Xquartz と Emacs

かなり特殊な例だと思うのだけど、僕は Mac OS X を Linux 端末から remote で使うことが多い。Mac には Xcode と Xquartz を入れてあるので、X Window system ベースでコンパイルすれば、多少の GUI を使うことができる。僕がもう20年程も使っている GNU Emacs も、そのひとつである。

しかし、このところ、単純に configure → make bootstrap ではうまくコンパイルできない状態が続いていた。なんでかなー、と思いつつチェックすると、要するに Xcode と Xquartz で供給される X 周辺のライブラリを峻別しておかないとおかしなことになるらしい、ということに気付いた。

つまり、configure のオプションで、

--with-x-toolkit=gtk --with-x --without-sound --x-libraries=/usr/X11/lib --x-includes=/usr/X11/include
位は明示的に書いておいた方がいい、らしい。特に --x-libraries= を抜くと、/opt/X11 以下のファイルと峻別されず、これが原因でコンパイルエラーが出たり、コンパイルできても segmentation fault で落ちたりすることになるらしい。ちょっとしたことなのだが、今後は注意しておくことにしよう。

いつの間にか

普段から TeX Live 2011 を使っていて、ひとつだけ気になっていることがあった。dvipdfmx で PDF を生成するときに、

** WARNING ** 1 memory objects still allocated
という warning が出ることだった。これは実際の動作に何ら悪さはしていないようで、僕の普段の使用法(せいぜい日本語のフォントは著作権の絡みで使い分けが7、8種類で、OTF を使って、数ページから数百ページの原稿のタイプセットを行う)では問題になったことはない。しかし、どうにも気持ちの悪いものだったのだ。

しかし、だ。今日の昼頃だろうか……いつもの日課の TeX Live 2011 のアップデートを行ったらば、このメッセージが出なくなっていたのである。あっれー? まあ嬉しいと言えば嬉しいのだけど、一体これはどういうことなのか。

問題の warning に関して調べると、今年の6月のあるメールに到達した:

http://www.tug.org/pipermail/tex-live/2011-June/029415.html
このメッセージは開発者のためのものなので無視しておいて下さい……と書いているのは、あの角藤氏である。しかし、TeX Live 2011 は正式リリースされて2か月位経つわけで、このタイミングで出なくなる、というのは、何が起きていたのだろうか……まあ、でも、何にしても、出なくなって少し嬉しいのだった。

違う環境下での検証

最近、TeX Live のページなどを書いている関係上、奥村氏の TeX フォーラムを覗く機会が多いのだけど、ここで beamer が使えなくて困っている、という書き込みがあった。僕は普段はこの手の書き込みにフォローすることはまずないのだけど、そう言えば beamer って使ってないなぁ、と思って、ちょっと試すことにしたのだった。

奥村氏の『LaTeX2e 美文書作成入門』pp.299 にある example を書き移したファイル (beamer-test-win.tex)を作成して、platex で2回処理してから dvipdfmx で処理すると、こんな PDF ファイル (beamer-test-win.pdf……ちなみにこのファイルには Takao ex ゴシックが埋め込まれている)が生成される。以上。

……いや、以上、って、それじゃああまりに教育的ではないだろう。まあ、TeX Live 2011 はこういうときにはあまりに強力過ぎるので、他の環境で使っている人に有益な情報を提供できるとは限らないのだ。ということで、reboot して Windows Vista X64 上で試してみる。

……と、ここで重大な事実に気付いたのだ。w32tex って beamer 入ってないじゃん! いや、これは w32tex を纏めている角藤氏の不手際ではなくて、単純にプライオリティの問題なのだろうと思うけれど、そりゃ入っていなければ、使えないに決まっている……ということで、以下、TeX フォーラムの当該スレッドから引用しておく:

そう言えば w32tex には beamer は入っていないのですね?(僕の認識不足でしたらすみません)。ということで、w32tex に実際にインストールしてみました。

