自分を疑わない人々

USENET の頃から、ネット上で他人の質問に答えるようになってもう20年程が経過したわけだけど、特にこの数年、僕を苛立たせる人々が増殖している。

一例を挙げよう。mixi の「DTM 宅録倶楽部」というコミュニティで:

[質問]C3 マルチ コンプレッサーというフリーソフトがあると聞いたのですが、どなたかご存知在りませんか?
(長ぇんだよゴルァ)というスレッドが立った。

があると聞いたのですが、

どなたかご存知在りませんか?

僕はMacintoshを使っています。

と、まあ、典型的な「教えて君」的な書き込みである。

こういう質問を脊髄反射的にスレッドに仕立てる連中の頭は、一体どういう構造をしているのだろうか。いつも僕は不可解さを感じる。もし僕がこのような疑問があるならば、とりあえず "C3 multi compresser" で google で検索をかける。造作もないことである。その結果としてこのようなものが得られ、そこを見たら、

http://www.geocities.jp/webmaster_of_sss/vst/
という URL に行き着く。実に単純な話である。というか、他人に聞いて調べてもらうだけ面倒な話である。

で、僕はこう書いたのだった:

どうしてトピを立てる前にまずググらないのだろう。

http://www.geocities.jp/webmaster_of_sss/vst/#c3

すると、こんな書き込みがされたのである:

すみません、Macで動くものが見つからなかったので・・・

リンクして頂いたURLから、
apulSoftをクリックして、

*Click here to download the OSX versions. (06/11/07)*

をクリックしたのですが、

ダウンロードしたファイルが開けません。

「開くために指定されているデフォルトのアプリケーションがありません」

と出ます。

OSXヴァージョン、であっているのでしょうか。

僕が使っているのでは i mac です。

http://www.geocities.jp/webmaster_of_sss/vst/を辿っていくと、"* version 1.2(VST-X and AU)special thanks to apulSoft." という記述があって、http://www.apulsoft.ch/freeports/にリンクされている。リンク先には、"Slim Slow Slider: C3 Multi Band Compressor 1.2" というタイトルで当該ソフトの紹介が書かれていて、"Click here to download the OSX versions. (06/11/07)" という風に:

http://www.apulsoft.ch/freeports/C3_Multi_Band_Compressor_1_2_2007_06_11.dmg
へとリンクされている。拡張子 dmg で表される Apple Disk Image に関しては、今更僕がここに書くまでもない話だけど、バイナリファイルを破壊でもしない限りは MacOS X で開けない筈がないのだ。試しに U の Intel iMac でダウンロードしてみると、何の問題もなく開くことができる。で、僕は:

他人を疑う前に自分を疑う方がいいですよ。今手元の Intel iMac で試しましたけど、

http://www.apulsoft.ch/freeports/C3_Multi_Band_Compressor_1_2_2007_06_11.dmg

が問題なく取得できるし、dmg として開くことも何の問題もありません。

# ただ僕は MacOS 上で Cubase を使っていないので VST 自体の検証はしていませんが。まあ、
# ボランティアでこれ以上検証する必要性も感じないけど ;-p

で、こういう書き方をすると、また逆ギレしてどうのこうの書かれそうなので、あらかじめここに毒を吐いておくことにする。

まず、僕には、このような質問をする「教えて君」が理解できない。いくつかのキーワードが分かっているのに google などで検索しない、というのがまず理解できない(今日日、小学生だってやりますぜ?)し、情報を必要としているのに、それを取得する最短経路を模索しないというのも理解できない。mixi なんかで、僕のような奴が戯れに質問に答えるとしても、そこには保証も何もない。ただボランティアとして回答しているだけだし(勿論、僕の場合は、自分が答える以上は充分な正確さを以て答えるようにしているけれど、それは相手の為ではなくて自分の為のことである)、そこに金銭や契約の縛りがあるわけでもない。だから、最終的には自分で確認するしか術はないわけだ。で、キーワードは分かっている。だけど検索しない。そんな態度は、無用な手続きや手間を増やすだけではないか。

