タイムスタンプの改ざん

郵便不正事件:検事が押収品改ざん FD更新日を変更』(毎日 jp 2010年9月21日 10時34分(最終更新 9月21日 13時54分))このニュースは、朝日新聞の今朝の朝刊におけるスクープだったようだが、ここではこの毎日新聞の記事を保存用に引用しておく:

厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)に無罪判決が言い渡された郵便不正事件で、大阪地検特捜部の前田恒彦主任検事(43)が、証拠品として押収したフロッピーディスク(FD)の更新日時を改ざんしていたことが分かった。このFDは09年5月26日、特捜部が厚労省元係長、上村勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=の自宅から押収した。同地検の事情聴取に前田主任検事が「FDの日付を変えた」と認めているという。最高検は21日、証拠変造などの疑いもあるとして異例の捜査に乗り出した。

FDには、上村被告が作成した偽証明書のデータが保存され、押収時点の最終更新日時は「04年6月1日午前1時20分」だった。ところが弁護側が上村被告に返却されたFDを調べてみると、この更新日時が「6月8日」に書き換えられていた、という。

検察側は、村木元局長が04年6月上旬ごろ、偽証明書の作成を部下だった上村被告に指示したと主張。しかし、大阪地裁は、弁護側の請求で改ざんされる前のFDの更新日時を記した捜査報告書を証拠採用。その記載などから、10日の判決で、偽証明書を「5月31日深夜から6月1日早朝までに作成された」と認定、検察側の構図を否定した。

書き換えられたFDの現物は結果的に証拠採用されなかったが、主任検事が検察側の構図に合うように改ざんした可能性がある。同地検の事情聴取に前田主任検事は「FDの日付を変えた」と認めたという。

刑法は、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅、偽造、変造する行為について、2年以下の懲役または20万円以下の罰金を科すと定めている。【久保聡、村松洋】

◇「大変なことだ」 柳田法相

柳田稔法相は21日の閣議後会見で「最高検の捜査の行方をしっかり見守りたい。大変なことだという感じを受けており、真実であれば到底許されない行為だ」と述べた。

◇「きちんと検証を」 村木元局長

村木元局長の話 報道などで「ずさんな捜査」と指摘されてきたが、こんなことまで起こっていたのかと、本当に驚いている。検察はこの問題を能力と職業倫理の問題ととらえ、きちんと検証してほしい。

【ことば】郵便不正・偽証明書事件 実体のない障害者団体「凜(りん)の会」に、郵便料金割引制度の適用を認める偽証明書を作成したとして、村木厚子元局長ら4人が虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた。村木元局長は04年6月上旬、厚労省元係長の上村勉被告に偽証明書の作成を指示したとして、逮捕、起訴された。検察側は、有力国会議員の口利きで厚労省が組織ぐるみで偽証明書を作成した、との構図を描いたが、公判段階で上村被告は偽証明書は単独で作成したと証言。他の厚労省職員らも村木元局長の関与を否定し、今年9月10日、大阪地裁が村木元局長に無罪判決を言い渡した。

さて、僕は最初にこのニュースを見たときに「へ?」と思ったのだった。ここをお読みの方の多くがご存知だと思うが、僕は普段 Linux をメインの OS として使っている。Linux に限らず、いわゆる UNIX 系の OS、というか、コマンドセットにおいて、ファイルの更新日時……要するにタイムスタンプだが……を更新するのは実に簡単で、OS の標準コマンドセットに入っているtouchというコマンドを使えば一発でできてしまう。たとえば、foo.txt というファイルの最終更新日時を 2001年02月03日04時05分に変更するのだったら:

touch -mt 200102030405 ./foo.txt
としてやればいい。だから、僕のように UNIX 系の OS を使用している人間だったら皆こう言うことだろう:「タイムスタンプに証拠能力?そんなバカな!」早い話が、そもそも証拠物件としてのリストに入れること自体不毛だということで、もし僕が検事だったら、戦略としてこんなものは端っからリストに入れたりしないだろう。

