あまりやりたくないんだが
iPod の HDD がとんだ上に、環境移行時のバックアップ用 HDD までとんでしまい、僕の音楽鑑賞のための環境は無茶苦茶になってしまっている。これを、心身の余裕のあるときに少しづつ修復している……という話をすると、修復って何なんですか? CD 突っ込んだら終いじゃないすか、とか聞かれることがある。
本来、僕は巷で言うところのデジタルリマスタリングを行うのは好きではない。しかし、時々だけどやらなければならないことがないわけでもないのだ。その辺りのことは以前に書いた通りなのだけど、今回はまた、この面倒な作業をしなければならないことになった。
今回の音源は『ルパン三世 愛のテーマ』である。この曲、何をどう聞いても、明らかにエレキギターが松木恒秀氏である。水木一郎の歌入りの方も松木氏(氏のギターを知っている人ならご存知のフレーズが満載である)なのだけど、インストゥルメンタルの方が、良い意味で抑制が利いているし、アンサンブルも明らかにこちらの方が優れている。
そんな訳で、僕としてはこの曲は是非とも手元で聞けるようにしておきたいわけなのだが、残念なことに、僕の手持ちの音源はテレビ用にミックスダウンされているもの(それ以外の音源を御存じの方がおられたら是非御一報下さい)で、おそらく 1/4 inch・19 cm/s のメディアから起こしたものらしい。しかも、当時のテレビで再生されることを考慮してのものだと思うけれど、ほぼリバーブなしでミックスダウンされている。これは毎回聞くのが少々辛い。
ということで、まず WAV 形式でセーブしておいてから Cubase に取り込む。Nomad Factory BBE Sound Sonic Sweet に収録されている D82 Sonic Maximizer を立ち上げると……ふむ。やはりこの手のアナログ音源には劇的に効果がありますな。かかってるかどうか分からない位にかけるのがコツなのだが、操作パネルの ON/OFF で比較すると、効果は一目(一聴)瞭然である。低音も少し足してやって、そこに軽くコンプをかけると、埋もれていた楽器のひとつひとつが浮き出してくる。右のアコギと左のエレキ、そして左のパーカッションが不自然でない程度に明瞭になるようにコンプで調整する。
FX チャンネルに SIR2 を立ち上げて、EMT-140 のインパルス応答ファイルを読み込む。本物のプレートエコーと違って、いじることのできるパラメータはプリディレイ位しかないのだけど、前後に色々細工をして、プレートっぽい音(パーカッシブな音の直後に、リリースの遅いコンプみたいに立ち上がっていく感じ)の残響音を作る。このチャンネルへのセンドを調節して、エコーの量を決めていく。トータルエコーの後付けというのはかなり乱暴な業なのだけど、テレビ用でとにかくエコーがかかっていないので、残響音を吟味さえすればちゃんと乗ってくれる。
残響を乗せたところで、最後にコンプ、リミッター、そして EQ で調節する。この音源は、事前に FFT で解析した結果、11 kHz 辺りを不自然に持ち上げているのが分かっていたので、それを除去するように補正して、トータルのダイナミックレンジを揃えてやれば、音源の完成である。どんな風になるか、比較してみていただこう:
ちなみに、オリジナルの方の音源は録音レベルが低いので、いわゆる正規化をして聴感レベルをリマスタリング後に合わせてあるのだが、まあ、こんな感じである。本当はこんなこと、しないで済むに越したことはないのだけど。