そもそも、この「教えて君」の motive は何なのか? Cubase などの上で動作するVSTとして提供されているところの、マルチバンドのコンプレッサーを使いたい、それも商用に市販されているものを買うのではなく、フリーのプラグインが欲しい、ということなのではないか?だったら、ネット上でそれを探して、自分の持っている VST クライアントで動作させてみて、期待通りの動作をすればそれでオッケー、それだけの話ではないか。他人に教えてもらわなければならない訳でもないし、教えてもらうにしても、しょせんはフリーのプラグインに関する話で、しかも mixi の同好の士に聞くわけだから、そこに何事かが保証されるわけがない。on one's own risk で使うなら、さっさと探して、使ってみて、○か×かをさっさと見定めればいいだけの話だし、それ以上を望んでも何も満たされるわけがないではないか。

結局、この「教えて君」は何をどうしたいのだろうか。上につらつら書いてきた通り、僕にはそれが皆目分からない。ただ言えるのは、この手の「教えて君」の特徴として、以下のようなことが指摘できることだ。

  • 自分一人でさっさとできるはずのことを(何故か)しない
  • 安易に他者に質問する
  • 何をどうにかする上で、何がどう分からないのか、を整理できない
  • ぶっきらぼうな回答に対して、「自分はちゃんとやったけどできないんだ」、と自己正当性を主張する
  • しかし、その「できない原因」はほとんどの場合「自分がちゃんとやっていない」ためである
  • 回答が得られたり、キツいことを言われたりすると、すぐに消える
  • 自らの問とそれに対する答を「資源化」する、という概念がない

……そうか。こう書いてきたけれど、僕の意識は世間の人々と若干ギャップがあるのかもしれないな。その辺を一応書いておくことにしよう。

僕は、何か分からないことがあるときには、まず自分で調べる。昔だったら図書館に行ってカードを繰ったり、大型計算機センターのコンピュータにログインして INSPEC データベースを使ったりしていたわけだけど、たとえば僕が INSPEC を使い始めた頃は、文献検索はそのヒット件数に応じて課金されることが多かった(データベースの使用料金が、そのデータベースにどれだけ情報を披瀝させたかによって決まる、という、まあある意味フェアな思想ではある)から、如何にして無駄な情報を省いて、密度の高い情報を得るか、ということは、ある意味死活問題だった。だから、ワイルドカードや正規表現に代表されるような記号論理学的手法は最大限活用せざるを得なかったし、それ以前にそんなことは知っていて当然で、そんなものを知らないような奴は居場所がなかった。

そして、その過程で自分の欲しい情報が得られないとき、僕らは自分の過ちをまず疑った。検索で l と r を間違う、なんていう三歳児レベルのミスは、恥ずかしくてとてもじゃないけれど他人に話したりはできない。そんな細かいことで……などと思う不遜な奴のために、僕の出身学科の情報処理教育のプログラムでは、プログラミング演習の課題のひとつに、文献検索ユーティリティの作成、というのがあった。テキストファイルの文献データベースを read only で open して、任意の検索語で大小文字の別、複数形、複数行に渡る場合……等々に対応した検索を行えるユーティリティを FORTRAN 77 で書け、という、今考えるとちょっとアレな課題ではあったけれど、この課題は、文献検索というシステムには何が望まれていて、それをどう活用すべきなのか、ということを考えさせるという意味では、非常にいい課題設定だったと思う。何より、求める側の不遜な態度というものを僕らに理解させる上では、その効能は高かったのではなかろうか。

そして、研究テーマの設定を自分で行わなければならなくなってからは、このような情報探索の重要性はさらに増してくる。自分の考えているテーマが、今迄誰も設定しなかった研究テーマなのか、あるいは散々しゃぶり尽された、もはや面白くも何ともない代物なのか。誰も考察したことのない現象に対して、理論的アプローチの先達が何処かにいないだろうか。そういうことを問われたとき、僕らは真っ暗な大海原に放り出されたような心境になる。かつて、セクスタントとコンパス、それにクロノグラフで大洋を行き来した船乗りのように、僕らは INSPEC データベースとコピーで膨らんだファイル、それに、日常会話のどこに潜んでいるか分からないキーワードに常に耳目を向けていることで挑んでいたのである。

学部のときは、同じ学科で誰もやっていないコンピュータシミュレーションと、摂氏千度を超える温度で融解した液体を試料にした実験を二本建てで行っていた。特に前者は、誰も教えてなどくれはしない。僕は1960年代からの英語とフランス語(僕はドイツ語選択だったけれど、半泣きになりながら論文を読み込んだ……だって、誰も教えてくれないし、指導教官を詰ったって彼が教えてくれるわけでもないのだから)の論文と格闘し、スパコンの利用料金が払えなかったので、自分で情報関連の教官と交渉して、年末年始の情報処理教育センターで遊んでいる NeXT 数十台をリモートでブン回して計算を行って、研究を進めた。

