for someone's eyes only
ネット上で自力でサーバの管理を行っていると、人間というのが必ずしも性善説的行動をするわけではない、ということを思い知らされるものだ。僕の場合も、最近では『新しい中傷手法』『新しい中傷手法(2)』で書いたような問題があったり、とか、fugenji.org の index page に色々書き込まれたり(これは半分は我々のミスなのだけど)……まあ、色々あるわけだ。そういうことがあるから、いくつかの解析用スクリプトを用いたログファイルの解析、そしてその基本となる時刻管理(NTP で時計を正確に合わせておかないと、せっかくのログファイルも証拠能力が半減してしまう)は習慣としてやるようになっているわけだ。
fugenji.org では apache を使っていて、ログを定時に取得してスクリプトで解析した結果を見ることができるようになっている(というか、している)。これを見ていておかしなことに気付くと、生のログを取得して、その場で必要に応じて書いたスクリプトで細かい解析を行うのだけど、日常の管理においてはそこまでする事態に至ることはまれだ。
朝起きると、未明に生成された解析結果に目を通すのが日課になっているのだけど、ここ1、2年の間、ちょっと気になるものが多くなってきた。referer に残っているリンク先を確認しようとしても、確認できないケースが増えてきたのである。
確認できないケースのほとんどは:
- 「はてな」の日記でプライベートモードに設定されているもの
- livedoor の SNS(なんだよねこれって? mixi のインフラと同じものを使っているようだが)
- 大学の研究室で所属メンバー用にパスワード認証をかけているページ
まあ、ネット上で、会ったことも話したこともない人物に何事かを書かれる、ということを体験したことのない方は、「上田は何を下らないことを気を病んでいるのか」と思われるかもしれない。しかし、こういうことで面倒な事態に至った経験が複数回数あるからこそ、こういうことを気にかけているのである。
もう十数年前の話になるが、僕が『WWW ページでの個人情報公開について考える』を書いて間もない頃のこと。当時、朝日新聞で、ネット上での個人のトラブルに関する連載をしていて、たまたまその連載に関する意見をメールで送ったところが、朝日新聞社の取材を受けることになった。メールでインタビューのフォームが送られてきて、それに対して色々書いたものが掲載されたわけだが、その掲載直後、当時のサーバに対して、神奈川県の某大学のページを経由したアクセスが急増した。
当時の web サーバも apache で、当然 referer でその某大学のページをチェックして読んでみたわけだけど、「こいつは web ページ = ホームページと思ってるらしいぜ」みたいなことが書いてあった。へ? いやいや、僕は普段からそれに関しては注意していて、 index になるようなページ以外をホームページなんて書いたことはないんですけど……で、当時東京にいた知り合いにお願いして、問題の新聞記事をスキャンしたものを送っていただいた(東京版だけに掲載されていて、当時の僕は吹田に住んでいたので)。すると……おいおい、僕が書いた文章の「web ページ」という単語が全て「ホームページ」に書き直されているではないか!
思い切って、その神奈川県の某大学のサイトのオーナーにメールを送ってみることにした。感情的にならないよう、事の経緯を書いた上で、このネット上の文書は何とかなりませんかね……と書き送り、返事を読んでみると、どうやらそのオーナーは大のアンチ朝日らしい。で、「あなたも朝日の記者にやられましたね」「経緯が分かりましたので、私の方のページの方は対処しておきます」と書かれていた。うーん……なんだかなあ。そういうことに僕を巻き込まないでほしい、とも思ったが、まあ対処してもらえるならこれ以上噛み付く必要もなかろう。しかし、何故こんなことになるんだ?
後で分かったのだが、朝日新聞社では、記事に出てくる term はいちいち内部の「用語集」と照らし合わせ、用語集と異なる単語は全て用語集に収録された term に置換されるのだという。いや、そりゃ記者が書いた文章でそんなことをするのはいいんだろうけれど、社外の人間の書いた文章に断りもなくそんなことをするとはどういうことなのか。こちらが間違った term を使っているならまだしも、逆に間違った term に置換されるんじゃたまらない。
僕は朝日新聞社の記者宛にメールを書いた。いいですか、野球で、1塁や2塁のベースを「ホームベース」とは言いませんよね、home position にあるベースだから「ホームベース」って言うんですよね、web のページも一緒なんです、home position にあるページだから「ホームページ」って言うんですよ、それを何でもかんでも「ホームページ」って書き換えられたのではたまりませんよ、ほら、こんな風に糾弾されてしまいましたよ……しかし、その記者は僕のメールを完全にシカトしたのだった。
……という具合に、いつ、何がどこでどんな風に、それもこちらの意図しないかたちで提示されているか、分かったものではないのである。そして、僕は手段として、そういうリスクを内在したメディアを使い続けている。使い続けている以上、リスクに対する備えはしておかねばならぬ。そういうことを、あのとき僕は実地で学習したのであった。
そんなわけなので、もし僕の書いたコンテンツを private な場所でリンクされた方、あるいはこれからしようとされている方がこれを読まれていたら、リンクする前にこっそりメールで教えて下さると幸いです。