玄米食礼賛

普段食べる米を玄米にしてからもう大分経つ。子供の頃、剣道の道場で一緒に練習していたT君の家で玄米を食べていて、一度T君のお母さんから握り飯を貰って「うわーこれはよぉ食わんわ」と思ってしまったのが、唯一の玄米へのトラウマだったのだが、これはもはや完全に払拭されている。

あの日T君のお母さんから貰った握り飯がマズかった(ああ、はっきり書いてしまったけれど)のにはいくつかの理由がある。あの味から推測される、そして「玄米食はマズい」と思われている人が大抵陥っている問題は、

  • 保存が悪かった
  • 吸水が不十分だった
  • 炊き方が悪かった
の3つである。これを改めれば、冷や御飯であっても玄米は美味しく食べることができるのだ。

まず、味云々の前に、ひとつ考えてみていただきたいことがある。どうして米は、玄米として流通するのか、ということである。最近は籾を付けたままで、お米屋さんで脱穀からするケースも多いけれど、そうなる以前、お米屋さんで仕入れる米はたいがい玄米のかたちで流通し、お米屋さんは精米からの処理を行っていたものである。なぜ、米は精米した状態で流通されなかったのか。

答は簡単で、糠を付けておくことで米の味の劣化が防げるから、である。皆さんご存知の通り、米糠には油が含まれている。この米糠の脂質には、抗酸化作用を持つ成分が豊富に含まれている。これらの成分が内部の酸化を防ぐ(身代りになって自ら酸化されてしまうわけだが)ので、米は糠を付けた玄米の状態で流通していたのである。戦時中まで米が一種の通貨のような機能を果たしていたという歴史的事実は、米糠のこのような効能があってこそのことなのである。

しかし、その米糠も一緒に食べるとなると、糠を犠牲にするわけにはいかなくなる。糠を含めた米の酸化を防ぐためには、それ相当の貯蔵をして、脱穀後あまり経たないうちに食べる必要がある。また、脂溶性の物質が残留しやすいということを考えると、農薬に関しても、白米よりは気を遣う必要があることは想像に難くない。

最近は、日本における米の貯蔵は冷蔵保存が当たり前になっている。だから、後は農薬と、脱穀してからの時間の問題、ということになる。こういうことを考えると、玄米を食するならば、脱穀を行っていて、米の生産状況を把握しているお米屋さんで購入するのが、最も望ましい、ということになる。最近はスーパーでも玄米を売っていることが多いけれど、こういう問題があるために、僕の場合は近所の米穀店で減農薬栽培の米を買うことにしている。

玄米を食べている、という話になると、「炊き方が大変で」という声をよく耳にするのだけど、ここで声を大にして言いたい。玄米を炊くのは非常に簡単である、と。いやそんなことないでしょう、うちの炊飯器では……とお思いの方。あれにダマされてはいけないのですよ。

近頃は、何でも付加価値というものが要求される。白物家電の中でも最も歴史の長いもののひとつである炊飯器でもこれは同じことで、そのために「玄米モード」として設定されているもののほとんどが、いわゆる発芽玄米を作って炊くためのコースになっている。そりゃあ、発芽するまで待たなきゃならないなら、確かに玄米を炊くのは大変である。市販の炊飯器の説明書にも、水を入れて12時間……とか書いてあるんでしょう。しかし、そんなことでは一般家庭で玄米が炊ける筈がないのだ。

困ったことに、一般社団法人日本発芽玄米協会 なる組織があって(ああ、農水省の天下りの臭いがプンプンしますねえ)啓蒙活動に励んでいるおかげで、発芽させない玄米にメリットがないかのように思い込んでいる方すら見かけるのだけど、それで玄米食に手を出しかねている、というのでは本末転倒である。ここに断言するけれど、発芽させなくとも、ビタミン B と繊維質を豊富に含んでいるだけで、玄米を食べるメリットは十分過ぎる程あるので、発芽にそう拘らないでいただきたい。

では、どうやって炊いたらいいのか。実は、圧力鍋を使うと非常に簡単に炊くことができる。以下に炊き方を書いておくことにする。

まず洗米だが、白米と違って糠を除く必要がないので、そう神経質にする必要はない。玄米には籾が混入していることがよくあって、これが口に触ると強い違和感を感じるので、白米より多めの水を入れ、攪拌し、水流がゴミを捉えている状態で水を捨てる、というのを、2、3回行えばよろしい。あまり神経質に米を研いでも意味がないので、簡単に考えていただきたい。白米の場合は、最初の水を米が吸水するので、最初に研ぐときには気をつける必要があるわけだけど、玄米だから(米が糠を吸っても一向に構わないのだから)何らそういう配慮も必要ない。

洗米が終わったら、米全体が十分浸る位のぬるま湯(夏なら普通の水で何ら問題ない)を張り、そこに塩をひとつまみ入れて攪拌し、完全に溶解させ、そのまま1時間放置して吸水させる。時間のないときだったら、3、40分でも大丈夫だろう。

吸水が終わったら、一度笊で水を完全に切り、これを圧力鍋に入れる(僕は無精なので、ここまでのプロセスを圧力鍋の中でやってしまうわけだが)。そこに、米の体積の1.3倍(僕は少し多めにするのが好みである)の水を入れ、蓋をして火にかける。蒸気が出てきたら、弱火で 13 〜 14分程度炊いた後、火を止めて、そのまま安全弁が開くまで蒸らしておく。圧力が抜けたら蓋を開け、全体を切るように軽く混ぜ、更に数分蒸らせば出来上がりである。

唯一面倒なのは、米を1時間吸水させるということだろうか。しかし、12時間とか24時間とかいうのに比べれば遥かに簡単だし、米を研ぐのはむしろ白米よりも簡単である。水の割合だけ覚えておけば、あとは時間調理だから、圧力鍋とクッキングタイマーさえあれば誰でもできるのである。

こうやって炊いた玄米は、全然パサつかないし、冷えても臭いなどが気になることはない。保存する場合は、冷蔵・冷凍時に水分が抜けやすいので、ジップロックの容器やラップなどできっちり密閉して、食べる直前に電子レンジで温めるだけでいい。

本当に、これだけのことなのである。是非皆さん、もっと玄米を食べてみていただきたい(特にカレーとの相性は絶妙である)。僕はもう、「えー、玄米食べてるんですかぁ?」と言われるのに、すっかり飽きてしまったのだ……

2012/09/24(Mon) 17:44:46 | 日記
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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