修士のときは、試料が摂氏数百度で起こす構造変化に関して調べる必要があって、あちらこちら探して辿りついた文献はやはりフランス語だった……でも、そのときはもう、そんなこと位でどうのこうの言う程ガキではなかったから、さっさとそれを読んで、その情報を基に実験計画を建て直したけれど。

そしてドクターのときは、理論計算のバックボーンになる概念を探って、行き着いたのは1930年代の論文だった。60数年前の論文を基にプログラムを書き、計算を行いながら、オリジナルの計算モデルを構築する……なに、こんなのはいつものことだ。そんなことよりも、六十数年前に先達がいたことが、何と心強く思えたことか!

まあ、こういう時期を過ごした結果として分かったのは、プログラミングができないから、フランス語を習っていないから、教官が必要な知識を有していないから、という、どれ一つたりとも言い訳にはならないし、そもそもそれを言い訳にしても、何も問題は解決しないということ。頑張った、というだけでは、誰も何も評価してはくれないのだ。だって、そこに何も進展がないんだから。

こういう話は、研究だけじゃなくて、たとえば営業やってる人とか、八百屋さんとか、農業やってる人とか、漁師さんとか、どんな職種でも、大なり小なりあることだと思う。教えてもらえないから契約取れませんでした、では金は儲からないし、作り方知らないから転作できません、では、減反しながら作物を出荷できないし、魚探の使い方知りません、では、網を入れることもできやしない。何をしたいのか?契約取って金稼ぎたい、作物作って売りたい、魚を獲って港で売りたい……食うために必要なことは、皆やっているはずなのだ。そして、そういうプロセスにおいて、人は己のミスにはシビアにならざるを得ない。己のミスの責任は、己でとるしかないからだ。人が言う通りに自分でやったけどできませんでした。はあそうですか。できなかったのね。それだけでしょ?

しかし、最近の世間では、そういうときに自分を疑わない人々が確実に増殖しているのだ。何かできないのは、それをできるようにフォローしない他者の不適切な行為によるものだ、と言わんばかりである。そうやって何もかも他人のせいにして生きていけるのは、どうしてなのだろうか?僕にはやはり、そういう人々がてんで理解できないのだ。

タイムスタンプの改ざん

郵便不正事件:検事が押収品改ざん FD更新日を変更』(毎日 jp 2010年9月21日 10時34分(最終更新 9月21日 13時54分))このニュースは、朝日新聞の今朝の朝刊におけるスクープだったようだが、ここではこの毎日新聞の記事を保存用に引用しておく:

厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)に無罪判決が言い渡された郵便不正事件で、大阪地検特捜部の前田恒彦主任検事(43)が、証拠品として押収したフロッピーディスク(FD)の更新日時を改ざんしていたことが分かった。このFDは09年5月26日、特捜部が厚労省元係長、上村勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=の自宅から押収した。同地検の事情聴取に前田主任検事が「FDの日付を変えた」と認めているという。最高検は21日、証拠変造などの疑いもあるとして異例の捜査に乗り出した。

FDには、上村被告が作成した偽証明書のデータが保存され、押収時点の最終更新日時は「04年6月1日午前1時20分」だった。ところが弁護側が上村被告に返却されたFDを調べてみると、この更新日時が「6月8日」に書き換えられていた、という。

検察側は、村木元局長が04年6月上旬ごろ、偽証明書の作成を部下だった上村被告に指示したと主張。しかし、大阪地裁は、弁護側の請求で改ざんされる前のFDの更新日時を記した捜査報告書を証拠採用。その記載などから、10日の判決で、偽証明書を「5月31日深夜から6月1日早朝までに作成された」と認定、検察側の構図を否定した。

書き換えられたFDの現物は結果的に証拠採用されなかったが、主任検事が検察側の構図に合うように改ざんした可能性がある。同地検の事情聴取に前田主任検事は「FDの日付を変えた」と認めたという。

刑法は、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅、偽造、変造する行為について、2年以下の懲役または20万円以下の罰金を科すと定めている。【久保聡、村松洋】

