韓国・延坪島砲撃事件の周辺
韓国北西部の軍事境界線の近くにある延坪島に、昨日午後2時過ぎに、北朝鮮が砲弾を数十発打ち込んできた。
延坪島(ヨンピョンド、연평도)は大延坪島(テヨンピョンド、대연평도)と小延坪島(ソヨンピョンド、소연평도)の2島で構成されるが、今回砲撃を受けたのは大延坪島の方である。まずはこの島の衛星写真をご覧いただきたい。
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少し拡大していただけるとお分かりかと思うけれど、この島は南東を向いた海岸線の中央部に固まるように居住地区が集中していて、それ以外は山のような地形に木が生い茂っているような状態になっている。北西に向けた海岸線にも開けた部分があるけれど、これはおそらく軍事施設だと思われる。
この島は、北朝鮮の海岸線から十数 km 離れている。この距離は、北朝鮮が保有するカノン砲や榴弾砲(報道で「迫撃砲」と書かれているものを散見するが、これは間違い……参考)の口径から考えると、攻撃するのに問題のない距離である。標的に砲弾を命中させるための弾道計算の技術は、第二次世界対戦時に既に完成しているので、北朝鮮軍の砲撃であっても、今回の延坪島攻撃において、島内のどの区域を攻撃するか、きっちり狙った上で撃ってきているのは明白である。つまり、今回の砲撃において、北朝鮮軍ははっきりと民間人居住区域を砲撃しているのである。
では何故、北朝鮮軍はこのようなことをしたのか。北朝鮮側の発表においては、韓国(北朝鮮は国家としての韓国や韓国政府を「傀儡」と称するのだが)の軍事的挑発に対抗するものだ、ということになっている。実際にそういうことがあったのか、というと……
つまり、延坪島の近くで射撃訓練を行っていて、撃つ方向は西南方向 = 北朝鮮と反対の方向であった、ということである。この区域での射撃訓練はそう珍しいものではなく、23日に北朝鮮から訓練中止の申し入れがあった際も、韓国側はあまり深刻に考えていなかったらしい。ということは、これ以外に何かしらの理由があったということになる。韓国軍は、午前10時15分から午後2時25分まで北西部海上で射撃訓練を実施。西南方向に向け、NLLより南側で砲撃を行った。
(2010/11/23 21:08 KST 聯合ニュース 引用元記事)
ここで一つ気になるのが、このニュースである:
このニュースの背景には、勿論このニュースがある:核問題:米軍の戦術核兵器、韓国再配備も 金泰栄国防長官が国会で答弁
金泰栄(キム・テヨン)国防長官は22日、北朝鮮がウラン濃縮施設を公開したことへの対策として、1991年に韓半島(朝鮮半島)から撤去された米軍の戦術核兵器を再配備する問題と関連し、「核抑止のための(韓米)委員会を通じて協議を行いながら、その部分(再配備)も検討してみたい」と答弁した。
金長官はこの日、国会予算決算特別委員会の総合政策質疑に出席し、「一部で言及されている、米軍戦術核兵器の再配備を考慮する考えはあるか」という李鍾赫(イ・ジョンヒョク)議員(ハンナラ党)からの質問に対し、このように答えた。
国防長官が米軍戦術核兵器の韓半島再配備について公の場で語るのは、極めて異例のこと。
金長官の答弁に対し批判の声が上がると、国防部は「原則として、北朝鮮の核の脅威に対し、取り得るすべての対応策を検討するという趣旨で発言したこと。米軍戦術核兵器の配備は、現在まで考慮したことはなく、韓米間で具体的な協議がなされたこともない」と釈明した。
韓国軍消息筋は、米軍の軍事戦略が変化し、海外に配備している戦術核兵器はすべて本土に引き揚げ、相当数が廃棄されたことから、韓半島に戦術核兵器を再び配備するとしても、地上ではなく、原子力潜水艦やイージス艦などに核弾頭型のトマホーク巡航ミサイルを搭載し、韓半島近海に配備する形になる可能性が大きいと説明した。
