『夏なんです』に関して

先日録音した『夏なんです』だが、Vo. のオーバーダブはまだ行っていないので、今しばらくお待ちいただきたい。

で、歌録りの前に、あの『夏なんです』をどう録ったのかを書いておくことにしよう。ニコニコ動画の方のコメントは、毎度おなじみ(結構アクセスがあるのだけどコメントは少ない)の状態である。まあそれはそれでいい(むしろあの曲に何千もコメントがついたら、それはそれで異常事態であろう)のだけど、数少ないコメントは概ね好意的なもののようで、正直ちょっとだけほっとしている。

先日も書いたけれど、『夏なんです』は、僕が弾き語りをするときのレパートリーのひとつである。曲的には結婚式などで歌うことはないのだけど、こんな夏の休みに飲み会とかあったときに、もしギターを弾ける環境で飲むとすると、ああいうものを弾き語るわけだ。で、それにはちゃんとした理由がある。

『夏なんです』は、細野晴臣が書いた曲である。細野氏自身が弾いているアコースティックギターを聞いてみると、ベーシストならではのポイントを押さえた演奏がされている。例えばイントロでは、ペダル・ノート(ベースが動かずに上ものの和音構成音が動く)を使ったオンコード(いわゆる分数和音)の進行が使われていて、そこから入るAメロの部分では、今度は逆に上ものが動かずにベースが動くかたちのオンコードが使われている、という具合である。転調する部分でも、ベースノートとメロディに実に気を配った進行で書かれている。こういう曲を演奏するときには、6〜4弦の開放弦をうまく使ったかたちで演奏するように工夫するものだが、『夏なんです』は、実はそういう工夫をすると曲の構造がよく見えてくるようになっている。ベーシスト(もっとも細野氏がベースに専念するようになったのは「エイプリルフール」以降のことらしいのだが)が書いた曲だということが実感できるのである。

そんなこともあって、僕は大学時代あたりからこの曲をレパートリーにしている。しかし、よくよく考えてみると、ちゃんと録音したことがないのだった。他にも、結婚式で何か一芸を……というときに歌う曲とか、酔っ払っていい気分のときに歌う『ピンク・シャドウ』とか、そういう曲がいくつかあるのだけど、どれもこれもちゃんと録音したことがない。よし、では、自分の弾き語りをちゃんと録音してみよう、ということで、まずは(何分暑かったので)この曲を録音したわけである。

僕は今、アコースティックギターを6本持っている。そのうちの2本はガットギター(ジャパニーズヴィンテージのギターで二束三文で売られているものをヤフオクで購入し、現在調整中)、1本は「ギグ・パッカー」(黒澤楽器がちょっと前に出していた、アパラチアン・ダルシマーみたいなかたちのギターで、『なんでか?フラメンコ』の堺すすむ氏が使っている)、1台は12弦ギターで、残りがタカミネの PT-108 とヤマハの FG-152 である。

PT-108 は、エレアコなので今ひとつ鳴りが鈍重というか、良くも悪くもがっちりした感じである。問題なのは、音のピエゾ臭さが結構あることで、正直言って録音にはあまり使いたくない。ということで、ヤマハの FG-152(僕とあまり年齢が変わらない、いわゆるジャパニーズ・ヴィンテージである)で録ることになる。このギターには自分でコンタクト・ピエゾを入れてあるのだけど、出力はあまり高くないのだが、音は結構使える。本当はアコギはマイクを立てたいところなのだけど、今回はこのコンタクト・ピエゾだけで録音することにした。

録音してみると、やや低音域が弱いのと、3 kHz 辺りにピークがある(これはコンタクト・ピエゾの特性である)のが気になるので、パラEQで補正をかける……と、おお、なんだ、このまま全然問題なさそうじゃないの。ドレッドノートのアコギでガッツリ弾いた音よりはややナローレンジだけど、このまま録音することにして、3テイク位録ってみる。勿論、メトロノームだけを鳴らしておいて、「せーの」で録り始めて、一気に最後を弾き切るまで録り続け……を3回位行ったわけだ。ミスタッチが気にならないものが録れた時点でオッケーとする。

これにオーバーダブして、はっぴいえんどのテイクと同じようなアレンジにすることも考えたが、せっかく弾き語り用にアレンジしてあるのだから、と、低音とリズムの補強のために、ベースを小さめにオーバーダブするに留めた。ベースは、これも2、3回通しで録ってオッケーである。

歌うのには時間が遅くなってしまったために、とりあえずはギターでメロディラインを入れることにする。これは少しコンプをかけて、オベーションとかを弾いているときに似た状態(オベーションの場合は、おそらくギターのプリアンプが飽和してあんな感じになるのだと思うけど)を作ってやる。これは一発録り……へろへろなのはご愛嬌ということにする。

ミックスはオールドスタイルで、3つの楽器を全て中央定位として、深めのプレートエコーで立体感を出してやる。普通にこういうエコーをかけるとわんわん言ってどうしようもない状態になるのだが、そこはとある手法でそうならないようにしてある(どうやるかは秘密)。で、、入道雲の写真をつけて動画にして、ニコニコ動画で公開……と、こういう流れであれは出来上がったわけである。

2010/07/27(Tue) 22:54:25 | 作編曲・演奏・録音
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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