◇「大変なことだ」 柳田法相

柳田稔法相は21日の閣議後会見で「最高検の捜査の行方をしっかり見守りたい。大変なことだという感じを受けており、真実であれば到底許されない行為だ」と述べた。

◇「きちんと検証を」 村木元局長

村木元局長の話 報道などで「ずさんな捜査」と指摘されてきたが、こんなことまで起こっていたのかと、本当に驚いている。検察はこの問題を能力と職業倫理の問題ととらえ、きちんと検証してほしい。

【ことば】郵便不正・偽証明書事件 実体のない障害者団体「凜(りん)の会」に、郵便料金割引制度の適用を認める偽証明書を作成したとして、村木厚子元局長ら4人が虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた。村木元局長は04年6月上旬、厚労省元係長の上村勉被告に偽証明書の作成を指示したとして、逮捕、起訴された。検察側は、有力国会議員の口利きで厚労省が組織ぐるみで偽証明書を作成した、との構図を描いたが、公判段階で上村被告は偽証明書は単独で作成したと証言。他の厚労省職員らも村木元局長の関与を否定し、今年9月10日、大阪地裁が村木元局長に無罪判決を言い渡した。

さて、僕は最初にこのニュースを見たときに「へ?」と思ったのだった。ここをお読みの方の多くがご存知だと思うが、僕は普段 Linux をメインの OS として使っている。Linux に限らず、いわゆる UNIX 系の OS、というか、コマンドセットにおいて、ファイルの更新日時……要するにタイムスタンプだが……を更新するのは実に簡単で、OS の標準コマンドセットに入っているtouchというコマンドを使えば一発でできてしまう。たとえば、foo.txt というファイルの最終更新日時を 2001年02月03日04時05分に変更するのだったら:

touch -mt 200102030405 ./foo.txt
としてやればいい。だから、僕のように UNIX 系の OS を使用している人間だったら皆こう言うことだろう:「タイムスタンプに証拠能力?そんなバカな!」早い話が、そもそも証拠物件としてのリストに入れること自体不毛だということで、もし僕が検事だったら、戦略としてこんなものは端っからリストに入れたりしないだろう。

今回問題になっているファイルは、官僚が作成した文書ということで、一太郎形式のファイルである可能性が高いのだけど、一太郎形式や Microsoft Word 形式のファイルの場合は、更新履歴にタイムスタンプに関する情報が残っていて、OS 上でタイムスタンプを更新しても日時情報が残存することが多い。しかし、これだって、手っ取り早く、時計情報を望む日時に合わせたコンピュータ上で改めてファイルを作成してしまえば簡単にごまかせる。そういう意味でも、タイムスタンプにそこまでの証拠能力を求めることは不毛だと思う。

……と、ここまで書いていて、何やら僕が不法なことでもしているかのように誤解される方がいるかもしれない、と思ったので、老婆心ながら書き添えておくけれど、タイムスタンプの変更というのは、システムの運用においてはしばしば行われているものなのだ。たとえば、あるデータファイルを外部のコンピュータから持ち込んだとき、その外部のコンピュータの時計が狂っていて、ファイルのタイムスタンプが未来になってしまっていることがある。そのファイルを扱うプログラムが、内部処理にファイルのタイムスタンプを使う仕様になっているとき、在り得ない「未来に更新されたファイル」が異常終了の原因になったりすることがある。こういうときの問題を回避するために、僕達はこの touch コマンドを使用するわけだ。強調しておくけれど、これは極めて普通のことである。

僕は手元の Windows にもGNU utilities for Win32を入れているので、Windows であっても touch コマンドを普通に使用している。そういえば、Windows というか、DOS 由来のコマンドセットでタイムスタンプの更新ってできなかったっけ……あれ?できない、か?と調べてみると……そうか、確かに、何もなしで Windows 上でタイムスタンプを書き換えるのはできなかったかもしれない。

これは勿論何らかのユーティリティを使えば造作もなくできてしまう。たとえばvectorの「トップ → ダウンロード → Windowsユーティリティ → ファイル管理 → タイムスタンプ・属性操作」を見れば、その手のことが可能なフリーウェアが山のように公開されているから、この中で用途に適合したものをダウンロードすれば、誰でもタイムスタンプの書き換えはできるわけだ。

ただし、だ。今回のタイムスタンプ改ざんを行ったとされる大阪地検特捜部の前田恒彦主任検事は、こう供述しているらしい:

