奇妙な符合
昨年の3月8日のことである。南シナ海北部・海南島沖で、アメリカ海軍の音響測定艦である「インペッカブル」が航行していた。この「インペッカブル」は、潜水艦の音響データを採取するための船で、この船自体が軍事行動に参加するわけではない。そのため、軍籍にある船舶でありながら、航行に従事するクルーは民間人で、音響解析を行う専任スタッフが海軍軍人、という、特殊な運用をされている船である。
「インペッカブル」は公海を航行していたのだが、そこに中国海軍の情報収集艦、漁業監視船、国家海洋調査局の艦艇、2隻のトロール船の合計5隻が妨害活動を仕掛けた。中国側の5隻は「インペッカブル」に異常接近した後、うち2隻が進路を塞ぐように「インペッカブル」の舳先15メールまで接近、材木を海中に撒いたり、強力な照明を「インペッカブル」に当てるなどの危険な妨害を行った。「インペッカブル」が(武装を持たないので)ホースで中国船に放水を行ったところ、一説によると、中国側のトロール船船員が「インペッカブル」に尻を向け、ズボンと下着を脱いで侮辱する行動に出たという。
この時期、アメリカと韓国は、黄海や東シナ海を舞台とした合同軍事演習 "Key Resolve" を行っていた。中国の「インペッカブル」に対するこの露骨な妨害や、同時期に複数の中国政府高官によってなされた発言の数々は、いずれもこの "Key Resolve" を牽制する目的で行われたものとみられている。
一年後の本年3月26日、黄海の白翎島(ペンニョンド)西南沖で、韓国の哨戒艦である「天安」が、北朝鮮の特殊潜航艇から発射された魚雷によって沈没した。このときも、同じく黄海に浮かぶ延坪島沖で、"Key Resolve" の一環として米韓の潜水艦による演習が行われていたところだったという。
今年の6月、米韓は合同軍事演習 "Indomitable Will" を黄海・日本海で行う計画を立てていた。これは先の「天安」沈没事件等への牽制の意図のあるものであったが、ゲーツ米国防長官が「演習は韓国沖で実施されるのであり、中国沖ではない」と発言したにもかかわらず、中国サイドから度重なる高官の発言等がなされた結果、6月の予定を7月に延期した上、当初黄海に派遣される予定であった原子力空母「ジョージ・ワシントン」の派遣先を日本海に変更した。
そして、この11月末、先の延坪島砲撃事件への対抗措置として、今度は原子力空母「ジョージ・ワシントン」を黄海に入れて、米韓合同軍事演習が行われることになった。
……と、時系列で、アメリカ・中国・韓国・北朝鮮の絡んだ黄海近辺での事件を追って見てみると、どうも、今回の砲撃事件も含めて、北朝鮮の背後にある中国の存在が、一連の事件に絡んでいるような気がしてならない。今回の砲撃にしたって、北朝鮮は韓国からの洪水支援、そして離散家族問題の報酬としての支援の双方をふいにしてまで行っているのである。ひょっとしたら、これは中国との間に、問題行動を起こす見返りとして経済支援が得られるような密約でもあるんじゃないか、と勘繰りたくもなるというものだ。