差し歯・雀
今日は、肝を冷やされるようなことがいくつかあった。今、冷や汗を拭いながらこれを書いている。
まずひとつめ。今日、昼食を食べようとしたときに、前歯の辺りが何かむずむずとした。指で摘むと……
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……と、前歯が抜けたのである。
差し歯にされている方はご存知だと思うけれど、差し歯というのは、歯根を残してその中にキャビティ(縦孔)を掘り、そこにコア(芯)を立てる。このコアの上に、クラウンと呼ばれる、歯の外観をした「冠」を被せるわけだ。通常、差し歯が取れた、というときには、ほとんどの場合はクラウンの脱落だろうと思うのだが、今日の僕のケースでは、クラウンがその土台のコアごと抜けてしまったのである。
僕もこういう経験がそう多いわけではないのだけど、この精神的衝撃というのは、相当のものだった。あ゛〜、これで結構な額が飛んでいくのかー……というのもあるけれど、前歯が抜けるというのは、これだけでも結構な精神的ダメージである。
とりあえず食事をして、歯を磨き、かかりつけの歯科医院に電話をすると、午後5時少し前だったらいけまっせ、との返事だったので、そこに予約を入れて、ちょこちょこと仕事をしながら午後を過ごした。しかし、今日は少しリラックスして過ごそうと思っていたのになあ……もう、台無しである。
歯医者の時間の少し前、もう一度歯を磨いていて、抜けた差し歯をブラシで洗おうとしていたら、手が滑って、洗面台の排水溝の中に「カラ〜ン」と、それはそれは綺麗な音を立てて落ちた。思わず声を上げてしまう。絶望感に苛まれながら、排水管の経路だけでも見ておこう、と思って洗面台の下を開けてみると、この洗面台は樹脂管で、U字の部分はドレンが付いていて手で外せそうである。そこらの器で受けながらドレンを外すと……「カラ〜ン」と、これまた綺麗な音を立てて歯が落ちてきた。はぁ、と溜息をつき、しばし脱力する。
時間が来たので歯医者に向かった。道すがら、はぁ……と溜息をつく。まあ、溜息をついても仕方ないんだけど、ここまででも結構な精神的ダメージだ。なんだかなあ……と思いつつ、診察券を歯科助手に渡す。
歯科医師は、ドレンから取り出して持ってきた差し歯と、僕の歯根のキャビティを見ながら……「これは……」「これは?」「これは……付けられそうだよ」「え?」で、キャビティの掃除をしてから、セメントを練って、装着。この差し歯を作った歯科医院ではないので、しめて500円取られたけれど、差し歯の作り直しとか、いやもうこれは部分入れ歯なんじゃないか、とか、悪いことばかり考えていたのが、嘘のように呆気なく、現状回復されたわけだ。
で、戻ってきたわけだけど……今根城にしているビルは、1階が大きなガラスの観音開きのドアなのだけど、その中に雀が2羽いた。僕が入ってきたのにびっくりしたのか、1羽は外に開いている方に向かって飛んでいったのだが、もう1羽が……よせばいいのに、僕がくぐったばかりの、そのガラス戸に全力でぶつかったのである。雀は地面に転がり、嘴だけをひくひくと動かしている。
雀は、どうやら脳震盪を起こしたらしい。両手で包み込んでも、逃げるどころか、身体をよじることもできずにいる。とりあえず、持っていた荷物を部屋に置いて、U に事情を話し、二人でまたガラス戸の前に行った。雀は、まだ動けずにいた。
「どうしよう」「どうしようって言われても、ねえ……」
などと言っているうちに、雀は意識を回復したらしく、地面の上を跳ねながら、影の方へと逃げていく。もし飛べなくなっているならば、保護しないと、この辺りには野良猫もいるので危険である。ブロック塀の方に追い込むように向かっていくと、雀はようやく意識を完全に回復したのか、はばたき、飛んで逃げていった。
僕が入ってきたのにびっくりしてこうなったわけで、そのせいで雀が死ぬようなことがあったら寝覚めの悪い話である。だから戻ってきたのだけど、とりあえずこうやって無事に逃げられたのだから、大丈夫だったのだろう。そう思うことにした。たかが雀一匹の話であるかもしれないが、歯の件も合わせて、今日の僕にとっては精神的ダメージの大きな事件であった。
Re:差し歯・雀
sebe さん:それはトップシークレットなのです<ぉぃ