『なぜ覚せい剤を使ってはいけないのか』再掲

警視庁渋谷署は2009年8月3日未明、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで、女優・酒井法子(38)の夫で自称プロサーファーの高相祐一容疑者(41)を現行犯逮捕した。高相祐一容疑者が逮捕されたのは渋谷の道玄坂だったのだが、夫に電話で呼び出されて現場に立ち会っていた酒井法子は、夫の逮捕後に長男と共に失踪(長男は後に都内で保護)、現在も発見されていない(追記:8日、警視庁に出頭し、逮捕)。

世間がこの失踪騒ぎで大騒ぎしているとき、僕は嫌な予感がしていた。

夫に電話で呼び出されて現場に立ち会っていた酒井法子が、捜査官に自らの手荷物の検査を任意で求められたのを拒否した。
という話を聞いていたからだ。これは……ひょっとすると、事件のショックだけではなく、自らが覚せい剤と何らかの関わりを持っていたのではないか?という疑念が、どうしても拭い去れなかったのだ。

そして今日の昼、警視庁は、酒井法子と長男の暮らしていたマンションを捜索し、微量の覚せい剤と吸引器具を発見した、とのことで、酒井法子(本名:高相法子)の逮捕状(覚せい剤取締法違反容疑)を請求し、発付された。僕の嫌な予感は、残念ながら見事に的中してしまったわけだ。

以下の文章は、某女優のご子息が覚せい剤取締法違反で逮捕されたとき (2007年11月21日) に SNS サイトである mixi で公開したものである。昨日の文章と重複する部分が多いが、現在 mixi 内でも簡単に読めない状況なので、ここに再掲しておく。


(original: http://mixi.jp/view_diary.pl?id=630428577&owner_id=546064)

先日、某女優の次男が覚せい剤所持で逮捕された。彼は高校生時代に一度、大学生位の頃(と書くのは彼がまともに大学生していたか判然としないから)、そして今回、と、実に3度目の逮捕ということになる。

覚せい剤の怖さを、まずは社会統計の数字で見てみることにしよう。平成18年度の犯罪白書によると、平成17年度における一般刑法犯検挙人員に占める再犯者の比率は、37.1 % (前年比 1.4 ポイント上昇)である。その中で、覚せい剤に限定して再犯者の比率を出すと……ちょっと古くなるが、平成14年度で 53.1 % (内閣府『薬物乱用防止新五か年戦略』より引用)という数字が発表されている。この数字で見ると、覚せい剤に手を染めた人の半分が、また手を出してしまい、その率は犯罪行為全体の中でも有意に高いということになる。

しかも、この1,2年の各都道府県の警察が発表している再検挙率は、この数字を更に上回っている。数字の多少の差異はあるものの、覚せい剤でつかまった人のうちの約 2/3 が再び覚せい剤に手を出してしまう、というのが、最近の現状なのだ。

では、なぜ覚せい剤でこんなことになってしまうのか。それは脳の神経の仕組みが深く関わっている。

脳の神経は、随所に一種の中継装置のような部分を持っている。これがシナプスというもので、簡単に書くと下のような構造になっている。

  −−−−−−−> >−−−−−−−
「−−−−」の部分が神経、「> >」で書かれた部分がシナプス(化学シナプス)と呼ばれる部分である。左から信号が伝わってくると、左側の>が「神経伝達物質」と呼ばれる物質を分泌する。右の>(受容体)がその分泌を検知すると、検知した伝達物質の量に応じた強さの信号を伝える……ざっくり書くと、まぁこういう仕組みになっている。

神経伝達物質としてよく知られているのは、睡眠などに関係するセロトニン、興奮などに関係するノルアドレナリン、ドーパミンなどがある。最後のドーパミンなどは、この伝達物質の中でも特に「脳内麻薬」という言葉で知られているから、耳にされた方も多いと思う。

このような仕組みに対して、覚せい剤がどのような影響を与えるかというと、覚せい剤を摂取することで、シナプスが過剰な量のドーパミンを分泌してしまう。そうなると、受容体は通常ありえない位の伝達物質にさらされて、通常ありえないほどの強い信号を伝達してしまう。だから、覚せい剤を摂取することで、いわゆる「ぶっとんだ」状態になるわけだ。被投与者は強い興奮と万能感に支配される。しかしそれは所詮は頭の中だけのことであり、実際には極度のそう状態になったり、常動行為(同じことを何度も繰り返す……『天才バカボン』に登場する「レレレのおじさん」というのは、ヒロポン中毒者がモデルだと言われているのだが、まさにあんな感じである)にはまるだけのことである。