今回問題になっているファイルは、官僚が作成した文書ということで、一太郎形式のファイルである可能性が高いのだけど、一太郎形式や Microsoft Word 形式のファイルの場合は、更新履歴にタイムスタンプに関する情報が残っていて、OS 上でタイムスタンプを更新しても日時情報が残存することが多い。しかし、これだって、手っ取り早く、時計情報を望む日時に合わせたコンピュータ上で改めてファイルを作成してしまえば簡単にごまかせる。そういう意味でも、タイムスタンプにそこまでの証拠能力を求めることは不毛だと思う。

……と、ここまで書いていて、何やら僕が不法なことでもしているかのように誤解される方がいるかもしれない、と思ったので、老婆心ながら書き添えておくけれど、タイムスタンプの変更というのは、システムの運用においてはしばしば行われているものなのだ。たとえば、あるデータファイルを外部のコンピュータから持ち込んだとき、その外部のコンピュータの時計が狂っていて、ファイルのタイムスタンプが未来になってしまっていることがある。そのファイルを扱うプログラムが、内部処理にファイルのタイムスタンプを使う仕様になっているとき、在り得ない「未来に更新されたファイル」が異常終了の原因になったりすることがある。こういうときの問題を回避するために、僕達はこの touch コマンドを使用するわけだ。強調しておくけれど、これは極めて普通のことである。

僕は手元の Windows にもGNU utilities for Win32を入れているので、Windows であっても touch コマンドを普通に使用している。そういえば、Windows というか、DOS 由来のコマンドセットでタイムスタンプの更新ってできなかったっけ……あれ?できない、か?と調べてみると……そうか、確かに、何もなしで Windows 上でタイムスタンプを書き換えるのはできなかったかもしれない。

これは勿論何らかのユーティリティを使えば造作もなくできてしまう。たとえばvectorの「トップ → ダウンロード → Windowsユーティリティ → ファイル管理 → タイムスタンプ・属性操作」を見れば、その手のことが可能なフリーウェアが山のように公開されているから、この中で用途に適合したものをダウンロードすれば、誰でもタイムスタンプの書き換えはできるわけだ。

ただし、だ。今回のタイムスタンプ改ざんを行ったとされる大阪地検特捜部の前田恒彦主任検事は、こう供述しているらしい:

「改ざんが見つからなかったので日付を変えるソフトで遊んでいたら、フロッピーディスク内のファイルの日付が書き換わっていたようだ」

いやそれ絶対有り得ないから。それともアンタ徹夜仕事してたら小人でも出てきたんか?ユーティリティ入れてその端末で証拠物件のフロッピーディスクにアクセスしてた時点で、何らかの意図があると見做されても仕方ないだろうに。そもそも証拠物件のリストにこのフロッピーディスクを入れた時点で、検察側も、このフロッピーに一切書き込みが不可能であることを第三者に保証された環境下でだけアクセスしなければならなかったのだ。もし、万が一、前田氏の主張が正しかったとしても、そのように扱わなかった時点で、誰もその主張を信用などするはずがないのだ。

もし、今まで報道されていることがが事実なら、こんなお粗末な話はない。もともと地検特捜部というのは、その発祥が、戦後日本で検察庁が権益を維持するために設立した、旧日本軍の闇物資を摘発して GHQ に渡す業務を行う「隠匿退蔵物資事件捜査部」で、これは当時の GHQ 内部でもその設立時に不要論が出ていた、と言われているのだ。これが社会に認知・許容されているのはただただ「社会正義の最後の砦」という認識、そしてそれを志向する行動があってこそ、であって、このようなお粗末な改ざんを本当にしていたのならば、地検特捜部の存続に関わる一大事なのである。大丈夫かいな、地検特捜部さんよ?最高検察庁が動いたって、身内相手に厳しく取り調べられるはずがない、と皆思うだろう。検察組織は法務省事務次官の直下にぶら下がった組織だから、副大臣クラスが中心になって特別調査委員会でも作らない限り、誰も取調べ結果を信用してくれないと思うけど。

2010/09/21(Tue) 18:33:38 | コンピュータ&インターネット
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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