明日の本会議で

今日提出された内閣不信任案の採決が行われる。小沢派に加えて鳩山由紀夫氏の周辺でも賛成に回る人々がいるとされる状況下で、明日(程なく今日になるのだが)の雲行きは見えない。

今日の党首討論で自民党の谷垣氏と公明党の山口氏が異口同音に発言していたのは、今回の不信任案が解散総選挙を望んでのもの「ではない」ということである。大連立を考える上でも、とにかく菅直人が総理大臣ではどうしようもない、だから辞めるべきだ、というのが、自民党と公明党の主張だったわけだ。今頃、おそらく民主党内では皆徹夜覚悟で右往左往しているのだろうと思うのだが、もし菅直人が総理を辞任するならば、今回の騒ぎで総選挙ということにはならずに済む(このタイミングで総選挙になったとしたら民主党が記録的大敗を喫することは想像に難くない……と、ほとんどの民主党関係者は考えているだろうから)のかもしれない。

たとえば、超ウルトラCで、国民新党の亀井静香氏を総理に担ぎ出す、なんていうことができるならば、あるいは八方丸く収まるのかもしれない。亀井氏は、今や数少ない菅直人の擁護者だから、彼に席を譲るということならば、ひょっとしたら菅直人も辞める気になるかもしれない……まあ、何が何でも辞めないと言っているわけだけど。

僕は、菅政権以前、先進国最悪の首相はイタリアのベルルスコーニだと思っていた。しかし、効能なきことがこれ程灼たかなる政治家というのが存在することを、少なくともこの1年で厭という程思い知らされた。もう十分だ。政治空白?今のこの現状のことを空白と言わずして何が空白なものか。政治空白をこれ以上拡大させないために、菅直人には、ここで内閣総理大臣の職を辞することを、心から望んでいるのである。

スクープの奇妙な中身

昨夜は午後10時過ぎに帰宅して、その後食事をしながら『NEWS23 X』を点けたら、TBS のスクープがトップに流れた。

1号機海水注入、官邸指示で中断

困難な作業が続く1号機。その1号機をめぐり震災の翌日、隠された事実があったことがJNNの取材で明らかになりました。

「先ほど午後8時20分から、現地では1号機に海水を注入するという、ある意味、異例ではありますけれども、そういった措置がスタートしています」(菅首相、3月12日)

3月12日。水素爆発を起こしたばかりの1号機の原子炉を冷やすべく、午後8時20分から海水の注入が始まった・・・、とこれまで言われてきました。しかし、実はそれより1時間以上早い午後7時4分に海水注入が開始されていたことが、東電が今週公開した資料に明記されています。これは、真水が底をついたため、東電が海水注入に踏み切ったものです。

政府関係者らの話によりますと、東電が海水注入の開始を総理官邸に報告したところ、官邸側は「事前の相談がなかった」と東電の対応を批判。その上で、海水注入を直ちに中止するよう東電に指示し、その結果、午後7時25分、海水注入が中止されました。

そして、その40分後の午後8時5分に官邸側から海水注入を再開するよう再度連絡があり、午後8時20分に注入が再開されたといいます。結果、およそ1時間にわたり水の注入が中断されたことになります。

「(注水)停止の理由、経緯については現在、確認している段階」(東京電力の会見)

1号機についてはメルトダウンを起こし、燃料がほぼすべて溶け落ちた状態であることが明らかになっています。海水を注入すると、含まれる塩分などの影響で原子炉が損傷するなどのリスクもありますが、専門家は「事故の初期段階においては、核燃料を冷やし続けるべきだった」と指摘。

「(Q.真水が尽きれば速やかに海水注入すべき?)原理的にまさにそういうこと。とにかく水を切らさないというのが主な方策。淡水(真水)がなくなれば、海水を入れるというのが自然の流れ。(Q.中断より注入を続けた方が良かった?)そうだと思いますね」(東京大学総合研究機構長・寺井隆幸教授)

なぜ、官邸は東電からの報告を受けた後、注入を中止するよう指示したのでしょうか。JNNでは政府の原子力災害対策本部に対し文書で質問しましたが、対策本部の広報担当者は「中止の指示について確認ができず、わからない」と口頭で回答しています。

原発を所管する海江田経済産業大臣は20日夜・・・。

「まだ私はそれを承知していません。(Q.事実ではないということ?)今、突然聞いたお話ですから、どういうことをおっしゃっているかよく分かりませんから、確認したいと思う」(海江田万里 経産相)

(20日23:37)

これは前にも書いたことだけれど、原子炉の冷却喪失が発生した場合、とにかく唯一にして最大の対策は炉を冷やすことだ。冷やす手段は水しかない。だからとにかく、水を突っ込むしかないのである。それを止めるなぞ、これは気違い沙汰だとしか言い様がない。

しかし、昨夜は二つの理由から、この件に blog で言及することをやめていた。ひとつは、僕が疲れていたから。もうひとつは、「何故注水を止めさせたのか」という、その彼らなりの論拠がつまびらかになっていないからだった。で、一晩が経って、時事通信社から出てきたニュースがこれである。