(2010/11/23 10:01:59 朝鮮日報日本語版 ユ・ヨンウォン記者)
つまり、北朝鮮がウラン濃縮を行い、ウラン型原爆を保有しようとしているのではないか、という疑いが生じて、それに対抗するかたちで、韓国政府はアメリカの核を韓国国内に設置することも辞さない、という意思を表明した。それに対して北朝鮮が今回の砲撃を以て応えたのではないか、というのが、今回の要因として考えられるもののひとつということになる。核問題:北朝鮮がウラン濃縮施設を公開 米国に対し「2000台以上の遠心分離器がある」と説明 ウラン弾なら年間1個の割合で製造可能
実験用軽水炉建設現場の公開に続き、北朝鮮は高濃縮ウラン(HEU)による核開発に必要な遠心分離器1000台以上を突然公開した。
今月初めに北朝鮮は、同国を訪問した米国の原子力技術専門家でスタンフォード大学国際安保協力センター所長を務めるヘッカー教授に対し、1000台以上の遠心分離器が設置された巨大なウラン濃縮施設を公開した。これは、米紙ニューヨーク・タイムズが21日付で報じた。
問題の遠心分離器は、天然ウランの中にわずか0.7 % しか含まれていないウラン235の割合を、90 % 以上にまで濃縮する際に使われるものだ。ヘッカー教授は、この装置1000台以上が北朝鮮で計画的に設置されているのを目にして、「非常に驚いた」という。2009年4月に米朝関係が悪化したことにより、米国と国際原子力機関(IAEA)の関係者が最後に北朝鮮から撤収する際、この施設の存在は知られていなかった。ヘッカー教授はこの遠心分離器について、「非常に現代的な統制室で制御されていた」とコメントしている。ニューヨーク・タイムズによると、現地を案内した北朝鮮政府の関係者はヘッカー教授に対し、「2000台以上の遠心分離器がすでに設置され、今も稼働している」と説明したという。
核開発の専門家によると、1個のウラン爆弾(濃縮ウラン20キロ基準)を製造するには、2000台以上の遠心分離器が必要だという。
かつて米国のロスアラモス核研究所の所長などを務めたヘッカー教授は、北朝鮮から米国に帰国した直後、これらの事実をホワイトハウスに報告した。ヘッカー教授は、米国に帰国する直前の今月13日に北京に立ち寄っているが、そこで行われた会見の際にも、「北朝鮮は平安北道寧辺に軽水炉1基を建設中」という事実を明らかにしている。
核兵器の製造に必要な遠心分離器の存在を北朝鮮が認めたことに対し、米国は直ちに対応に乗り出した。オバマ政権は20日、スティーブン・ボズワース対北朝鮮政策特別代表の率いる代表団を韓国、日本、中国に急きょ派遣した。
ボズワース代表は21日にソウルで韓国政府の当局者らと協議を行い、22日に東京、23日には北京を訪問する予定だ。北朝鮮は2回の核実験を行ったことにより、国連安全保障理事会決議第1718号、1874号によってすでに制裁を受けているが、これについて米国は、「北朝鮮はこれらの決議に明らかに違反しているだけでなく、高濃縮ウランによる核開発を強行するとの意向も明らかにした」と見なし、国連レベルでの対応策も同時に模索している。
(2010/11/22 09:19:02 朝鮮日報日本語版 李河遠(イ・ハウォン)記者)
世間では、アメリカや韓国からの援助欲しさに今回の事件を起こしたのではないか、という識者の意見が出ているけれど、これは全くの的外れである。その理由は以下の記事を読めば明らかである:
