TeX Live 2013
何日かぶりに TUG のページを見て、ついに pretest が完全終了して TeX Live 2013 が正式リリースになったことを知った。いやー、これでとりあえずは手元も安定するなあ。
2013 には、いくつか便利(とされている)なラッパーが入っているわけだけど、その中でも最近使っている人が多いらしいのが ptex2pdf である。これを僕のコンテンツで紹介するかどうか、ちょっと考えたのだけど、やめた。このラッパーの存在意義をあまり感じないからだ。
ラッパー wrapper というのは、この場合は、煩雑な複数のプログラムの組み合わせをひとつに「包んで」提供するユーティリティを指す。ptex2pdf の場合、それ自体は texlua で書かれたスクリプトで、ptex / uptex, platex / uplatex と dvipdfmx を一度の入力で適切に動かして、最終的な PDF 文書を出力するようになっている。こう書くと、さぞ便利そうに聞こえるわけだけど、果たして本当にそうだろうか。
いや、インストールしたままで、あるいは、tlptexlive の流儀に従って全てが整えられていれば、そういう恩恵を受けられるのかもしれない。しかし、僕の場合は、フォントの埋め込みをするかしないか、によって、複数のフォントマップを常に使い分けている。また、これも場合によって A4 と A5 と B4 という複数種の紙のサイズを使うし、縦横も変えることがある。こうなってくると、「デフォルトの設定をこれにしておけば後はオッケー」というような使い方は、小回りがきかない分苦痛を生むだけなのだ。
しかも、横書きでルビを使わない文書に関しては、パッケージの対応に関する問題がない限りは LuaTeX で扱うことが多くなってきた。そうなると、もはやこんなラッパーははなっから必要ないのである。
僕は何も「だからこんなものは消えるべきだ」などと暴論を展開する気はない。おそらくこのラッパーは TeXworks での利便性を確保するために書かれたのだろうから、そういう向きの方々は便利に使っておられるだろう。しかし、僕は教育的見地から統合環境を他人に積極的には薦めないし、自分でも使う気はない(vi や Emacs 以外で書く気にはなれない)。だから、おそらくこれからも ptex2pdf を使うことはないだろう。
ひとつ厭なのは、それを使う必要がないのに、たとえば TeX Wiki におけるコマンドの例を片っ端から ptex2pdf を使うように書き換えている輩がいることだ。そんな必要ははなっからないし、それは各プロセスでのトラブルの切り分けを意識させなくしてしまう。あれを見る度に「馬鹿の一つ覚え」という言葉が頭をよぎるわけだが、そういうわけで、『TeX Live を使おう──Linux ユーザと Mac OS X ユーザのために──』では ptex2pdf に関して特に言及する気はない。そのことだけここに明記しておくことにしよう。