MDMA、コカイン、そして覚せい剤
今週、この blog で以前に書いた「『なぜ覚せい剤を使ってはいけないのか』再掲」、そして「なぜエクスタシー (MDMA) を使ってはいけないのか」へのアクセスが激増した。おそらく押尾学被告の事件と、田代まさし容疑者のコカイン所持事件のせいだろうけれど、それにしてもこのアクセスはちょっと多すぎる。
押尾学被告の事案に関しては、特に何も言うべきことはない。残念だけど、あれは同情の余地がない。実刑を避けるために、逮捕・勾留された後もあそこまで争う……というのも、おそらく彼の中に「日本じゃなければこんな大事にならなかった、自分じゃなくて日本の体制が悪いんだ」という思いが強くあるからなんじゃないかと思う。上リンク先で僕が書いた危険性など、おそらく(自分の身体が関わらない限りは)軽く軽く考えていたに違いあるまい。
そして、田代まさし容疑者の一件。これに関しては、「やっちゃいけないものをやった奴が悪い」と、簡単に切り捨てる気には、とてもじゃないけれどなれそうもない。今日はこちらの話を書こうかと思う。
2回目の覚せい剤での逮捕、そして実刑を終えて、社会に出てきた田代まさし氏は、誰の目から見ても明らかに衰えていた。特に目立ったのは、ややろれつが回らなくなった喋りで、おそらくこれは彼をひどく苦しめたに違いない。ニコニコ動画の生放送、そしてコミュニティFMへの出演等、ようやく糊口を凌ぐ術を得つつあっても、そこで喋っている彼はひどく苦しそうに見えた。ろれつが回らない口調でも、テンションを上げて面白いことを言わなければならない。そして、自分の薬物歴に関するツッコミに対してもうまくリアクションを返さなけれなならない。これはおそらく、彼にとってはひどく辛いことだったと思う。
ネットサイトでのインタビューで、彼は出所後メンタルなケアを受けていない、と語っていた。僕はこれが非常に気にかかっていた。覚せい剤を常用していた人は、やめた後も抑うつ状態を抱えて生きていくことになる。時にはフラッシュバックもあるかもしれない。そのような状態を少しでも改善させるためには、うつ病に対して行うのと同じような、精神科での薬物治療を受けることが望ましい。現在主流になっている SNRI や SSRI、あるいは NaSSA と呼ばれる新世代の抗うつ薬は、副作用も軽く、特に NaSSA に関しては睡眠状態を改善する効果が高いことが知られているから、このような薬剤の適切な処方を受けていれば、きっと彼はもう少し生きやすくなれたのではないか、と思うのだ。
僕は別に彼のファンというわけではない。でも、ドゥーワップが好きな者としては、ラッツ&スターをもう観られなくなるのか、と思うと、ただただ哀しい。田代氏には、どうか音楽の方だけを向いて生きていってほしかった。お笑いで飯を食うのはそれはそれで何も問題ない。でも人は、絶望の底にいるときには、たとえ他人から見てそれがドブネズミと星程に離れていても、高い空の星を見上げていなければ、流されて、そして潰れてしまうのだ。クスリを使っている連中と交流を持って、秘密を共有する関係を結び、お笑いでアップになることを求められるときにコカインを使う。絶望の果てにある「もういいや」という声が聞こえそうな、こんな状況に陥らず、どうしようもなく孤独でも夢をつないでいくためには、まずはドブネズミ (rats) の一匹として、音楽という星 (star) を見上げていて欲しかったのだが。
そして、彼のような人々がクスリの連鎖に捕らわれないような社会的プログラムが、もうこの時代には必要なのだということを、今回の事件は示している。先に僕が書いたようなメンタルケアに加え、現在ダルクが行っているような、薬物に依存しないで生きて行けるような他者との関係の構築、そしてやはり経済的支援が、一体として、田代氏のような薬物常用者に対して行われるべきであろう。これなしでは、「もう社会に復帰できない」という絶望の中でクスリに手を出す人は減らないのだ。社会はもはや、こういう経済的負担を負わなければならない時代に至っていることを、僕達は認識しなければならないのだろう。
Re:MDMA、コカイン、そして覚せい剤
aminisi 様:コメント有難うございます。「ぜ大麻に近づいてはいけないのか」に関しましては、一時的に cocolog に blog を移転していた際のコンテンツなのでしばらく顧みないでいたのですが、いやあコメントが一杯だ(笑)。さっき少しだけフォローしておきました。
僕は個人邸にはドラッグとうつの関係に興味を持っております。ですから、麻薬・覚せい剤に関して科学的に論ずる際に言及すべき報酬神経系(A10神経系等)に関わる話をあまりフォローしておりませんが、何かお書きになる際はそちらもフォローされると充実した内容になるかと思います。