宮頸がん予防に助成を=女優の仁科さんが小沢氏に要望

民主党の小沢一郎幹事長は8日午後、国会内の幹事長室で女優の仁科亜季子さんの訪問を受けた。仁科さんが子宮頸がん予防ワクチンの公費助成を要望すると、小沢氏は「がんばれ」と激励。同席した衆院厚生労働委員会所属の仁木博文氏に、「委員会で問題を提起してくれ。バックアップする」と対応を指示した。

仁科さんは38歳の時に子宮頸がんを発症しており、要望を終えた後「心強く思っている」と語った。

(2010/04/08-20:34, 時事通信社 id

……いや、仁科さん。そんな低姿勢でどうするんですか。あなたはもっと怒っていいんですよ。小沢を「約束を守れ!」と怒鳴りつけるべきなんですよ。小沢ごときが『「委員会で問題を提起してくれ。バックアップする」と対応を指示』しているのを、黙って見ていちゃ駄目ですよ。仁科さんも含めて、皆さん、何か忘れちゃいませんか?民主党のマニフェスト、皆さん本当に読まれていますか?これの pp.19 に、ちゃんとこういう風に書かれているんですよ:

23. 新型インフルエンザ等への万全の対応、がん・肝炎対策の拡充
【政策目的】

○新型インフルエンザによる被害を最小限にとどめる。
○がん、肝炎など特に患者の負担が重い疾病等について、支援策を拡充する。
【具体策】
○新型インフルエンザに関し、危機管理・情報共有体制を再構築する。ガイドライン・関連法制を全面的に見直すとともに、診療・相談・治療体制の拡充を図る。ワクチン接種体制を整備する。
○乳がんや子宮頸がんの予防・検診を受けやすい体制の整備などにより、がん検診受診率を引き上げる。子宮頸がんに関するワクチンの任意接種を促進する。化学療法専門医・放射線治療専門医・病理医などを養成する。
○高額療養費制度に関し、治療が長期にわたる患者の負担軽減を図る。
○肝炎患者が受けるインターフェロン治療の自己負担額の上限を月額1万円にする。治療のために休業・休職する患者の生活の安定や、インターフェロン以外の治療に対する支援に取り組む。
【所要額】
3000 億円程度

上記赤強調部(筆者による)に相当する施策をする、ってことですよね。実態はどうです。何もしていないじゃないですか。小沢も、なにが「がんばれ」だっつーの。他人を慮ることもなしにこんなことを言うのならば、いっそ自分ががんになって、その苦しみを味わって、自分自身で「がんばって」みればいいんだよ。

浅田真央という人:アートとしてのフィギュアスケーティング

僕は、自分自身では全くやらないのだけど、バレエが好きで、NHK でローザンヌ国際バレエコンクールなどをやる時期には、教育テレビで何時間もかかるコンクールを観ていたりする。何故そういうものを観るのか、というと、舞踏というものが如何に過酷で、そして残酷なものなのか、ということに惹かれるからだ。こう書くと分かりにくいかもしれないけれど、もし興味のある方がおられたら、5月に NHK で放映されるはずなので、是非観ていただきたい。背景知識は一切必要ない。中途半端に知識がない方が、むしろ分かり易いかもしれないからだ。

僕が最初にあのコンクールの様子をテレビで観たのは半ば偶然だったのだけど、2時間細の間、僕はブラウン管(まだ液晶じゃなかった)に釘付けになってしまった。身体が形成する曲線、そしてその時間変化、躍動、そういうものが、舞踏の経験のない僕が見ても、その差というものがはっきりと見えてしまうのである。そして、素晴しい舞踏はやはり素晴しい。たとえそれがまだ若い人であったとしても。そう。肉体表現というものは、残酷なまでに人の the art of beauty というものを僕達に突き付けるものなのだ。そしてそれは、たとえ優美に見えていたとしても過酷である。優美な曲線は、過酷な修練で疲れ、削られた身体が形成するものなのだ。お気軽に見ている人には単なるカタチにしか見えないかもしれないけれど、その表現者の立つところに自らの視点を据え、その表現者の呼吸を体感しようとしたとき、人はその下にある過酷な領域を垣間見ることができるのだ。

この舞踏の過酷さ、残酷さを孕んだ美しさは、そのままフィギュアスケートのそれにあてはまる。僕は浅田真央という人のスケーティングを見たときに、瞬時にそれを感じた。そして、他の何人かのスケート選手の演技を見て、やはりその美しさの下に過酷さ、残酷さがあることを確信した。