海水注入が一時中断=再臨界懸念し菅首相指示−福島1号機

東京電力福島第1原発事故をめぐり、発生直後の3月12日に東電が1号機で開始した海水注入に対し、政府が「再臨界の可能性がある」として一時停止を指示し、1時間程度海水の注入が中断していたことが20日、分かった。政府関係者が明らかにした。海水注入の中断で、被害が拡大した可能性もある。

1号機では、3月12日午後3時半すぎ、水素爆発が発生。東電の公開資料によると、東電は同日午後7時4分から海水注入を開始した。一方、首相官邸での対応協議の席上、原子力安全委員会の班目春樹委員長が再臨界が起きる可能性を菅直人首相に進言。これを受けて首相が中断を指示し、午後7時25分に海水注入を停止した。

その後、問題がないと分かったため、午後8時20分に海水とホウ酸の注入を開始したが、55分の間、冷却がストップした。

東電は1号機に関し、3月12日の午前6時50分ごろ、メルトダウン(全炉心溶融)が起きていたとしている。(2011/05/21-01:33)

上引用記事の下線は Thomas による。これを読むと、「班目春樹委員長が再臨界が起きる可能性を菅直人首相に進言」とあるが、一般論を言うと、水を喪失した原子炉に注水すると、再臨界が起きる可能性があるのは事実で、それは水が中性子を減速するために、核分裂に寄与する低速中性子の密度が高まるからである。

しかし、

  1. 原子炉の運転は緊急停止し、炉内には制御棒が押し込まれた状態になっている。
  2. この時点では、対外的には未だ炉内の燃料棒が健全だとみなされていた時間帯である。
という前提があるわけで、それを考えると、再臨界の危険を主張することも、それを受けて注水を停止させることも、論理的にその行動の説明がつかない。つまり、上に提示した前提のいずれかが崩れている、と官邸か原子力安全委員会、あるいはその双方が認識していた、と考えるのが妥当であろう。

上記 1. は、これはすぐに確認できたはず(制御室に電話なり専用回線なりで聞けば済む話だ……東電は電力供給網の管理のために自前の通信システムを持っているんだし)だし、原子炉の仕様上、制御棒は挿入されていると考えるのが妥当だろう。となると、官邸や原子力安全委員会が「崩れている」と考えていた前提は 2. だ、ということになる。2. が崩れている状態というのは、これは炉心が完全に崩れ落ちているような状態ということである。部分的に燃料棒の破損があったとしても、その形状の健全性がある程度維持されているならば、制御棒挿入で再臨界は防げるはずなのだ。つまり、これらから何が言えるのかというと、この時点で官邸や原子力安全委員会は、炉心の完全な崩壊が起きている可能性を考慮していた、ということである。

先にも書いたように、冷却喪失の事態が発生した場合、とにかくできることは冷やすことしかないのである。必要なら、後々非常に面倒なことになるとしても海水を注入することが必要である。注入する水が淡水か海水か、ということは、再臨界が起きやすいか起きにくいか、ということとは全く何も関係しない(前に書いたように海水の溶存元素の放射化という問題はあるけれど、溶存元素の放射化は、低速中性子の空間密度上昇には何ら寄与しない)。注水を中止したということは、その水が海水か淡水か、ということではなく、注水によって更に酷い状況になる、と考えていなければそうなり得ないはずなのだ。そのような判断に至る理由としては、上に書いた「炉心の完全な崩壊が起きている可能性を考慮していた」ということしか、あり得ないのである。

だから、もしこれが本当だとしたら、事故発生から極めて早い段階で、官邸と原子力安全委員会は、炉心が崩壊していたことを把握していたことになる。それを、連中は、つい何日か前まで、全く知らないような顔をしていた、そういうことになるのである。

嫌な予感

ここ最近、この blog でも言及している、いわゆる「メルトダウン問題」だが、どうも考えれば考える程、嫌な予感がしてならない。いや、まさかそんなことが……と思うのだけど、でも、そんなことが現実になっている今日この頃だからである。

始まりは、あの CH-47 にバケツを提げて海水を汲んでかける……という、あのときである。僕は、あまりのことに、しばし言葉が出なかったのだ。だって、冷やすべき対象は、格納容器の中にある圧力容器の、そのまた中にあるのだから。マトリョーシカに水をかけて、一番中の人形を濡らそうとする人がいるだろうか?それを大真面目にやって、挙句の果てには、細野豪志首相補佐官などは「これのおかげで『日本は本気で事態を収拾しようとしている』とアメリカに分かってもらえた」などと言っていたのである。

僕はあのとき、ああこの政府は愚か者の集合体なんだ、と思っていたのだ。しかし、この何日間の状況、そしてそういう状況を示す情報が五月雨式に出てくることなどを考えると、ひとつの恐ろしい考えが頭に浮かんできてしまうのだ:「あのとき、ヘリがあんな風に水を撒いて、炉内に水が入るような状況だったとしたら?そして、そういう状況であることが、今に至るまで隠蔽されているのだとしたら?」そして、こう考えると、原発敷地内にある瓦礫の一部が、あれ程高い線量を発している理由も説明がついてしまうのである。

