1か8か

もう転職してしまったのだが、職場での部下に、埼玉出身で東農大出身の男がいた。彼のクルマによく乗せてもらっていたのだが、走っていたとき、目前に一台のベンツが出てきた。
「あー、あれ、気をつけてな。ナンバーが "・・・8" だから」
「へ?何ですかそれ?それを言うなら1でしょう。大丈夫ですって」

いや、実は私も、名古屋に住み始めたときにそう思っていたのだった。しかし、街中のクルマとそのナンバーを見ていると、いわゆるイカツい系のクルマにはまず間違いないといっていい位に "・・・8" とか "・・88" とか付いているわけだ。

関東でも関西でも、この手のイカツいクルマは "・・・1" や "11-11" が大好きなわけだ。これは私もよーく知っている。しかし、どういう訳かこの地ではそれが "8" なのだ。最初はその訳が分からず、周囲のこの辺の人間に聞いてみるのだけど、皆実に対応が冷たい。ようやく誰かにこう言われたのだった。
「……市章、見たことないの?」

で、見てみると……
ご存じですか?八マーク』(名古屋市のページより)
なんてのがあって、ついでにその由来もちゃんと書かれている。へー、○に八、でその由来は尾張徳川家の合印なのだそうで、市章に採用した理由としては「丸は無限に広がる力、また八は末広がりで発展を示す」ということなのではないか、と。そういうことらしいのだ。

このことが、この辺りのイカツいクルマに乗る連中にどのように受け入れられているのか分からないのだけど、とにかくこの "8" ナンバー、面白い位にイカツい連中は「遵守」しているのだ。今日もバス停の手前で "88-88" ナンバーをつけた黒のベンツを見かけて、思わず笑ってしまった位なのだから。

しかし、この手合いは、自転車に乗っているときには恐怖の対象でもある。とにかくこの手合いは平気で自転車相手に幅寄せ、進路塞ぎなどをやらかしてくる。一度は執拗に追い回されたこともあったので、とにかくこのナンバーを見かけたら近寄らないようにする。おそらく他のクルマも同様なのだろうと思う。

で、あるときに誰かにこの話をしたら、
「Thomas さん、"88-88" って、何て読むか知ってます?」
「え?ハチハチハチハチじゃないの?」
「いえいえ……違うんですよ。いいですか、まず1番目の8は○ふたつと解釈して『クルクル」って読みます。そして2番目の8は『パー』」
「……クルクルパー、クルクルパー?」
「そうそう」

名古屋で皆がこう読むのかどうかは今も知らないのだが、良い皮肉だとは思ったのだった。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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