「秘密」の定義

尖閣諸島ビデオ流出事件においては、神戸の漫画喫茶から画像が投稿されたとの情報が流れている。管内閣は、今回の事件を、公務員の守秘義務違反事案として取り締まる気がマンマンのようであるが、この何日かの間に「あれは『秘密』と言えるのか?」という議論が噴出している。

国家公務員法における諸問題に関しては先日 blog に書いたとおりであるが、あれの最大前提として、「秘密を侵した」ということが求められるわけだ。で、あの尖閣ビデオは「秘密」なのか?という話になるわけだけど、そもそも法における秘密の定義って何なんだろうか。

おそらく、この手の法律で言うところの秘密の定義は、以下のようなものと考えられる:

一般的に了知されていない事実であって、それを一般に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの
もっとくだけた表現をするなら、「秘密」とされるものの条件というのは:
  • 知られていないこと
  • それが知られることで何かしら利益が損なわれる(と客観的に考えられる)もの
ということであろう。これに照らして、今回のビデオが「秘密」なのかどうか、を考えると……まず、映像それ自身に関しては、国会議員と一部の公務員以外には知られていない。しかし、国会議員の証言などを元に、その内容が CG として再現されたものがひろくメディアで流布されているわけで、この状態において「一般的に了知されていない」と言えるかどうかは、ちょっと首を捻らざるを得ない。

そして、あのビデオの内容が知られることで客観的に利益が損なわれるようなことがあるのかどうか、である。今回の場合は、中国政府の態度が硬化する、というのが「利益が損なわれる」というのにあたるのだろうけれど、これは先方の意向なのであって、日本の法体系で規定・保証されたかたちで、何者かの利益が損なわれているというわけではない。

おそらく仙石はこう言うんだろう:「現政権の利益が損なわれていることは明々白々な事実である」と。しかし、だ。日本の法体系の範囲内で「それを一般に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられる」のだろうか?現政権が利益を損なわれたと考えているだけでは不十分だ。なにせ「客観的に考えられる」ことが求められているのだから。

というわけで、各方面から「あれって秘密じゃねーんじゃねーの?」という疑問が噴出しているわけだが、東大法学部3年で司法試験に合格、東大を中退した仙石は、この辺を法曹として何もちゃんと説明していない。ぜひ、法的な根拠を以て、あれのどこが秘密なのかを示していただきたいものである。

2010/11/10(Wed) 11:12:35 | 社会・政治
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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