「埋め立てない」の欺瞞

これも今更書くまでもないことだけど、鳩山首相が沖縄で動いている状況なので、ここにも書いておこうと思う。まず現状だけど、鳩山首相は、普天間の移転を完全に国外/県外にすることを断念し、一部を徳之島に、残りは沖縄県内とすることで各方面の了承を得ようとしているわけだ。

これに関しては、もはや笑うこともできない。そもそも、民主党には沖縄との交渉を根回しするパイプがないのだから、政権獲得後、可及的速やかに、鳩山首相は沖縄を訪れなければならなかったのだ。それを、ろくに沖縄とのパイプを築こうともせずに、首相自らがあやふやな言動に終始したものだから、話の落とし所がすっかり見えなくなってしまったわけだ。

そもそも、何故、沖縄にアメリカは海兵隊を置いているのか、を考えなければならない。海兵隊のミッションは、海を経由して陸上戦力の第一陣を送り込むことにあるわけだけど、このような部隊が、日本に対して機能する事態というのは、生じる可能性は高くない。そのような可能性の高いのは、東アジア地域においては、明らかに台湾と韓国なわけだ。だからアメリカは、この2国に対して仮想敵国(この場合は第一に中国、第二に北朝鮮ということになるだろうけれど、現状を鑑みるに、中国こそその仮想敵国だと言ってさしつかえあるまい)が侵攻した場合、即応ができる位置に海兵隊戦力を置いておきたいわけだ。しかし、台湾は表向きは国として正式の付き合いをしているとは言い難い状態だし、韓国に置くことは、中国に対して軍事的プレッシャーを増すということになるので好ましくない。だから、アメリカは台湾と韓国に近い沖縄に、海兵隊戦力を配備しているのである。

このような観点からみると、徳之島という場所がアメリカにとって承服し難いロケーションだということは想像に難くない。徳之島に移設するというのは、ここに断言するけれど、まず 100 % 無理だろう。もし可能性があるとすれば、海兵隊の陸上施設も全て込みで移転する、というのが考えられるけれど、当然ながら徳之島にはそこまでの土地はない。既存の海兵隊戦力と分裂させて飛行場だけを徳之島に移設することは、マスコミも既に取り上げている通り、大阪の人が琵琶湖辺りに駐車場を借りるようなものだ(ヘリの運用を考えた場合、通常装備では徳之島と沖縄を往復しただけで燃料を使いきってしまう……つまり、作戦行動など無理な話なのだ)から、米軍は納得しないであろう。

こんなことは最初っから分かっていたことである。そもそも自民党が、あれこれ場所を選んで検討した末の辺野古案なので、対案としては余程のウルトラCを狙うしかなかった。それは勿論、アメリカの東アジア防衛構想のかたちを変えるものになるわけだから、アメリカとの迅速な実務者レベルでの協議が行われなければならなかったのだ。鳩山首相がオバマ大統領を捕まえて10分話し合ったって何も進まないのである。必要なのは、10分のランチトークではなく、何十、何百時間もの実務者レベル協議(そしてその協議が実りあるものになるための政府内での事前協議が必要なのは言うまでもない)、それも鳩山内閣成立後、可及的速やかにそれが行われる必要があったのだ。

これは僕の想像だけど、民主党内は「ゴねれば何とかなる」と高を括っていた節がある。一番まずかったのは、政権交代後、どういうわけか、辺野古の環境アセスメントが着手される前に、辺野古案の関連業務をストップしてしまったことだ(後記:沖縄防衛局は2009年度で環境アセスメント完了と発表しているのだけど、この環境調査は複数年度を経たものではなく、判断材料としては極めて脆弱なものであるので、十分なアセスメントが成されたとは言えないのだ)。辺野古に守るべきものがあるならば、それに関して綿密なデータを以て主張することは不可欠なわけで、いくら反対派の妨害工作があったとしても、辺野古沖の環境調査を行わなかったことは、失策としか言いようがない。いや、むしろ、下手に辺野古案の環境アセスメントが終わってしまうと、代替案の環境負荷を検討したときに、実は辺野古よりも環境負荷の高いものばかりになってしまうのを恐れたんじゃないか、と邪推すらしたくなるというものだ。

で、今までの反論を収めることができないからって「埋立てより杭打ち」とかいう妄言を言い出した。これもお話にならない。そもそも、杭打ちで空港を作るという発想は、潮流への影響を最小限にすることで、空港周辺の主に漁業資源への影響を低減する、という考えの上にあるものだ。空港施設がたとえ杭の上に建てられたとしても、空港は海への日光を遮る。サンゴは植物性プランクトンと共生関係にあるから、光合成ができないとサンゴはやはり死んでしまうのだ。繰り返すけれど、「埋立てより杭打ち」が、沖縄のサンゴやアマモ(ジュゴンの餌で、今回の辺野古案で問題があると言われている原因)の環境を保護できるなどというのは妄言である。もし、いやそんなことはない、と言うならば、環境アセスメントを行うべきだし、それは今からでは到底間に合わないのだ。

つまり、五月末に結論を出す、というのは、実は無批判に自民党/自公政権の辺野古案を踏襲することと、大同小異の愚策だとしか言いようがないのだ。もし本当に、沖縄の人と自然を守ろうと志すならば、アメリカの東アジア防衛戦略に関わるかたちでの外交が行われるべきだし、それと並行した環境アセスメントが行われるべきで、それは鳩山政権成立後、可及的速やかに着手されるべきことだったはずだし、首相と大統領のランチトークではなく、綿密な実務者レベルでの協議の末に両者合意を得なければならないはずのものなのだ。それを怠った時点で、もうこの話はどうしようもない代物になっていたわけで、今更何をホタえてるんだ、としか言いようがない。

2010/05/04(Tue) 13:47:14 | 社会・政治

Re:「埋め立てない」の欺瞞

ご指摘の通りだと思います。私が民主党鳩山政権に唯一期待していた「最低でも県外」は全くなくなりましたねえ。結局自公案の修正で乗り切るつもりなんでしょうねえ。今度の政権交代も失敗ですねえ・・・。
guest(2010/05/04(Tue) 17:29:38)
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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