視覚的理解の効能

何かと質問を受けることの多い今日この頃なわけだが、今度は高校生の数学の質問だった。

| x - 2 | + | x - 4 | = x を解け。

なんでも、数学 I という科目では、絶対値のついた方程式がよく出題されるらしい。うーん、丁寧に場合分けをするか、グラフでも書くかするかすればいいんじゃないの? と言うと、意味が分からぬらしくきょとんとした顔をされる。うーん……

| x - 2 | =
x ≥ 2 → x - 2
x < 2 → 2 - x
| x - 4 | =
x ≥ 4 → x - 4
x < 4 → 4 - x
だから、
| x - 2 | + | x - 4 | = x
x < 2 → (2 - x) + (4 - x) = x ...(1)
2 ≤ x ≤ 4 → (x - 2) + (4 - x) = x ...(2)
x > 4 → (x - 2) + (x - 4) = x ...(3)
と書くことができる。これらを解くと、
(1) x < 2 →
(2 - x) + (4 - x) = x
3 x = 6
x = 2 ……これは x < 2 に反するので棄却。
(2) 2 ≤ x ≤ 4 →
(x - 2) + (4 - x) = x
x = 2 ……これは 2 ≤ x ≤ 4 に属するので解。
(3) x > 4 →
(x - 2) + (x - 4) = x
x = 6 ……これは x > 4 に属するので解。
よって解は x = 2, 6 となる……と紙に書いてみるが、「ん? ん?」となってパニクってしまう。うーむ。ではこれならどうよ。

abs-plot-20130629.png
「y = |x - 2| ってのをグラフに書くと、y = x - 2 を 書いて、x 軸の下側を上側に折り返したものになるよな。だったら、このグラフの黒線になるだろう?」
「はい」
「次。y = |x - 4| ってのをグラフに書くと、y = x - 4 を 書いて、x 軸の下側を上側に折り返したものになるよな。だったら、このグラフの赤線になるだろう?」
「はい」
「では、グラフの黒線と赤線の y の値を足したものを考える。そうすると、x < 2 では傾き -2、x > 4 では傾き2、そしてその間では傾き 0 の直線になる……このグラフの青線のように。これが、y = | x - 2 | + | x - 4 |、だよな」
「はい」
「| x - 2 | + | x - 4 | = x の解、ってのは、この青線と、y = x の交わる点だよな。交わってるところでは | x - 2 | + | x - 4 | = x なんだから」
「……はい」
「じゃあ、y = x をピンクの線で書いて……交点の x 値を読めば、それが答だな。えーと…… x = 2, 6。これでいいよね?」

彼はまた「ん? ん?」と言いながらグラフを見直し始めたが……あー、分かりました、と呟いた。

まあ、いきなりこれに慣れるのも難しいか、ということで、次の問題をこの方法で解いてみてもらう。

| | x - 4 | - 3 | = 2 を解け。

うーん……となる彼に、
「まず、y = | x - 4 | のグラフを書いてみようか」

abs-plot-2-1-20130629.png
「……こ、こうですか」
「うん。じゃあ、それを基に y = | x - 4 | - 3 のグラフを書くとどうなる?」
「マイナス 3 って……どうしたらいいんですか?」
「3 引くんだから、3 下にずらしたらいいんだろう」
abs-plot-2-2-20130629.png
「……こうだよな。で、この | x - 4 | - 3 の絶対値ってことは、どうなる?」
「折り返すんですよね……」
abs-plot-2-3-20130629.png
「……こうですか?」
「そう。これで、y = | | x - 4 | - 3 | が書けたわけだ。で、これが 2 になるとき、ということは、y = 2 の線を引けば……」
abs-plot-2-4-20130629.png
「……こうですか?」
「そうそう。この赤線と青線の交点の x の値が解、ということになるわけだ」

彼は目を丸くして、しばしグラフに見入っていたのだった。

僕は、式だけでこのような式を解くときでも、このようなグラフをラフに書くのが習慣になっている。こうやれば見落しを防げるし、思いもしなかったことに気付くこともあるからだ。そして、高校生的には、このグラフにはもうひとつの大きな利点がある。解答用紙にこのグラフをちゃんと書けば、「上図より x = 2, 6 である」とか、「上図より x = -1, 3, 5, 9 である」とか書くだけで、このグラフ自体がそのまま解答になってしまうのだ。これは便利である。

このような視覚的理解というのは、一見、厳密な数学的理解を満たさないように見えるかもしれない。しかし、言葉を連ねるより図をひとつ書く方が、書くのも簡単だし、伝わる情報も多い。このようなセンスは理系には大事なものなのだが……もっと、脳ミソの力を抜かなきゃならないんだろうなあ、この子は。

2013/06/29(Sat) 12:14:05 | 科学

Re:視覚的理解の効能

コメント欄 殺されているか 調査。
guest(2017/07/09(Sun) 10:19:58)
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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