僕が浅田真央という人のスケーティングを見たときに、最初に感じたことは「ああ、この人は絶対にバレエをやっていたに違いない」ということだった。調べてみると、やはりそれは当たっていて、彼女は越智インターナショナルバレエでバレエを習っていたのであった。彼女がトリプルアクセルを跳べるのは、おそらくはこの経験が大きく関わっているに違いない。それに、彼女のつくりだす曲線の佇まいとその揺蕩い(特にその曲線が肩を経由して両腕で形成される瞬間のそれ)は、やはりバレエをやっている人でなければ形作ることはできないものだと思う。それだけではない。彼女がトリプルアクセルを跳び続けながら、金妍兒のように慢性的な腰痛などを抱えずに済んでいるということは、バレエの練習を基礎とする足腰の柔らかさ、しなやかさがあるからに違いないのだ。もちろん、バレエだけが彼女を形成しているわけではないけれど、あれはやはり土台にバレエがあってこそのものだと思うし、あの曲線を形作れない人というのが、残酷なことに確実に存在するのだ。

そして、音楽をやっている端くれとして付け加えるならば、彼女のコーチで振付けも行っているタラソワ女史は、さすがにロシア人だと思う。ロシア音楽の真骨頂である荘厳さと重厚さ、それを最大限にアピールしているあの二曲(ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」とラフマニノフの「鐘」)を持ってくる、なんて、実によく分かっていると思う。何が分かっているか、って?アートが、ですよ。あの2曲を持ってくるというセンスが、実にアーティスティックなのだ。

ハチャトゥリアンという作曲家は、日本では「剣の舞」の作者として有名だと思うけれど、あの「剣の舞」が実はバレエ音楽だということは、どうもあまり知られていないらしい。そして今回のスケートで用いられた「仮面舞踏会」は、戯曲のための音楽である。十九世紀の帝政ロシアを舞台に、上流社交界の華麗なる仮面舞踏会、そこでの妖しい男女のやりとり、そして妻への疑念からその妻を殺害してしまう男を描いたレールモントフの戯曲のために書かれた曲を持ってくる、という、このセンスは実にいい。ロシアという国のアートへの意識の高さがうかがえるような選曲である。

そしてラフマニノフ(100809・訂正:コメントに書かれてるのにさっき気づきましたが、これはムソルグスキーです……なんでラフマニノフなんて書いたのか自分でも分かりませんよ……)。彼の名も、「展覧会の絵」と共に有名だけど、実はこの「展覧会の絵」がピアノ組曲であることは、どうも日本ではあまり知られていないようだ(補足:『展覧会の絵』は、ムソルグスキーの死後遺品の中からピアノ譜が発見され、リムスキー・コルサコフの補作とラヴェルのオーケストレーションで有名になった曲である)。ラフマニノフは、自身が非常に高い技巧を駆使するピアニストでもあったために、ピアノ曲の名曲と言われるものが数多く存在するのだけど、今回のスケートで有名になった「鐘」も、もともとピアノのために書かれた曲である。ラフマニノフの作品で、声楽のために書かれた曲に「鐘」というのがあって(ややこしい)、今回の「鐘」の方は「前奏曲 嬰ハ短調」(作品3-2)と呼ばれることの方が多いのだが、「幻想的小品集」の一曲であるこの曲は、ラフマニノフ自身のピアノによって1892年に初演され、それ以来音楽好きの間では良く知られる曲である。今回スケートで使用されているのは、おそらくストコフスキーの編曲による管弦楽曲として、であるが、原曲の持つ重厚かつ深み・広がりに富む曲調はちゃんと継承されている。やはり、この曲を持ってくるというセンスには、唸らざるを得ない。タラソワさん、本当に、よく分かっていらっしゃる。

でも一番凄いのは浅田真央その人だろう。重過ぎるかもしれない、他の曲にしようか、と言ったタラソワ女史に、先生が下さった曲だからこれにします、とゴーサインを出したのだから。この曲の良さを分かって、その過酷さを背負うことを決めた浅田真央という人の「覚悟」には、やはり唸らざるを得ないのである。

さて。青嶋ひろのというフリーライターが、浅田真央という人はそういう美、そしてそれを養う努力の重要性に気付いていない、という論旨の文章を書いたという。あまりに低次元な話なので、正直反論する必要性も感じないのだけど、最近はこういう public なところにちゃんと書いておかないと、こんな阿呆な話も妥当性のあるものだと思われてしまうことがあるので、ここにちゃんと書いておきたい。

まあ、この件に関してレトリックを尽くす気にはなれないのだけど、あえて言及するなら、この間の世界選手権の SP の演技を、フジテレビの中継で観ていただければよろしい。ここで、アナウンサーや解説者が喋ったことに注目してはいけない。この中継で、アナウンサーや解説者の言葉が止まってしまったことに注目すべきなのだ。

映像使用権などの問題があるので、YouTube 等で皆さんが捜してご覧頂きたいのだけど、あの日の実況で、浅田真央の SP 演技の後半、実況のアナウンサーも解説者も、何十秒もの間、一言の言葉も発していない。それは、今冷静になって観てみると、まるで放送事故のようにすら見える程だけど、どうして、実況すること、解説することが仕事の彼らが言葉を失なってしまったのだろうか。理由は簡単だ。その美しさに心を奪われたから。心を奪われる、というのは、こういう状態のことを指すのではないだろうか?

