赤信号……
「赤信号みんなで渡れば怖くない」というのは、ツービート時代のビートたけしがネタにしていた、実に秀逸な標語である。当時、この手のネタに使われていた標語は「毒ガス標語」と呼ばれていたのだけど、今読み返してみても、この「毒」は実に秀逸だと言わざるを得ない。
勿論、「赤信号なのに渡ってしまう」という発想の暴力的な逆転がこのネタの肝なのだけど、そこに「みんなで」という言葉を入れたことこそが、この「毒」を極上のものにしている。人は、禁止されている行為であっても、皆がやっていたら何となくやってしまう。特に日本人はその傾向が強い。「赤信号を渡るなんて馬鹿か子供のすることだ」とすましている良識派を気取った連中も、この「みんなで渡れば」という言葉の追及を逃れることはできない。無思考・無責任なマジョリティであることに甘んじている人々をドキリとさせる「毒」だからこそ、この毒ガス標語は今に至るまで残っているのだろうと思う。
さて、僕がこんなことを書く理由は、ここをお読みの方々にはもうお分かりのことと思う:
超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(会長・尾辻秀久前参院副議長)のメンバー168人(同会事務局調べ)は23日午前、東京・九段北の靖国神社を春季例大祭に合わせて参拝した。
内訳は自民党132人、民主党5人、日本維新の会25人などで、同会によると一斉参拝の人数としては統計がある1989年以降、最多。山口俊一財務副大臣ら副大臣6人、政務官5人も参拝した。
一斉参拝に参加した自民党の高市政調会長は参拝後、記者団に対し、韓国の尹炳世外交相が麻生副総理らの靖国参拝を理由に訪日を中止したことについて「日本の国策に殉じて尊い命をささげた方を、どのように慰霊するかは日本国内の問題だ。外交問題になる方がおかしい」と述べた。
(2013年4月23日10時44分 読売新聞)
靖国参拝に関しては様々な意見があるわけで、僕自身もここで軽々に賛成だの反対だの言うつもりはない。僕自身はカトリックであることと、靖国に合祀された戦死者の中には僕と同じカトリック信徒もいたはずなので、問答無用十把一絡の合祀にも、それに付随する「日本人なら当然だ、納得できないなら日本から出ていけ」的な脊髄反射的コメントに対しても、強い不快感を感ずるのだけれど、それ以前に、この「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」なる会の存在に、僕は強い強い不快感を感ずるのだ。
国会議員というのは、選挙区の有権者の代表である。主義主張の異なる民草の声を代表する公人なのである。だから、そういう公人の言動や行動は、決して人一人のものではない。それはその背後にある人々の存在や思想を背景とした、それ相応の重みを持つものなのだ。そして、その内容と根拠について説明をし、何らかの責任を問われればそれに応えなければならない、という重みを持つものなのだ。
昨今の対中・対韓問題を抱え、その上で尚靖国に参拝するのなら、個々の議員が、それに対する批判を負わねばならないはずなのだ。それを、168人で参拝して、いい顔をしたいところではいい顔をして、個々人としての責任を問われても数を以て突っ撥ねる、など、傲慢にも程があるというものではないか。参拝したいなら止める義理はない。しかし、なぜツルむのか。個々人で参拝したら、個々人で責めを負いかねるからツルんでいるだけなんじゃないのか。そんな根性の連中が、何が国会議員センセイでござい、だっての。つくづく下らない連中ではないか。