以前だと、sourceforge に beamer と pgf, xcolor 一揃えがあった:

http://sourceforge.net/projects/latex-beamer/

のですが、これは現在メンテされていないということですので、CTAN から取ってきます。

beamer.zip はそのまま展開します。pgf の ZIP ファイルは、展開後に格納フォルダの名称を pgf などにリネームしておくといいですね。xcolor もそのまま展開しますが、後で中の .ins ファイルの展開が必要です(後述)。

僕の手元の環境では c:\w32tex に w32tex がインストールされています。以下、path は適宜読み換えて下さい。

まず、

C:\w32tex\share\texmf-local\tex\latex

を作成します。この中に、

  • C:\w32tex\share\texmf-local\tex\latex\beamer
  • C:\w32tex\share\texmf-local\tex\latex\pgf
  • C:\w32tex\share\texmf-local\tex\latex\xcolor
のように展開したフォルダを置き、コマンドプロンプトで

> cd C:\w32tex\share\texmf-local\tex\latex\xcolor
> latex xcolor.ins

として、スタイルファイル等を展開してから、

> mktexlsr

で ls-R データベースの更新をすれば、使えるようになるはずです。僕の手元の環境では、使えるようになっています。先に僕が添付した pp.299 のファイルも処理できています。

# ここまで到達できない場合は、beamer 以前の TeX のインストールの段階で問題
# が発生しているかもしれません。

……いやー、我ながら丁寧に書いたもんだ。まあ、違う環境のユーザに対しては、これ位ケアすることもたまにはある、という話である。いや……そもそも僕は、誰に何も聞かなくてもこれができたわけで、それは他人が見ただけで読むのを諦める英文の document をちゃんと読む、とか、google でその時点での live なサイトをチェックする、とか、そういうことをしているからであって、そんなこたぁ誰だってできるはずなのだけど。

【追記】TeX フォーラムで、複数の方からご指摘いただいたのだが、w32tex では基本的に mktexlsr は使わない方がよい、らしい。僕の現時点での認識としては、w32tex の場合は ls-R データベースの作成は必ずしも must ではないので、無用な mktexlsr による ls-R データベースの作成は弊害の方が大きいから、だろうと思うのだが……たしかに『美文書……』でも付録 B.4 (pp.316-7) にそんなニュアンスの記述がある。

【追記2】TeX フォーラムで、w32tex のマスターである角藤氏が「mktexlsr しちゃいけない理由が私には分かりません」という内容の書き込みをされている。うーん、結局 ls-R 有害論って、実はよくある Windows ユーザ特有の「経験則信仰」ってやつなのかしらん?

MS明朝・MSゴシックをちょっと見直す

今日、TeX Live のメンテをしている最中にふと思いついて、OTF パッケージで Adobe-Japan 1-6 の全ての文字を表示させる .tex ファイルを簡単なシェルスクリプトを書いて生成して、dvipdfmx で小塚フォント、ヒラギノフォント、IPA フォント、そして比較材料として MS 明朝・MS ゴシックフォントを用いてフォント埋め込みを試験的に行ってみた。

まず断っておかなければならないが、これは厳密にはフォントの使用許諾事項に違反する。Microsoft は自社の OS の範疇以外で、自社のシステムに付属するフォントの使用を認めていないからだ。今回は、あくまでも実験であって、生成したファイル等は実験終了後速やかに消去しているので、念の為。

さて、では結果がどうだったか、というと、実は Micosoft フォントは、ヒラギノに次ぐ位のグリフ数があることが分かった。某所でちらっと読んだ話だけど、Windows Vista の MS 明朝のグリフ数は約 16,000 個だそうで、これは確かに Adobe Japan 1-4 より多く、1-5 よりやや少ない程度である。ううむ、MS 明朝、思っていたよりもやるじゃないか。

まあ、でも、これはある意味当然かもしれない。そもそも MS 明朝や MS ゴシックは、最初から Microsoft が開発したものではない。これらのフォントの母体になったのは、リョービの写植用字体で、それをフォントに仕立てたのはリコーである。やや細身だし、モリサワフォントなどと比較すると業務用に使えるような代物ではないかもしれないが、素性の悪い代物ではないのである。うーむ…… Windows 上で dviout で出力すれば、合法的に Microsoft フォントを使えるから、もしもの場合の選択肢として、記憶しておくことにしよう。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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