「改ざんが見つからなかったので日付を変えるソフトで遊んでいたら、フロッピーディスク内のファイルの日付が書き換わっていたようだ」

いやそれ絶対有り得ないから。それともアンタ徹夜仕事してたら小人でも出てきたんか?ユーティリティ入れてその端末で証拠物件のフロッピーディスクにアクセスしてた時点で、何らかの意図があると見做されても仕方ないだろうに。そもそも証拠物件のリストにこのフロッピーディスクを入れた時点で、検察側も、このフロッピーに一切書き込みが不可能であることを第三者に保証された環境下でだけアクセスしなければならなかったのだ。もし、万が一、前田氏の主張が正しかったとしても、そのように扱わなかった時点で、誰もその主張を信用などするはずがないのだ。

もし、今まで報道されていることがが事実なら、こんなお粗末な話はない。もともと地検特捜部というのは、その発祥が、戦後日本で検察庁が権益を維持するために設立した、旧日本軍の闇物資を摘発して GHQ に渡す業務を行う「隠匿退蔵物資事件捜査部」で、これは当時の GHQ 内部でもその設立時に不要論が出ていた、と言われているのだ。これが社会に認知・許容されているのはただただ「社会正義の最後の砦」という認識、そしてそれを志向する行動があってこそ、であって、このようなお粗末な改ざんを本当にしていたのならば、地検特捜部の存続に関わる一大事なのである。大丈夫かいな、地検特捜部さんよ?最高検察庁が動いたって、身内相手に厳しく取り調べられるはずがない、と皆思うだろう。検察組織は法務省事務次官の直下にぶら下がった組織だから、副大臣クラスが中心になって特別調査委員会でも作らない限り、誰も取調べ結果を信用してくれないと思うけど。

「つながり」という名の欺瞞

世間で多くの人が利用しているmixiを、僕も利用しているわけだけど、最近はメリットよりもデメリットの方が多くて、正直言って自分の消息周知のためだけに入っている、と言う感じである。分からないことを mixi で質問する、ということもまずないし、質問に答えるときも最近は「傲慢な質問者」が多数派というお寒い現状なので、まともに答えることも少なくなっているからだ。現在全国ツアー中の山下達郎関連のコミュニティにも入っているけれど、僕は基本的に何か好きなものがあっても、そのファンには嫌悪感しか抱けないことが多くて、そこでアクティブにどうのこうのしているわけでもない。

で、だ。その山下達郎のコミュニティで、行けなくなったコンサートのチケットをファン同士で有効活用するために立てられているスレッドがあるのだが、そこで今日詐欺事件が発生したらしい。まあよくある話で、チケット代金を銀行に振り込ませて後は知らんぷり、みたいな状態らしい。僕も前回の山下氏のツアーはこのスレッドでチケットを譲っていただいて行ったのだけど、そのときは相手を知っていた(コミュニティ内での発言履歴等から)ので、このようなことには巻き込まれなかった。

そもそも、山下達郎のライブチケットは取りづらいことで有名なのだ。ホームグラウンドである東京、それも中野サンプラザともなると、電話に張り付いていてもなかなか難しい。そんな中野サンプラザ、それも前から5列目のチケットをペアで、という話は、どうも怪しいんじゃないのこれ?と思わざるをえないのだが、行きたくて行きたくて、でもチケットを入手できなかった人、だと思うのだが、既に振込を済ませてしまった人がいるらしい。

で、たまたま時間があったので、その容疑者とされる人物が何者なのか、プロフィールを観に行った。群馬県在住♂26歳、3月01日生まれ、血液型A、趣味が映画鑑賞、スポーツ観戦,、音楽鑑賞、カラオケ・バンド、料理、グルメ、お酒、ショッピング、職業が営業・企画系……とある。まあ無難な感じだ。

そして、おそらく引っかかった人がこれで信用してしまったのではないか、と思われるのが「マイミクシィ」の数だ。その数、49人。これだけの数の人と「つながり」を持っているならば、大丈夫だろう……そう思ってしまったのではないかと思う。

mixi が CM などで盛んに連呼している「つながろう」というキーワードだが、確かにこれだけを見たら共同体として意義深いもののように思われるのかもしれない。しかし、ネットワーク上でのつながり、と言っても、所詮は手続きとしての相互認証で、往々にしてその認証は極めていい加減なものに過ぎない。それはまさに、「つながり」という名の欺瞞に過ぎないのだ。

