更に納戸の奥を漁ると、Stephen Bishop の "On and On" というベスト盤があるわけだが、これも今迄入れていなかったのを iTunes に入れ、聴き返す……うーん……なるほど。いや、何に引っかかったのかというと、歌詞の一節に、
I'm crazy about you, but I can't live without you.
というのが出てくるのであるが……日本人がもし同じことを書くならば、
I'm crazy about you, and I can't live without you.
と書いてしまいかねないなあ、と思ったのである。日本の学校の英語の授業でこの but / and が空白になった問題が出たとしたら、but という回答に自信を以て×をつける先生がいそうな気がする。しかし、だ。英語的に考えると、ここではむしろ but を使う方が正解なのである。
何故かというと、単純な理屈で、「単純肯定の文と単純否定の文をつなぐ」ときは but を使うことになっているからだ。日本語の上で考えると、「君に夢中なんだ」→「君なしでは生きていけないんだ」の→は「だから」なわけだけど、"I am crazy about you."→"I cannot live without you."の間の→は "and" ではなく "but" になるわけ。もちろん意味は日本語で「だから」をつないだ場合と何ら変わらない、ということになる。
Phoebe Snow にしたってそうだ。"Never Letting Go" ってのは、彼女の同名アルバムに入っている曲だけど、Stephen Bishop(シンガーソングライターで、フィル・コリンズが歌った "Separate Lives" を書いた人)の手になる曲で、もともとは Stephen Bishop 自身が Phoebe Snow のアルバムの出る前年にリリースした 1st solo に入れたのが初出だったはずだ。二人のテイクを聞くと、まるで The Isley Brothers が James Taylor の "Don't Let Me Be Lonely Tonight" をカヴァーしたときの二者の関係みたいに感じられる。まあ、あれ程アレンジを変えているわけではないんだけど、どちらの場合にも言えるのは、初出、カヴァーの双方とも、いずれ劣らぬ名曲である、ということだ。
僕の場合は、初めて買ったレコードは……そう、レコードだった。45 RPM のドーナツ盤というやつだ。まあここまではいい。何を買ったか話すと「えー Thomas さんがそれぇ?」と大抵言われるのだ。まあ確かに、今の僕の音楽嗜好だとこれは想像し難いかもしれないのだけど、僕が初めて買ったレコードは SALON MUSIC の『デュエットに夢中 (WRAPPED UP IN DUET) / Muscle Daughter』なのである。
SALON MUSIC というユニットは、カテゴライズが非常に難しい存在なのだけど、とりあえず、僕がこのドーナツ盤を買った頃やそれ以前の括りで言うならば、おそらくニューウェイヴ(それ以降の彼らを知る人々から猛攻撃を受けそうだけど)ということになるんだろう。今になって顧みるに、この時期に、まさかホンダの CM に彼らが起用されるなどとは誰も思わなかったろうし、それを実現させた人々はまさに先見の明があった、と言うしかない。
僕のように、自分で多重録音で音楽を作りたい、と考えていた人間にとって、SALON MUSIC の存在はとにかく憧れだった。アナログ・オープンリールの 8 tr. や 16 tr. を使って、プライベート・スタジオで音楽制作、なんて話を雑誌で読んでは、悶絶せんばかりの羨望を感じて溜息をついていたものだ。