五月雨式
五月雨式とはこういうことを言うための言葉だと思う。要するに、出さざるを得ない情報だけをだらだらと出す。今後の指針が立つように、とか、住民の安全を維持するように、などという思想はそこにはない。ただ、追及を受けない範囲内で最低限度の説明責任を果たす、それだけのための発表である。2011年5月12日 東京新聞 夕刊
福島第一原発の事故で、東京電力は十二日、1号機の原子炉圧力容器の水位計を調整した結果、長さ三・七メートルの燃料全体が水から露出している可能性があると発表した。ただ、容器の温度は低温で安定している。東電は「燃料の位置が下にずれるか、溶けて容器の底に落ち、結果的に冷却ができているのではないか」とみている。
これまでの水位計のデータでは、燃料は上端から約一・七メートルが露出した状態になっていた。地震で水位計が壊れている可能性があったため、東電は原子炉建屋内に作業員を入れ、水位計を調整して再測定。燃料を入れた金属製ラックが通常の位置から少なくとも五メートル下までは水がないことが分かった。圧力容器内の水位は最大で四メートルだが、実際の水位は不明。
一方、容器の表面温度は上部で一二○度前後、下部で一○○度前後で安定している。
東電は、地震で燃料がラックごと下方にずれるか、露出して熱で崩れ落ちた燃料が容器の底にたまり、結果的に水で冷やされているとの見方をしている。
経済産業省原子力安全・保安院は十二日の会見で「水位計の状態は正常でない」と、測定結果に疑問があるとした。そのうえで「燃料の一部は溶けているが、ある程度は形を残して水蒸気で冷やされていることもあり得る」とした。
東電は炉心の燃料の損傷割合をこれまで55%と推計していた。今回分かった圧力容器内の状態からは、実際の損傷割合は分からないとしている。
圧力容器内へは現在、毎時八トンを注水している。しかし予想より水がたまっていないことから、容器下部の配管部に複数の破損箇所があるか、溶け落ちた燃料の熱で容器下部に穴が開き、そこから水が大量に格納容器内に漏れている可能性もある。東電は注水量を増やす検討を始めた。
1号機では、格納容器を水で満たし燃料を上端まで冠水させる「水棺」作業が続いているが、格納容器の水位も依然として不明。原子炉内の水位や水の動きが把握しきれていない現状では、今後の作業に影響が出る恐れもある。
東電の松本純一原子力・立地本部長代理は十二日の会見で、「やり方の再検討が必要」と述べた。
また、2、3号機の燃料も水位計のデータからは二・〇〜一・七メートル露出した状態だが、東電は「水位計を調整しないと確からしい値が得られない」とみている。
発表されたこの水位で冷却がなされているというのであれば、状況はほぼ明らかだ。おそらく、炉心を構成する燃料棒はそのほとんどが溶融し、圧力容器の底に垂れて固まっているのであろう。チェルノブイリの「石棺」の中で見られた「象の足」と呼ばれるものと同じ状態である。
不幸中の幸いだったのは、この溶融・再凝固した燃料が、圧力容器の隔壁を破って外に出るところまでには至らず、どうやら容器内に未だ燃料が留まっているらしい、ということだ。しかし、水が漏れていることから考えると、圧力容器の密閉健全性というものは、もはや保証されていないと考えるべきであろう。つまり、今まで炉内に突っ込み続けてきた水、あるいはこれから突っ込む水が漏れるのに混じって、破損・溶融・再凝固した燃料から溶出した放射性同位元素が外界に出るリスクは未だに消えていないということである。
では、この事実から類推できることは何か。まずはこれらのニュースを思い出していただきたい。
2011.5.8 19:51
福島第1原発3号機で、燃料を入れた原子炉圧力容器の温度が大幅な上昇傾向を示し、8日には容器上部で206度に達した。
東京電力は、差し迫った危険はないとの見方だが「燃料が崩れて(圧力容器の)底に落ちた可能性も否定できない」として、温度の監視を強め原因を分析している。
4月末、圧力容器上部の温度は80度台で推移。多少の上下はあるが比較的安定していた。
5月に入り上昇傾向が顕著になったため、東電は4日、圧力容器への注水量を毎時7トンから9トンに増やした。しかし上昇は収まらず、5日朝には144度に。さらに7日夜には202度に跳ね上がり、その後も“高止まり”の状況だ。圧力容器下部の温度も上昇傾向を示している。
東電は既に、3号機の燃料は約30%損傷したとの推定を示しているが、ここにきて燃料が圧力容器の底に落下したとすれば、過熱が進み、溶融が再度起きた可能性がある。
© 2011 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
3号機で起きたこれらの事象は、1号機の今回のニュースとよくリンクしている。つまり、3号機の状況も、1号機と同じような状況であろうと考えられるわけだ。どちらも、かなりの割合の燃料が溶融し、圧力容器の密閉健全性が損われ、突っ込んだ冷却水が汚染されて漏出している状況だ、と考えるべきだろう。東京電力は11日、福島第一原子力発電所の3号機取水口付近にある立て坑(深さ2・3メートル)から、放射性セシウム134などを含む高濃度の汚染水が海へ流出していたと発表した。
その濃度は1立方センチ・メートルあたり3万7000ベクレルで、国が定める海水の基準の62万倍に上った。海中への拡散を防ぐ水中カーテン(シルトフェンス)が取水口を囲んで設置されているが、その外側の海水からも、同1万8000倍のセシウム134を検出した。東電は立て坑をコンクリートでふさぎ流出を止めた。
3号機では、原子炉から漏れ出した高濃度汚染水がタービン建屋にたまっている。それが水位の上昇に伴って作業用トンネル(トレンチ)へ漏れ出し、さらに電源ケーブル用のトンネルを通じて立て坑へ流れ込んだとみられる。立て坑の側面に亀裂があり、そこから海へ流出したらしい。流出が始まった時期は不明だが、東電は「さほど前ではない」とみている。
(2011年5月11日22時57分 読売新聞)
そして、燃料がこのように溶融・再凝固して一体化しているならば、警戒しなければならないのが再臨界である。燃料集合体を束ねるのより、それらが溶解・再凝固して一体化した方が集合密度が高い、というのは、皆さん想像に難くないだろうと思う。勿論、制御棒を構成していたホウ素を巻き込んでいて、それが中性子捕捉に貢献している可能性はあるわけだが、それでも尚、再臨界の危険を無視するわけにはいかない。もし再臨界が起きた場合、燃料近傍から中性子を減速するものを除去する必要があるわけだが、今の状況で中性子減速に寄与するものと言えば水である。しかし、水を除去したら、今度は核分裂反応の熱を除去することができない。これはまさに無間地獄といっていい状態である。
こういうリスクに関して、東電や原子力安全・保安院、原子力安全委員会、そして何より政府が、ちゃんと言及していないのである。これが現政権の現状である。こんな連中に、我が身の、そして愛する人の安全を任せておいて、本当にいいんですか、皆さん?