消耗する電子部品

僕の音楽嗜好はややファンク寄りなのだけど、その割に僕自身はワウを使うことが少ない。とはいえ、なければないでこれは困るわけだ。

ということで、ヤフオクで Vox V847 のジャンクを落札した。売主が言うには「ピーピー言うだけでどうしようもない」とのことだったのだが、まあトランジスタが駄目になったのかもしれないし、そんなものはどうとでもなる。そもそも、買ったままでワウを使うことは僕には考えられない。トゥルーバイパス化が最もしやすいエフェクタでもあるし、回路もシンプルな分あれこれ手を加えられる。だからジャンクで全く問題なかったわけだ。

品が配達されてきて、最初にすることは裏蓋を開けること……ふん。なるほどねえ。Vox のワウ、それも今回のようなアメリカで作られていた頃のワウには、いわゆる AC アダプタ用の端子がない。前のオーナーによるものだろう、それが増設されているのだけど、アダプタ端子の電極に直付けで電解コンデンサが入っている。

ノイズ対策として、このようなことをすることはそう珍しいことではない。しかし、僕は出来るだけこの手の ad hoc な(というか、姑息的というか)なことをしないようにしている。あと、まあ詳しい理由は後で書くけれど、ある理由から、この手のことは嫌なのだ。だからこのコンデンサをニッパで除去して、それから基板等をチェックする。パーツに過電圧・過電流がかかって壊れたような形跡はない。うーむ……どうしましょうかね。

とりあえず、ワウの消耗部品であるポット(可変抵抗)、あとトランジスタは交換することにした。これは、かつてイタリアで Vox のワウが生産されていた頃の回路構成に戻したかったからだ。トランジスタの変更以外にも、いくつかの部品の変更が必要なのだけど、とりあえず抵抗は金属皮膜(ヴィンテージのカーボン抵抗なんてのはあまり好きじゃないんで)、コンデンサはもともとフィルムなので、フィルタ特性を変える最小限の部分だけ、現行のフィルムコンデンサを注文する……で、この後、一応ダメモトでチェックしてみる、というのがいつもの手順なのだけど、まあどうせパーツ交換するんだし、それに今日明日は忙しいからなあ……と、そこで作業を中断していたのだった。

そして今日。昼過ぎに面倒な仕事があったのを片付けて、僕は大須をうろついていた。第2アメ横ビルでパーツを入手するためである。ワウの回路では、1箇所だけ電解コンデンサを使っているところがあるのだが、このコンデンサの静電容量だと、ぎりぎりメタライズドフィルムコンデンサで使える容量の品がある筈なので、そこを交換することにしたのである。ちなみに、60年代のイタリアで生産されていたワウも、ここのパーツはドゥカティ・エレットロニカ社(現在のドゥカティ・エネルジア社……あのオートバイで有名なドゥカティの関連企業である)の無極性電解コンデンサを使っていた。原理主義者でなくとも、ここは無極性の電解コンデンサを使う人が多いはずだ。たとえば、ニチコンの MUSE の両極性のものはオーディオ用として評価が高いし、入手も極めて容易にできる。しかし……僕は、使わなければならないところ以外に、あまり電解コンデンサを使いたくないのである。

これは電子工作をする人間にとっては常識、の筈なんだけど、実は電解コンデンサは消耗品なのである。電解コンデンサという位だから、コンデンサの中には電解液を含浸させた紙が入っているわけだけど、この電解液はほんの少しづつ揮発して失われていく。こうなると、静電容量が徐々に低くなってきてしまうのだ。「容量抜け」と呼ばれるこの現象のために、電解コンデンサは10年程で寿命を終えてしまう。しかし、だ……エフェクタなんてのは、そうそう時代で変わるものでもない。むしろ古いと値段が上がる位なのだから、経年劣化する部品は出来ればあまり使いたくないのである。メタライズドフィルムコンデンサは音質的には定評のあるコンデンサだし、それが使えるならそれを使ったって構わないわけだ。

そりゃ、パーツの値段は大違いだ……電解コンデンサだったら20円かそこらだが、大容量のメタライズドフィルムコンデンサだったら数百円位することだってある。パーツの大きさもそこそこ大きい。しかし、ワウで交換することになるコンデンサはたったひとつだし、ワウの筐体の中はすっかすかなので、一つ位大き目のコンデンサが入ったからって何も問題はない。だから、僕が組む時には交換してしまうわけだ。

大須から家に戻り、ふと考える。ひょっとして、ピーピー言ってどうしようもない、ってのは、あの AC アダプタ端子に付いていた電解コンデンサが容量抜けして、そこが原因で発振でもしていたんじゃなかろうか。どれどれ……と接続してみると……何と、何も問題なく動作するではないか。しかもポットもまだガリがきていない。うわー……知らないって怖いなあ。このワウ、完動品だったら5、6000円位で出回っているのに。

2015/04/26(Sun) 21:46:54 | 音楽一般
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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