「ねぇ、何か買ってよ」
知り合いの中学生の子供がいる。野球部に所属しているそうなのだが、僕に会う度に、
「ねぇ、何か買って」
と言う。僕が色良い返事をしないでいると、
「あのさあ、俺、昨日試合があったんだけど」
「ほお。で、どうした」
「俺、先発で、コールドだったけど、完封勝利」
「それはよくやったなあ」
「でしょう?だから、何か買ってよ」
とうとう、僕の堪忍袋の緒が切れた。
「あのなあ、君は、野球頑張ってるんだろ?」
「そうだよ」
「だったらさ、その頑張った結果をどうしてそんなに安売りするんだ?」
「安売りって?」
「君は努力してその結果を得たんだろ。その努力は誰の為の努力だ?」
「俺の為」
「自分の為に努力して勝ち得たものを、君は平気でモノと引き換えにするのか」
「……」
「努力して勝ち得たものなら、どうしてもっと大事にできないんだ。それに俺だって、他人の努力だか努力じゃないんだか分からないものに、ホイホイ金やモノを出すようなお気軽な奴だと思われたかぁないよ」
「……」
「本当に、努力してそれを勝ち得たなら、それにはもっと誇りを持て。安売りするな!」
「……じゃあ、もういいよ」
哀しいなあ。どうしてこの子はこんなことも分からないんだろうか。それでは高みに至るなど夢のまた夢。ああそうか、そうしておけば、うまくいかなかったときの言い訳になる、ってか。哀しいなあ。