先に音楽の話を書いたけれど、こういう状態を作り出すということは、音楽と演技が総合芸術として、話す仕事の人の言葉すら奪いおおせた、ということだ。これを the art of beauty と言わずして、何がアートなんだろうか?

まあ、これだけ言えば十分でしょう。あとは、刮目して浅田真央の演技を観よ、そして感じよ!そういうことなんですよ。

金妍兒さん、それはあまりにひど過ぎるんじゃないの?

普段はめったに書かないスポーツの話だが、今日のフィギュアスケート世界選手権、皆さんはご覧になっただろうか?あまりの採点のおかしさに、しばし目を疑ってしまった。

どういう演技内容だったか、というと、浅田選手はノーミス(トリプルアクセルのコンビネーションで回転不足を一つ取られたが)、金妍兒(もはやあんなのを選手とは呼びたくない)は1回転倒、そしてアクセルジャンプがひとつすっぽ抜けている。で……だ、今回の採点内容に関しては、

をご覧いただければ分かるかと思うのだけど、まずは金妍兒の演技要素とそれに対応する GOE を抜粋しておく。
  1. 3Lz+3T: 2.20
  2. 3F: 2.00
  3. 2A+2T+2Lo: 1.40
  4. FCoSp4: 0.50
  5. SpSq4: 1.40
  6. 2A+3T: 2.00
  7. 3S: -3.00
  8. 3Lz: 1.40
  9. SlSt3: 0.80
  10. A: 0.00
  11. FSSp4: 0.10
  12. CCoSp4: 0.60
……で、浅田選手のがこれ。
  1. 3A: 0.60
  2. 3A<+2T: -0.48
  3. 3F+2Lo: 0.20
  4. FSSp4: 0.40
  5. SpSq4: 1.60
  6. 3Lo: 0.80
  7. 3F+2Lo+2Lo: 0.00
  8. 3T: 1.00
  9. 2A: 1.40
  10. FCoSp4: 0.50
  11. SlSt3: 0.90
  12. CCoSp4: 0.80
……さて。まず、全般的に金妍兒の GOE の方が有意に高いのはお分かりと思う。ここで注目すべきなのは金妍兒の10番目。これはおそらくダブルアクセルがすっぽ抜けてシングルアクセルと認定されたものだけど、通常こういう失敗ジャンプの GOE は減点対象になるのに、金妍兒には減点はなし。そして浅田選手の7番目、これはトリプルフリップ-ダブルループ-ダブルループの3連続ジャンプだけど、これは成功していても GOE は同じく0。で……今回のフリーでは、金妍兒の方が浅田選手よりもいいスコアが出ている。1回転倒して、ジャンプがひとつすっぽ抜けているのに。どういうこと?

今回は、個人で ISU に抗議している人が多数いるらしい。いや、こんな点数を見て、何故日本のメディアは何も報じないの?これはあまりにひど過ぎだって。

上海総領事館員自殺事件

中井洽(ひろし)国家公安委員会委員長の女性問題に関して、「ハニートラップだったらどうするのか」という声が上がっているという。この指摘は、北朝鮮の工作員だった場合の危険性などを懸念したものだ、というのだけど、いやそこで警戒するのは北朝鮮じゃないでしょう、と思ったのは僕だけだろうか。

ハニートラップを警戒するのであれば、誰が何と言ったって怖いのは中国である。何せ、中国には前科があるのだから。その名も「上海総領事館員自殺事件」という。

2005年末、この事件が明るみにでたときに、僕は戦慄したのを覚えている。事件そのものに、と言うよりは、世間のあまりの無関心さと、日本政府のあまりの静かな対応に戦慄したのだけど、外交特権を以てしても尚、この自殺した職員に「国を売る以外に生きて出国できないだろう」と思わせたあの国は一体何なのだろう。ネットワークに関しても、彼の国は「金盾(ジンドゥン)」と呼ばれる巨大な情報統制システムを既に稼動させている。今、ネットワークフィルタリングの技術で世界のトップを走っているのは中国だ、というのは、この手の知識を持つ人々の間ではもはや常識である。

僕達が日頃つい忘れかけていることなのだけど、彼の国は、どれだけ経済的に開放しているように見えても、政治レベルにおいては、この21世紀において尚一党独裁国家なのである。どれだけ開放的に見えても、どれだけバブルに酔おうと、このことだけは忘れてはならない。某国家公安委員会委員長は、こういうことはすぱっと頭の中から抜け落ちているようだけれども。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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