鳩山を見るにつけ
僕は基本的にはリベラルな方だと思う。しかし、だ。このところの民主党の政治に関しては、正直言って賛意を示しかねる。その度合いは、おそらく世間の多数派よりも辛口だと思う。
前にも書いたかもしれないが、一種、ああこりゃダメだ、と思ったのはあの「事業仕分け」のときであった。世間では、結果はどうあれ、初めて官僚の世界に民意のメスが入った、と評価する人が多いようだけど、あの仕分けははっきり言って何も前向きな結果を残していない。仕分けられた金額……「埋蔵金」だ、と大袈裟に言っていたけれど……は、目標が三兆円以上であったのに対して、平成二十二年度予算の概算要求圧縮額は6900億円。しかもその内容は、将来に向けての芽になるところから軒並み削って(蓮舫のスパコン予算へのコメントは、愚かな政治家の放言として歴史に残るに違いない)、これじゃああまりにあまりだから、と一部復活させて、それでこの体たらくである。お話にならないとしか言いようがない。
そして、昨日から騒ぎになっていた藤井財務相の辞任がいよいよ濃厚になってきた。後任として管直人氏の名前があがっているそうだが、そもそも藤井氏の辞任の陰には、藤井氏と小沢氏の不和があると言われているのだから、ここに小沢と最もウマが合わない管氏を持ってきても、収まりがいいわけがない。高齢とはいえ、元大蔵省出身の藤井氏が内閣を去ると、来年度の予算は更に迷走することになるだろう。その策定には、陳情などを背景として小沢が暗躍することははっきりしているのだから、小沢を丸め込める位の器量がなければ、財務大臣は務まらないのである。
かくして、政情はますます不安になっていくことが確定的な状態なのだけど、ここで発揮されるべき首相のイニシアチブがまるっきり見えないのが恐ろしい。とにかく、首相がこうあるべき、という方向を明示的に主張しなければ、連立内閣を背景にしたこの状況では何一つちゃんとすすまないのに、今の状況がどうなのか……なんでも、藤井氏に鳩山首相は「子供産んだんだから育てて」と言った、と伝えられている。子供というのは平成二十二年度の予算のことだと思うけれど、こんなことを言ったら「親はなくとも子は育つ」と切り返されるのは想像に難くないと思うのだが……そういうことも分からないのだろうか。
このような状況を見るにつけ、僕の中では、ひとりの政治家の顔が浮かび、鳩山氏の顔とだぶって見えて仕方がない。その政治家は……近衛文麿。戦前の日本で三度首相になり、三度その座を投げ出した人物である。
近衛は藤原家の末裔であり、天皇家とも縁深い。そしてその政治思想は、ファシズムの影響を強く受けたもので、三国同盟や日本の南進などは近衛の関わったものである。しかしながら、近衛は、実際に事を動かす力、決断力、そしてその責めを負うことに関してはとかく他人に頼るところが大きかった。自らの政治理念の実現のために軍部と接近したものの、第三次近衛内閣においては、日米開戦の責任は負えないということで内閣を放り出した。そして終戦後、日本国憲法との関わりで戦犯とされることを回避しようとしていたが、GHQ に見捨てられるかたちでA級戦犯になることが避け難くなったときに、青酸カリを呷って自ら命を絶ったのだった。
この2010年が始まり、もし年始の何か月かの間に強力な政治力を世に見せることができなければ、おそらく鳩山氏の存在は、民主党に隠然として権力を振う小沢の影で無力化してしまうことだろう。今回の財務大臣に関わるこの騒ぎが、その政治力が問われる最初の事件だと思われる。ここでちゃんとできなければ……もう日本もどうなってしまうか分からない。何とも救いのない年始ではないか。