そして、覚せい剤が切れてくると、ちょうど大きな音を聴いた後に小さな音が聞こえづらいのと一緒で、通常のドーパミン分泌に対しても、伝達される信号が小さくなってしまう。これはちょうどうつ病の状況に似ていて、先の興奮と万能感から一転して、強い抑うつ感にさいなまれる状態に陥るわけだ。この「天国から地獄にまっさかさま」という精神状態の変容と「覚せい剤さえあれば地獄を脱せる」という経験的認識が、他の麻薬にはない強い精神依存性を生むのである。

天国と地獄の間を覚せい剤で行き来していると、そのうちに、過剰な信号を受け続けたドーパミン受容体の機能が低下してしまう。これは、現在うつ病の原因とみなされている、ドーパミンやセロトニンなどの受容体の機能低下と似た状態である(もっとも、病気で機能が低下するのと、自らクスリでぶっ壊すのとでは大分話が違うわけだが)。だから、某女優の次男の場合も、ドーパミン受容体の機能が低下していて、そのためにうつ病と同じ症状を示していた可能性は高いと思われる。

彼の最大の過ちは、その状態を脱するためにまた覚せい剤を使用したことだ。覚せい剤の使用によって、受容体はどんどん傷ついていき、更なる精神の荒廃につながるのが確実だったわけで……覚せい剤に近寄らない(近寄れない)状態を維持して、覚せい剤使用の後遺症であるうつ状態を、抗うつ剤などで(受容体にこれ以上の負担を与えることなく)改善させるように周囲が認知・援助していれば、こんなことは防げたかもしれないのだが。

僕がなぜこんなことを書くか、というと、覚せい剤というものを知ることによって、そこから身を遠ざける必要性を知ってほしいからだ。覚せい剤の使用者や売人は必ずこう言う:

「このクスリは、ヘロインみたいな肉体的依存性はないから大丈夫だよ」
肉体的依存性が少ない、というのは、たとえば WHO などでも認めている事実である(覚せい剤の評価は(-)、ちなみにヘロインとアルコールはどちらも(+++)である)。しかし、先の精神的依存のメカニズムを考えていただければ、覚せい剤の依存性が強いことは容易に想像できる。先の WHO の評価では、覚せい剤の精神的依存性はカート(主に中東で用いられる植物抽出物)と並んで(+++)である。

そして、クスリの肉体的依存性と、その肉体に与えるダメージとは、決して対応するものではない。上述のような受容体の機能低下は、難治性のうつや統合失調症の原因となる。そして、覚せい剤の作用によって作られた「異常な」神経信号伝達経路が、あるとき突然、クスリを使っていないのに機能してしまうことがある。そう、これが「フラッシュバック」である。

そして、何十年も覚せい剤を使用し続けるとどうなるか……僕は幸いなことに、戦後のヒロポンブームから20年以上覚せい剤を常用していた人の記録映像を見る機会があったが、彼はもはや一桁の足し算すらできなかった。持って生まれた己が脳の神経のネットワークを、彼は覚せい剤でずたずたにしてしまったのだ。

覚せい剤の問題は、現在、極東エリアに限定された話ではない。現在、アメリカでは、風邪薬からエフェドリンを抽出して覚せい剤を密造・密売・使用することが大きな社会問題になっている。あの麻薬大国のアメリカが、現在もっとも手を焼いている薬物……それが覚せい剤なのである。

ま、お約束だが、上の説明を読んだ後ではこの言葉も違って聞こえるだろう。

覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか?

しつこいけれど、もう一度書く(少し新しい情報を含めて)。

  • 覚せい剤を使用した人間は、どれだけ悔いていてもその 2/3 がまた同じ過ちを繰り返す。
  • 麻薬大国のアメリカで今最も問題視されているのは覚せい剤である。
  • 覚せい剤の連用は、特にドーパミンに関わる神経細胞を器質的(=物理的)に壊す。
  • 覚せい剤の連用は唾液の分泌を抑制するため、容易く歯周病を患い、歯を失う。
  • 覚せい剤の影響は、神経の器質的変化により使用後も確実に残る。抑うつ状態は再び使用したいという欲求の大きな源となるし、フラッシュバックは本人や周囲の人々の命にも関わる結末に至らしめる。

2009/08/07(Fri) 12:36:27 | 科学
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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