豚レバーの生食?
生レバーは僕の好物のひとつだった。今は食べられないが、新しい殺菌消毒手法の開発で、遠からず再び口にすることができるときが来ると信じているのだが、最近、禁止されたはずのレバ刺しを堂々と出している飲食店がある、という話を耳にした。聞くと、なんと豚レバーを生で出している、というのだ。おいおい。
重い食中毒を起こす恐れがあるとして牛のレバ刺し提供が7月に禁止されて以降、豚のレバ刺しが一部の飲食店などで出されているとして、厚生労働省は4日、店や消費者に注意喚起を求める通知を都道府県などに出した。生で食べずに加熱するよう求めている。
同省によると、豚の生レバーをめぐっては、サルモネラ菌やカンピロバクターなどによる食中毒が2003年以降、宮城、群馬、神奈川、愛知、岐阜各県で1件ずつ、計5件報告されている。死者は出ていないという。
牛のレバ刺しは、腸管出血性大腸菌O157による食中毒の恐れがあり、加熱以外に防ぐ方法がないとして提供が禁止された。
まず、通常肥育の豚を生食する、というのは、正直言って気違い沙汰だとしか言いようがない。E型肝炎やサルモネラ菌、カンピロバクターなどの感染はもちろん、最悪の場合は豚の持つ有鉤条虫を取り込んでしまうことになりかねない。有鉤条虫は人間の体内では成体になることができないので、幼生である有鉤嚢虫の姿のままで、全身のあちこちを彷徨う。人体の中で有鉤嚢虫が死ぬまでに数年を要するといわれているが、脳や眼球など、命を落とす可能性の高いエリアにも、この有鉤嚢虫は入り込んでしまうのである。
有鉤嚢虫は主に豚の筋肉を生食することで罹患するといわれている。しかし、豚の肝臓を生食するリスクが低いというわけではない。では、たとえば SPF 豚に代表される、いわゆる無菌豚なら大丈夫なのか。これに関しては日本SPF豚協会のコンテンツを参照していただきたいのだが、SPF の生産者も、豚の生食ということを表には出していないのだ。たしかに、SPF 豚が話題になり始めた今から20数年前、ホテルのレストランなどでも、この豚を使用した生、もしくはレアでの豚肉料理が供されていたのを僕も記憶しているのだが、これだけ牛の生レバーが禁止された状況であっても、SPF 豚がその安全性を前面に出して生食用に供されているという話は聞かない。これはおそらく、と畜・解体のプロセスまで完全に独立・無菌化するまでに至っていない、ということなのだろう。
いずれにしても、豚の生レバーは、牛のそれと比較しても危険性があることには変わりはない。しかも、豚の持つ有鉤嚢虫に万が一罹患した場合、有効な駆虫手段はない。このリスクを十分に考慮した上で、自分で食べるかどうか決めていただきたいものだ。僕はちなみに、豚のレバーを生で食べる気にはなれそうにない。