この南北赤十字会談、実は今月25日にも行われる予定だった。もし北朝鮮が援助を求めているのならば、この機会を自らふいにするようなことは考えにくい。中国が秘密裏にこれに匹敵するような援助を行う、というようなことでもあれば話は別だろうけれど、これ程の大規模な援助を秘密裏に行う理由が見当たらないし、目下そのような情報は流れていない。つまり、物質的な面において、今回の砲撃は北朝鮮にとって何ら得にならないということになる。金剛山(クムガンサン)離散家族再会所は、60年ぶりに会った家族への込み上げてくる思いで「涙の海」になった。北朝鮮側の最高齢者で元韓国軍のリ・ジョンリョル氏(90)は、韓国に住む息子、ミングァン氏(61)と抱き合って、「ミングァン、ミングァン」と呼んだ。赤ん坊の時に韓国軍に入隊した父親と別れた息子は、「亡くなったと思って、今まで法事をしてきました」と泣いた。
3日間、北朝鮮側の再会申請者97人に会う韓国側の家族436人は、短い喜びを終え、再び長い離別と苦痛を味わうことだろう。今月3日から、金剛山で、北朝鮮側家族207人に会う韓国側の再会申請者96人も然りだ。再会を希望する人は8万人以上で、申請者の77%が70代以上の高齢だ。いつまでこのようにゆっくり会わなければならないのか。
最近、南北赤十字会談で、韓国側は、南北100家族の再会月例化、再会離散家族の再度の再会、毎月5000人の生死住所の確認を提案した。北朝鮮側は、1年に3、4回、100人規模の離散家族の再会を提案し、前提条件としてコメ50万トンと肥料30万トンの支援、金剛山観光の再開を求めた。離散家族の思いを晴すのではなく、大規模な物資や金品支援を求める露骨な下心だ。
金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府は、毎年30万〜40万トンのコメと20万〜30万トンの肥料を北朝鮮に支援した。金正日(キム・ジョンイル)政権は、支援されたコメで、特権層のお腹を満たし、軍用米に転用したと、脱北者は証言している。北朝鮮は、軍事力の増強に拍車をかけ、2度の核実験を行い、12年までに核開発を完了するとして「強盛大国」云々する。
大韓赤十字社は今年9月、コメ5000トンやセメント1万トン、カップラーメン300万個、医薬品など、100億ウォン分の水害救援物資を北朝鮮側に送った。対北朝鮮ラジオメディアの「開かれた北朝鮮放送」は、北朝鮮が最近、韓国から支援されたコメなどを「白頭山(ペクトゥサン)先軍青年発電所」に供給し、金正恩(キム・ジョンウン)氏を称える宣伝手段に活用していると報じた。韓国が送ったコメや金が、軍人を食べさせ、金正日総書記の3代世襲を強固にし、核兵器の開発に使われているにもかかわらず、一部野党と左派勢力は、大規模なコメ支援と金剛山観光の無条件再開を要求している。
(11/01/2010 08:39 東亞日報日本語版)
ということは、先に挙げた米軍の核に関する発言が原因なのか、あるいは北朝鮮国内における国威発揚の目的で行われたのか、いずれかということになるだろう。後者に関しては二つの説があって、ひとつは、金正恩が軍事の天才であるという「伝説」の裏書きとして行われたのではないか、という説、もうひとつは、北朝鮮軍内部での世代交代と、それに伴うフラストレーションの問題を解消するために、軍部の新しい若手の指導者が半ば独走するかたちで今回の砲撃を行ったのではないか、というものである。後者は李英和・関西大学教授が主張しているものだけど、現在の状態で軍が独走できるかどうかは、ちょっと怪しいところである(李教授は、金正日が認知症を患っているという説を主張しているので、もしそれが当たっていたらこういうことがあっても不思議ではないけれど、それだったら北朝鮮はもっと混乱していてもいいような気がするのだが)。
いずれにしても、我々にとっても隣国の問題でもあり、この問題に関してはちゃんと知るべきことを知っておく必要がある。それに、実は今回の事件で一番喜んでいるのはおそらく管内閣で、昨今の体たらくを、ここでイニシアチブを示すことで払拭できると思っているふしがある。そういう妙なリンケージにごまかされないためにも、知るべきことはちゃんと知っておこうではないか。