今回の容疑者に関して、容疑者のマイミクシィのプロフィールをチェックして、彼らがどのようなコミュニティに登録しているかを調べてみたところ、9割近くのアカウント(具体的には、所属コミュニティの非公開、あるいはアクセス制限をかけているユーザを除いて、46人中42人)が、「マイミクシィー拒否しません!」というコミュニティに登録しているのだ。要するに、この容疑者はマイミクの数を水増しし、多数の人と「つながっている」状態を形成して見かけ上の信頼度を上げるべく、「マイミクシィー拒否しません!」コミュ登録者に集中してマイミク申請を行った可能性が濃厚であり、このようなことで容易く水増しされるような、mixi における「つながり」の相互認証というものは、はなっから幻想に過ぎない、ということである。

mixi 上では、何を勘違いしたのか、僕の書き込みに対して的外れな否定の書き込みをしてきたり、「こんな書き込みはここの趣旨に反する」などという書き込みがなされたりしたけれど、どういうわけか僕が反論すると、再反論も謝罪もないままに、皆さん書き込みを消すんだなこれが。間違ったら消せばいいわけ?そうじゃないでしょう。間違ったら、間違った部分を残して「この部分は間違いでした」って訂正しなきゃダメでしょうが。別にその後に「すみません」とか「ごめんなさい」とか書く必要はないけどさ。まあこんな風に「消してしまえば間違えなかったことになる」とか考えてる連中は、きっと今回の一件から何も学ぶことなどできないんだろう。

そもそも、だ……たしか、山下氏のファンクラブから、この手のチケット交換はご遠慮下さい、というお願いが出てたはずなんだけどなあ。きっと前回も、そして今後も、この手のトラブルは続くに違いない。メディアは進化しても、人が進化しないからだ。進化どころか、馬鹿が大手を振って自己主張してるんだから始末が悪い。つくづく愚かな話である。

恐るべし JWord

Kaspersky Internet Security 2011 を導入してから、Windows Time サービスがうまく機能しなくなっていることに気づいた。Windows Time サービスというのは、SNTP プロトコルを用いて時計合わせを行う機能なのだが、時計が常に正確でないと、セキュリティ上好ましくない状態になってしまうので、この時計合わせはどうにかして行う必要がある。

たかが時計くらい……などと思われる方がいるのかもしれないが、セキュリティ上、この時計情報というのは実に重要である。何らかのアタックを受けたとき、対外的にアタックを受けたことを主張し、他のコンピュータのログなどと付きあわせて事実を証明するときに、時計情報が狂っていたら、相互検証ができなくなってしまう。OS の時計情報は、人間が現在時刻を知るためだけにあるものではないのだ。

Windows Time が使えない原因として、Kaspersky が、NTP/SNTP の通信に用いている UDP 123番ポートを塞いでいる可能性も考えられた…… NTP のセキュリティホールを突くアタックの例が、過去に報告されていることを考えると、まるっきり可能性のない話でもない。しかし、少なくとも、Kaspersky Internet Security 2010 が動いていたときには Windows Time が正常に稼働していたことを考えると、どうもこれが原因ではなさそうな気もする。とりあえず、あまり頭のよくない方法だけど、他の NTP/SNTP を利用したアプリケーションで時間情報の取得ができないかどうか試してみればいいだろう、ということで、Windows Vista 上でも動作する NTP/SNTP クライアントを探した。昔の NT の時代だったら「桜時計」というシンプルなアプリが存在したのだが、現在使えるものでは……と探すと、「i ネッ時計」なるアプリケーション(後述するが、このソフトはある理由から導入をお薦めできないので、これをお読みの方は導入されないよう)を発見した。とりあえずこれを使ってみることにして、アーカイブをダウンロードした。

普段は、このようなフリーソフトをインストールする際には、それなりに注意して作業を行っているのだけど、たまたま他にしていたことがあって、そちらに気をとられながらインストール作業を行っていた。で、本体のインストール時に「JWord プラグインをインストールしますか?」という問にうっかり「はい」と入力してしまったのだった。あー、しまったなあ、と思いつつも、まずは「i ネッ時計」の動作を確認する。

