これ誰が弾いてるんだ?

昨日言及したカヴァー曲だけど、昨夜ドラムのトラックを作り、今日はアコースティック・ギターを録音した。今夜か明日にはベースを入れるところである。

しかし、だ。この曲のベースが妙に難しい。そもそもアコースティック・セッションでのベースというのは、大規模なオケではカバーしなくていい部分もベースがカバーする必要があるために、ベースは普段使わない高い音域を使い、かなり頭を使うことになる……一例を挙げると:

まあこの曲自体に関してはあまりに有名な曲なのでどうこう書く必要もないとは思うのだけど、この曲のベースは、当時キャロル・キングの夫だったチャールズ・ラーキーが弾いている。ジェームス・テイラーのアコースティック・ギターとキャロル・キングのピアノ、そしてチャールズ・ラーキーのベースが、まさに三位一体とも言えるバランスで演奏を形成している。

で、僕がカヴァーしようとしている曲なのだけど、これが録音されたのは1971年、この "So Far Away" が録音されたのと同じ年だ。この時代の日本に、こんなベースを弾ける人はそう何人もいないと思うのだが……うーん。明らかに細野晴臣ではない。「これ誰が弾いてるんだ?」……ということで調べてみると……あー。これぁ……そうか、この人がいたんだよな。ベースを弾いているのは山内テツだった。

「山内テツ」という名前をご存知の方は、おそらく世間にはほとんどおられないかもしれない。どう説明すればいいのか……えーと、皆さんはフリーとかフェイセズとかいうバンドをご存知だろうか?フェイセズは、ロッド・スチュワートと現在はストーンズに在籍しているロン・ウッドが在籍していたのでご存知かもしれないが、1970年代、この二つのバンドに在籍していた日本人のベーシストがいた。それがこの山内テツである。

おそらく、問題の曲のプレイは、スタジオに呼ばれてさらさらーっと弾いて帰ったんだろうと思う。この時代のミュージシャンは大体皆そうだ。演奏における集中力が今のミュージシャンとは別次元と思えるほどに高い。でなければこんなプレイは出てこない。

オリジナルのこのベースのプレイに自分のプレイで対抗しなければならないわけで、ギターはさらっと録れたのに、おかげでベースで煮詰まってしまっているのだった。どうしたもんかな……いっそお盆の間寝かせておいた方がいいのかもしれない……

これどうやって弾いてるんだ?

楽器を弾く、特に、譜面中心でないロックやフォークソングをやっている人々は、しばしばこの言葉をつぶやいたことがあるのではないだろうか。今日はこのお話を少し。

昨日からごそごそやっている曲なのだけど、耳で取ったコードの経過音を弾くのに、一か所だけ非常に厄介なところがあった。無理すれば弾けないことはないのだけど、でも先日張り替えたライトゲージの弦で弾くのは少々厳しい(一応誤解なきように明記しておくけれど、いくら僕でも F とか B♭ とかを押さえられないということはない……最近は書かぬが花、と思って書かずにいると、アホな読み手が読む対象を平気で自分のレベルにまで引き下げて簡単に誤解してくれるものだから、こんな下らんことを書かなきゃならないんだけど)。うーん。

僕が悩むのには理由があった。というのも、この曲を演奏していた人々は CS & N とか CSN & Y とかのフォロワーだからだ。こう書いても最近の人にはピンとこないかもしれないけれど、「クロスビー、スティルス、アンド ナッシュ」とか「クロスビー、スティルス、ナッシュ、アンド ヤング」とか、ええい大まけだ、ヤングはニール・ヤングのことだ、とか書けば……やはりピンとこないか。詳しくはWikipedia の説明を読んでください。

このグループは、僕より下の世代にはおそらく馴染みがないだろうと思う。むしろ『名前のない馬』で有名な America の方が知られているのかもしれない。そういう人々のために書くけれど、このグループは言ってみれば「元祖ウエスト・コースト」とでも言えばいいのだろうか。CS & N の初期に聞かれるアコースティックサウンドと、男声のみの美しいコーラスが非常に特徴的で、たとえばイーグルスなんかは彼らの影響をもろに受けているに違いないのだ。

で、この CS & N とか CSN & Y とかを演奏しようとして、ギターをよくよく聴いてみると、ギター弾きはしばしば愕然とさせられることがある。彼らの押さえているはずのコードが、自分のギターで押さえられない!……なぜかというと、彼らはいわゆる変則チューニングというのを用いるからだ。ギターのチューニングというのは、神聖にして侵すべからざるものでは全然なくて、特にカントリーの影響を受けている人達は、この変則チューニングというのを使うことが多い。その多くはオープン・チューニング(ギターの指板を押さえていない状態で各弦の音が和音を構成するようなチューニング)なのだけど、他にもダウン・チューニング(全ての弦を、多くの場合半音下げにしてチューニングする)とかドロップ・チューニング(何本かの弦だけを下げたチューニング)とか呼ばれるものがある。彼らはこれを用いることがあるので、そういう曲をカヴァーするのには、コードだけではなくチューニングも読み取らなければならない。

