なぜオスプレイは危険だといわれるのか (6)
XV-3 プロジェクトが試験機の破損で中止されて程ない、1971年のことである。アメリカ陸軍と NASA のエイムズ研究センターは、共同で垂直離着陸機の研究プログラムをスタートさせた。契約公募のコンペティションには、ヘリコプターで名を知られるシコルスキー、戦闘機などで知られる航空機メーカーのグラマン、CH-46/47 を作ったボーイング・バートル、そして XV-3 を開発したベル社の計4社が参加し、ボーイング・バートルとベル社が、50万ドルの研究資金と最終選考への参加権を獲得した。
そして1973年1月、両者の提案が提出された。ボーイング・バートル社の案 (Model 222) は、両翼端に固定式のエンジンポッドを付け、ほんの少し胴体寄りに、ローターが付く小さなポッドが独立して置かれている。エンジンは常に水平に置かれていて、エンジン=ローター間のシャフト長を短くすることができた。
これに対して、ベル社の案 (Model 301) では、両翼端に、エンジンとローターが一体化したポッドが設置され、これが水平位置から垂直位置まで動くようになっていた。この案はエンジンーローター間の伝達機構の単純化というメリットがあったが、やや複雑な構成で、ボーイング・バートル案よりやや重量面で不利であった。
検討が行われた結果、NASA はベルの Model 301 を採用し、1973年7月に正式契約を結んだ。それから4年間の研究開発の末、ベル社は完成機である XV-15 1号機の初飛行を行い、以後は NASA エイムズ研究センターで実験が続けられた。
上に示したのが、XV-15 の透視図である(クリックで拡大)。一見していただくとすぐにお分かりかと思うけれど、V-22 はこの XV-15 にそっくりである。XV-15 の大きな特徴としては、
- 比較的小型のターボシャフトエンジンを両翼端に設置。
- エンジンごとローターの角度が変化する。
- ローターは通常のプロペラより長く、ヘリのローターより短い
- ふたつのエンジンは、翼中を貫くシャフトで機械的に結合することができる
前回に少し説明を書いたけれど、ターボシャフトエンジンというのは、ジェットエンジンと同じようなガスタービンを回して、その回転力を駆動力として取り出すエンジンである。これを読まれている多くの方は意外に思われるかもしれないが、このようなガスタービンを用いたエンジンは、我々に身近なピストンを用いたレシプロエンジンよりも単純な構造で、同じ力を得るのに必要な重量も低くて済む。つまり、両翼端のローターをエンジンごと動かす、というアイディアは、ターボシャフトエンジンならば不可能な話ではないのである。
ただし、いくら単純な構造とはいえ、高速(XV-15 に採用されたライカミング LTC1K-4K の実用回転数は 22000 rpm 、つまり毎秒370回転近くの回転数で回っている)で回転するエンジンを潤滑・冷却するのは単純にはいかない。これは後々の V-22 の弱点にもつながる問題である。
また、今まで見てきた通り、ふたつのローターは結合されていなければならない。XV-15 の場合も、両翼端のエンジンは翼中を貫くドライブシャフトで結合することができるのだが、このシャフトは緊急時にのみ使われ、通常は機械的な結合はなされていない。
XV-15 の試験中、減速ギアボックス内のベアリング損傷が原因で、右エンジンを緊急停止したことがある。このようなトラブルが生じた際、故障したエンジン側のローターはエンジンとの結合を解除され、反対側のエンジンと翼中のシャフトで結合される。この場合も、このバックアップシステムが作動して、墜落などに至ることなく緊急着陸が行われたのである。
では、普通の飛行状態では結合していなくても大丈夫なのか……という話になりそうなのだけど、XV-15 が作られた時期は、航空機にフライバイワイヤと呼ばれる電子制御が行われるようになった時期と重なっていて、XV-15 の飛行システムにも、これが大きく関わっている。次回は、このフライバイワイヤに関して説明していこう。