機械翻訳という幻想

僕は、現役時代は京大志望だった(ただし、高校在学中は成績がさっぱりで、僕の学力はその大半が浪人時代に培われたものだったのだけど)ので、京大の入試過去問というのは、入手できる範囲内で全て解いた。当然、駿台などの模擬試験でもガシガシ解いていた。だから分かるのだけど、今回摘発された浪人生の不正が表向き発覚しなかったとしても、あの学生は京大には合格できなかった。これは推論ではなく、事実として断言できる。

彼の質問はまだ保存されている。以下にリンクを示す:
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1256314487

楽しいはずの海外旅行にもトラブルはつきものだ。たとえば、 悪天候や自然災害によって飛行機が欠航し、海外での滞在を延ばさなければならないことはさほど珍しいことではない。いかなる場合でも重要なのは、冷静に状況を判断し、当該地域についての知識や情報、さらに外国語運用能力を駆使しながら、目の前の問題を解決しようとする態度である。
これに対して、浪人生がベスト・アンサーを付けた解答がこうだ。

Problems should be fun to travel abroad is inseparable. For example, a canceled flight, weather and natural disasters that have extended stay abroad is not so uncommon. In any case important to calm the situation, knowledge and information about the area, while making full use of foreign language proficiency in addition, is the attitude of trying to solve the problem before him.

こんな感じでどうでしょうか?

直訳すぎたかな?

まあ、少しでも英語を読み書きしている人間なら、これを見て「あ〜」と声をあげて「イテーなぁ」という顔をするだろう。どういうことかは、この文章を google 翻訳にかけてみるとすぐに分かる。
Problems should be fun to travel abroad is inseparable. For example, bad weather and natural disasters, canceled flight, you have to stay abroad 延Basanakere it is not so uncommon. In any case important to calm the situation, knowledge and information about the area, while making full use of foreign language proficiency in addition, is the attitude of trying to solve the problem before him.
上記強調部が先の訳と全く同じであることがお分かりだろうか?google 翻訳では「延ばさなければ」という部分を翻訳できていないわけだが、そこを含めてちょろちょろっと直しただけで答えているのが明白である。しかし、だ。"Problems should be fun to travel abroad is inseparable." って何よ?こんな文章、英語を使う人間だったらまず書かないと思うんだけど。

「楽しいはずの海外旅行にもトラブルはつきものだ。」という文章を英語に直すとき、このままの構造で英語に無理矢理直してもニュアンスは伝わらない。まずこの文章を、英語の文法にフィットするかたちに書き換える必要がある。たとえば「海外旅行は楽しいものだけど、しばしば旅行中にトラブルが発生することがある」というように、だ。こうすると、たとえば "Overseas trip must be fun though we often meet with trouble during that." とか書くことになるんだろう。「つきもの」にどうしても拘るなら、inevitably とか使う、ということになるんだろうけど、海外旅行で何が何でもトラブるわけではないんだから、僕なら inevitably とか使うことはないだろう(あえて、と言われたら frequently かなあ)。

そもそも「機械翻訳」というものが、これ程までに過信されているのか、と考えると、実に恐ろしい。なぜこんなことを断定的に言えるか、というと、僕等の業界関連団体のひとつである科学技術振興事業団(JST)・情報事業本部(かつての JICST)では、以前から文献情報速報を機械翻訳で生成する試みをやっていて、ようやく最近は使いものになる出力を出せているのだけど、それだって「あーはいはい機械翻訳だからねえ」と呟きつつ読むような代物であることを、よーく知っているからだ。そもそも、コンピュータを使っている人々の間では、もともと翻訳ソフトというのは「パーティーグッズ」扱いだった。たまに見かけると、人工無脳みたいな出力を出す文章を探しては皆でネタにする、そういう代物である。

で、僕が今回許し難いと考えるのは、そんな訳を Yahoo!知恵袋で求めた浪人生ではない。その質問に答えたdestination_kly_everなる人物をはじめとする、このような無責任、かついい加減な回答をした人々である。テレビに出て「こちらがまじめに答えているのに」というようなことを、一体どの口が言えるのか。中一から英語をやり直していただきたい。他人にいい加減なことを教えて調子に乗るのもたいがいにしていただきたい。

2011/03/06(Sun) 12:05:37 | 社会・政治

Re:機械翻訳という幻想

不思議なのが、この機械翻訳丸出しの答を投稿した人物があちこちの報道番組でコメントしているのね。「いやあ僕オランダに住んでたことがあって、英語は自分でも得意な方だと思います」とか言ってたんだけど、なんだかねえ……
Thomas(2011/03/07(Mon) 09:52:25)

Re:機械翻訳という幻想

確かに意味のわからん訳になってますね。。いかにわかりやすくシンプルに、、、"Overseas trip must be fun though we often meet with trouble during that.  こういうことですねぇ。うまくてニヤリとしました。
おうむ(2011/03/06(Sun) 13:39:30)
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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