まあ、それらのチューニングでの演奏可能性に関しては、ちょっと考えれば分からないわけではない(これでも20数年ギター弾いてますからね)。しかし……うーん、チューニングの問題でもなさそうだ。「これどうやって弾いてるんだ?」

もう少し悩むと得るものも多いのだけど、今回は卑怯な手を使うことにした。YouTube で問題の曲が演奏されている動画をさがしたのだ……結果、坂崎幸之助氏がセッションで弾いている動画を発見、左手を見てみると……あー!なるほど、ここ開放で弾いちゃうのね。なるほど。

……まあ、楽器を弾いていると、こういうことはよくあるんですよ。昔だったらそれこそ先輩に聴いてみるとか、昔のロック・フォーク関連の雑誌をひっくり返すとか、レコード擦り切れるまで聴くとか、ラジオの深夜番組にハガキ書いてみるとかね。総力戦で調べるものだったのだけど、最近は安易な時代になったものだ、と、僕位の世代でも思ったりするのだった。

デジタルリマスタリング

最近、ちょっとある曲をカヴァーしようかと考えていて、音源をいくつか入手してごそごそやっている。この音源は1970年代初頭にレコーディングされたものなのだけど、ライブ音源のブートなどもいくつか存在するようで、そういうものも参考に聴いているところである。

こういう音源を聴くときには、できるだけ妙な加工をしないようにしたいところなのだけど、採譜しようとかヘヴィーローテーションで聴きこもうとかいう話になると、さすがにちょっと手を入れたくなる。そういうときにどうしているのか、を、ちょっとだけ書いておこうと思う。

まず、音源を入手したら、16 bit PCM、いわゆる WAV 形式に変換する。この変換にはSUPER ©というソフトを用いることが多い。この SUPER © というソフトは、画像・音声ファイル変換の最終兵器とでもいうような変換ユーティリティなのだけど、意外なほどに利用者を見かけない。非常に便利なのだけどなあ……

変換した WAV ファイルを Audacity で開いて、まずは FFT でスペクトル解析を行う。この段階で妙なピークやディップがないことを確認して、あった場合は補正の前段階としての EQ を行う。

次に、Cubase を立ち上げて、内容確認の終わった WAV 形式のファイルを読み込んで、補正に用いるプラグインを立ち上げる。ここで僕が使うのはBBE SONIC MAXIMIZER PLUG-INSonnox Oxford Dynamics、そして(本来なら Sonnox Oxford Dynamics だけで作業可能なのだけど操作上の問題で)Sonnox Oxford Limiterである。

BBE SONIC MAXIMIZER PLUG-IN は、ブートのようなテープ音源で埋もれてしまっていた音を、うまい具合に彫り出してくれる。かけ過ぎると当然ドンシャリっぽくなっていくのだけど、これとパラ EQ(Oxford のを使用することもあるけれど、Cubase 付属の4バンドパラ EQ を使用することが多い)を組み合わせることで、ノイズ以外の問題に関してはかなりの範囲で補正が可能である。そうやって補正した音源の音圧を、コンプとリミッターで上げていく。分解能を落とさないように音圧を上げ、音が硬くなった場合は EQ で補正する。これを 32 bit 浮動小数点の WAV ファイルに落としてから、再び Audacity で読み込む。

Audacity を使わなければ一連の作業ができない、というわけではないのだけど、Audacity には強力なリミッタープラグインである ”Fast Lookahead Limiter" があるのと、いつでも FFT で帯域を監視できるので、最後のマスタリングは Audacity 上で行う。最大音量の部分が -0.1 dB となるようにノーマライズして、音源の導入部と終わりの部分を整えて、16 bit,44100 kHz サンプリングの WAV ファイルに落として、作業完了である。

いわゆるデジタルリマスタリングとでも言うべき作業をしているわけだ。僕の場合はあくまで音楽をやる上での要請からこんなことをしているのだけど、自分で録音した音源のマスタリングもこれに類したようなプロセスを経ている(自分の音源の場合は BBE は使わないけれど)。まあ、道具があって、必然性があれば、こんなことは誰でもできることなのだけど。

というわけで、目下、こんな風にしてデジタルリマスタリングした音源を iPod に突っ込んで、何か時間が空くと聴いている、という状態である。何が出来るかは、乞うご期待……

こんな音です

昨日書いた12弦ギターだが、どんな音がするのかをちょっと公開しておこう:こんな感じである。朝一に寝ぼけて録音したので間違ってるのは何卒ご容赦の程を。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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