「i ネッ時計」は、ネット上の document には NTP サーバとしても動作すると書かれているのだけど、親サーバからの時刻取得には SNTP プロトコルを用いているようだ。しかも、現時点での日本の public な NTP サーバのリストが入っていて、1回ごとに親サーバを換えながら時刻取得を行うようになっている。福岡大の GPS を用いた NTP サーバが過負荷で問題になっていた頃ならばともかく、「インターネットマルチフィード(MFEED) 時刻情報提供サービス for Public」や「NICT 公開 NTP サービス」がある現在、このような機能はあまり意味がない。そんなことよりも、ネットワーク伝送で発生する誤差を統計的に推定・除去してくれる pure な NTP を実装してくれる方が余程有り難いのだけど……まあ、とりあえず、ntp.jst.mfeed.ad.jp からも ntp.nict.jp からも時刻情報を問題なく取得することができた。つまり、Windows Time の不調の原因は Kaspersky ではない、ということである。

さて、では……さっき入ってしまった JWord を除去しよう……と、アンインストールを試みるが、うまくアンインストールできない。おかしいなあ、と思いつつアンインストール時に実行されるファイルをチェックしてみると、system32 内のバイナリに変な要求を出すようになっている。こんなのあまり見かけないんだけど……何だ、これぁ?とりあえず JWord の配布元である www.jword.jp にアクセスしようとするが……ん?アクセスできないぞ。どういうこと?

Wikipedia における JWord の解説を読んでみて、ここまでタチの悪いシロモノだということを初めて知ったのだった。そもそも僕は、今まで JWord をインストールしたことが一度もない。こういううざったいシロモノは常に排除するのが僕の流儀だからだけど、うっかりで入れてしまったただ一度が、今回のこのときだったのである。これは、参った……

とりあえず、JWord プラグインが一部だけインストールされた状態になっていることは分かった。こうなると、もう一度 JWord プラグインを完全インストールしてからアンインストールを行わなければならないのだけど、そのインストーラーの配布元である JWord のサイトにアクセスしようとしてもできないのだ。チェックを注意深く行った結果明らかになったのは、

  • Google Chrome は jword.jp へのアクセスを禁止する仕様になっている
  • Kaspersky Internet Security 2011 は jword.jp へのアクセスを禁止している
ということだった。しかし、JWord プラグインのインストールなしには、除去の作業は困難を極めそうだ。そこで僕は、おぞましい作業を行うことになったのだった。それは、
  1. JWord プラグインのインストーラ(上書きインストール可能)の URL を確認
  2. Internet Explorer を起動
  3. Kaspersky Internet Security 2011 を落とす
  4. JWord プラグインをダウンロード
  5. Kaspersky Internet Security 2011 を再起動、ウイルスチェックを行う
……というものである。Linux でリブートすればもう少し安全に作業できるのだけど、とにかく僕は一刻も早く、この忌まわしい JWord プラグインを消してしまいたかったのだ。

かくして Jword プラグインはアンインストールできた。妙な DLL が残っている可能性が高いので、後でそれらを除去しておかなければならないが、まあ山は越せたわけだ。しかし……それにしても忌々しいのが「i ネッ時計」である。この手のソフトのインストーラに JWord プラグインのインストーラが忍ばせてあるのは、どうやらアフィリエイト目当てらしいのだけど、そんなものを紛れ込ませているようなソフトなんか、使い続ける気にはとてもじゃないけどなれやしない。

「i ネッ時計」は、かくしてアンインストールしてしまった。勿論、このままでは時計の問題がそのままになってしまうので、コマンドラインから、

net time /setsntp:ntp.nict.jp
と入力して、明示的に Windows Time の SNTP サーバを指定してやる。サービスの一覧をチェックして、Windows Time が起動していることを確認してから、時計のプロパティで手動の時刻更新をしてみると……うん、ちゃんと時刻情報を取得できるようになった。

……と思っていたのだが、よくよくチェックしてみると、Windows Time サービスは、ドメインユーザでない場合には、なんとデフォルトの更新周期が1週間!ということに気づく。おいおい、そりゃあんまりだろう……ということで、@IT の解説ページを参考にしてレジストリを編集。しかしなあ……勘弁してくれよ。これが Mac OS X だったら、普通ーに ntpd が走ってて、/etc/ntp.conf を編集するだけでどうとでもできるのにさ。カトラーには悪いけれど、本当に Windows はクソだぜ

それにしても、JWord がこれほどまでに忌み嫌われているとは思わなかった。ソフトベンダーがアホな販促活動をするとこうなる、ということなのだろうか……いやはや。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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