この記者の活動目的は?

昨日、たまたま石原東京都知事の尖閣諸島問題に関する緊急記者会見を観ていたときのことである。記者との質疑応答で、実に奇妙なやりとりがなされたのだ。以下、その箇所を聞き取ったものを引用として掲載する:

【記者】キューバの、グランマー通信社の、日本人特派員やってる稲村です。あのー、2、3日前、大阪維新の会の……あのー、メールを打ったんですけれども、ま、今の、尖閣問題で、そのー、竹島だとか北方領土だとか、日本の、とにかく、領土問題というのは、何か、大変、火がついたような感じで、あのー、中国との衝突、は、その活動を(一部判読不能)必至だと思うんです。まー、あのー、それで、えー、この、えー、沖縄領土問題から日本を救うには、そのー、大阪維新の会が道州制言ってるわけで、やはり、終戦直後のように、えー、琉球という感じで、奄美と沖縄は、米領に復活させて信託統治領にして、した方が、いいんじゃないかと、いう風な、案を、出したんですけど。

【知事】誰が? 君が?

【記者】はい。

【知事】君は何人だね。

【記者】私は、2、3代前までは琉球人です。

【知事】今は何人だよ。国籍は?

【記者】今は、あー、残念ながら、同化政策で、えー、日本の国籍を取りますが、子供と孫はアメリカ人です。

【知事】ああ、かなり違う日本人だね。君の言うことは全く通じないよ。早くこの国から出てった方がいいんじゃねぇか。

その発言内容のムチャクチャさもさることながら、そもそもこの稲村なる人物は記者としての姿勢がおかしい。記者会見というのは、記者が個人の考えを会見参加者とたたかわせる場ではないのだから。ここだけ取っても、この稲村なる人物が本当に記者なのかどうか、実に疑わしいと言わざるを得ないのだが、そもそもその肩書「キューバのグランマー通信社の日本特派員」というのは何なのだろうか。調べてみると、これはキューバの Granma International という新聞(キューバ共産党中央委員会の機関紙)のことらしいのだが、その特派員が何故日本の領土問題に、それも大阪維新の会に提言をした云々、などという話を持ち出すのだろうか。

この稲村なる人物に関して調べてみると、http://www.tourism.co.jp/ なるサイトに行き着く。このサイトの主宰者であるところの稲村宏史なる人物が、先の記者会見の稲村氏の正体らしい。

上サイトの profile を見てみると、「霞が関通信社・大使館新聞社 社主 (CEO) 兼 編集主幹」と書かれているのだが、「大使館新聞」なるものの存在の痕跡は、少なくともネットワーク上ではなに一つ確認できなかった。では「霞が関通信社」の方はどうか、というと、中国のニュースポータルサイトである 中国網 (China Net) 上のこんな記事が引っかかってくる。「霞が関通信社の白髪頭のベテラン記者」というのが、この稲村氏のことらしいのだが……

この稲村氏、今回の記者会見の前にも、石原都知事に何度となく記者会見で絡んでいる。一例として、2012年4月27日の都知事定例記者会見の際の映像を以下に示す(16分25秒位から):

少なくとも、ネットで散見されるこれらのやりとりを見る限り、この稲村氏が一記者として報道に携わる目的で会見に臨んでいるとは到底思えない。明らかに、自らの主張を披瀝する場として、石原都知事の会見に食いついていて、そういう場で他の国の記者と記者然として交わした言葉が、上にリンクしたような場所で「日本の(マトモな)ベテラン記者の言」として引用されてしまっている。これは、僕のように右でも左でもない人間から見ても、有害極まりない行為だとしか思えない。

時々目にすることがあるのだが、リタイアした後に自分の組織(研究所だったり財団だったり会社だったり、まあ色々なパターンがあるのだが)を興して、自分はある組織を主宰しているんだ、と、しきりにその肩書を披瀝する人がいる。機関誌をあちこち送りつけたり、定期的に懇話会やら講演会を開いてみたり、と、熱心にやるのだが、どういう訳か、その組織の本来のミッションと思しき分野において、その活動の形跡を窺うことができないのである。何故そうなるか、というのは簡単で、そういう組織の主宰者の目的は、その組織で何らかのミッションを果たすことではなく、そういう組織の主宰者であることそれ自体が目的だから、である。

そもそも、この稲村氏は本当に Granma の日本特派員なのだろうか? そうならば、署名記事のひとつも出しているに違いない、と "Cuba Granma Inamura" という検索語でググってみると、Granma の記事はただのひとつも引っかからないのである。Granma では、海外特派員の記事にはちゃんと名前が入るようなので、これはとても奇妙なことだとしか言いようがない。

そして、上の検索では、2011年4月7日の外国人特派員向け記者会見の議事録が引っかかってくる。この会見は動画も公開されているのでそちらの URL を示しておく(1:11:10 辺りから):

http://nettv.gov-online.go.jp/eng/prg/prg2075.html

この会見も実に奇妙だと言わざるを得ない。日本語、英語、双方ともオーケーの会見なのに、稲村氏は英語で質問している。しかし「犠牲者」を意味する victim という単語が出てこない、って、一体どういうことなんだろう? 前置詞とかも無茶苦茶だし、およそ英語で教育を受けた人の英語とは思えない。上の方にリンクした profile によると、この人は UNC の大学院中退、とあるんだけど、ノースカロライナ大学チャペルヒル校と言ったらアメリカでもかなりの名門校なんだけど。そういうインテリジェンスが、上のやりとりからは欠片程も感じられない。まあ、そういう人でも推薦があったら UNC に入ることはできるかもしれないし、入れれば「中退」を名乗ることはできるわけだから、嘘をついているわけではないのかもしれないけれど。

いすれにしても、こういう暇人は、己の内部だけで完結して時を楽しんでいただきたいものだ。記者面をして、識者面をして、表に出てこられると、現役世代の一人としては有害極まりないとしか言いようがないのだ。いや、本当に、早いところ「完全に」リタイアしていただきたいものだ。

2012/09/12(Wed) 13:29:29 | 社会・政治
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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