渡辺 温
ひょんなことから、渡辺温の作品群が青空文庫に収録されているのを発見して、夕食後の時間は何本かの短編(といっても、渡部温は短編しか残していない)を読んでいた。
実は今日まで、僕は渡辺温が自分の母校(旧制水戸中学校、現在の茨城県立水戸第一高等学校)の大先輩だということを知らなかった。それに、誕生日も僕と一日違いだ。いや、これは本当に知らなかった。それを知らずに、自ら探すわけでもなく、たまたま青空文庫の作品群に行き当ったのは、これは何かあるのだろう……というのは考えすぎかもしれないが、でも、そう思いたくもなろうというものだ。
渡辺の作品は、ときに陰惨であり、残酷であるけれど、でもそれらに現実の生々しい臭いを感じさせない。幻想的であって、そして短編しか残されていない彼の作品の多くは、呆気無く終わる。妙に乾いている。普通ならねとりと糸を曳きそうな愛憎が、まるで乾燥した老廃物のようにはらりと剥がれ落ちる。そんな感じだ。
27歳の若さで、夙川の踏切(阪急神戸線だ!)で事故に遭いこの世を去った彼より、今の僕はもう一回りも齢をとってしまっているけれど、この機に渡辺とネット上で邂逅を果たしたことに、偶然を越えた何かを感じて、どうも眠れずにいる。こんな気持ちになるのは、もう何年ぶりのことだろうか。