炉心溶融に関して、東電や政府は比較的早い時期に認識していたに違いない。まあ、そういうことが起きていなければ、あの汚染水の説明もつかないし、それ以前に、あれだけ水を突っ込んでも水位が上がらないということの説明がつかない。今まで彼らがその事実を認めていなかったのは、おそらくは「認めたくなかったから」だろう。その程度の予測は僕もしていて、たとえば2011年4月6日の blog にそういうことを書いている。

しかし、もしも炉心が大気開放なんていう状態になっていたとしたら、これはとんでもない話である。まあ、僕の杞憂であると信じたいのだが、あいつらはもう背任行為だろうが何だろうがやりかねない、ということがこれではっきりしてしまったからなあ……

きっこ、逐電?

きっこのブログ』というのは、なんでも、ブログ業界ではたいそう有名なのだそうだ。僕は実はあまりよく知らない。そもそも僕自身、アクセス数を誇るために blog を書いているわけではないし、blog を書き始めてからの年数だったら、えーと……もう十数年書いているわけだから、別にそんなものを今更誇る必要もない。読んで下さっている方々が確実に存在し(最近はそういう方々とちゃんとやりとりしていないのだけれど)ているし、まあそういう方々は日々何事かを思って読んでおられるのだろう、と思っているのだが、それ以上のことを、正直あまり考えていない。勿論、軽々にものを書くことは問題があると思うし、ハンガリーの汚泥流出事故のときなどのように、僕の書いたものが情報源とされることもあるので、そういう意味での責任は負っているつもりだけど、それ以上、世間でそれが話題になるかどうかに目を向けているわけではない。ましてや、他人の blog に関して、そこまで興味を持っているわけがない。

で、僕は最近 Twitter も覗いているのだけど、この『きっこのブログ』を書いているきっこなる人物が、東電福島第一原発のメルトダウン報道を受けて、もう日本にいるのは危険なので国外に逃げる、という発言をして、話題になっている。僕はこのきっこなる人物のフォローをしていて、たまたまその発言をリアルタイムで目にしたのだけど、えーと……これかな:http://twitter.com/#!/kikko_no_blog/status/69408172053495808

このままだと北半球は終わるので、あたしはカナダ経由でオーストラリアへ逃げることを考えます。自分のことで忙しくなってきたので、しばらくツイッターから離れます。皆さんも自分のことだけを考えてください。GOOD LUCK!

何故、このような発言に至ったのか、と、このきっこなる人物の発言を遡及すると、こういう発言があるわけだ:http://twitter.com/#!/kikko_no_blog/status/69403508377530369

東電が1号機だけでなく2号機も3号機もメルトダウンの可能性を認めました!東日本だけでなく、中部、近畿、関西も厳しい状況になりました。チェルノブイリを前提とすれば中国地方の島根県までアウトです。避難するなら海外か、国内の場合は九州を目指してください!
うーん。まあ、建屋外の状況や汚染水の蓄積状況からみると、少なくとも3号機に関しては、1号機と同じような状況になっている可能性が高い、ということは、僕も前に書いた。しかし、今回の事故を、そのままチェルノブイリ原発事故と重ね合わせる、というのは、ちょっとそれは違うんだけどなあ、と思うわけだ。

チェルノブイリ原発で使用されていた原発がどういうものか、というのは、Wikipedia のエントリ「黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉」を御一読いただければ、概略はお分かりになるかと思う。この原子炉は、減速材である黒鉛のブロックを炉体として、燃料被覆体を更に被覆するように設けられた経路に水を流し、熱を取り出す構成になっている。この炉の運用において問題だったのは、この炉の安定性に重大な問題があった(簡単に言うと暴走し易い特性だったということ)と、いわゆる「封じ込め」が万全ではなかった、ということである。特に、この炉は炉の上方の封じ込めが万全でなく、その状態で爆発が起こったために、炉心が外界に完全に露出し、周辺には炉内の核燃料やプルトニウム、そして黒鉛ブロックの破片を中心とする、炉内の構成物が大量に飛散してしまったわけだ。

今回、炉心溶融で燃料棒がほぼ融け落ちている、というのは、格納容器に包まれた圧力容器の、その中での状態である。もちろん、圧力容器や格納容器の健全性は維持されていないことが分かっているわけだけど、チェルノブイリのときのような、炉内が外界に完全に開放された状態と比較すると、まだナンボもましな状態なのである。しかも、燃料の成れの果てである核物質は、今のところは少なくとも水に覆われている。水は汚染されるわけだけど、大気開放で塵が飛散している状態に比べれば、これもナンボもましな状態である。

前にも書いたけれど、これからこの福島第一の炉は、再臨界を起こさないように注意しながら、水による冷却を継続しなければならない。水が存在することは中性子が減速される、つまり臨界に至りやすい状況を作り出すけれど、冷却しなければ、更なる容器の破損を来すことが確実である。これはまさに無間地獄とでも言うような状態なわけだ。しかも、水を突っ込めば突っ込んだだけそれは汚染されて出てくる。どうにかして洩れは塞がなければならない。東電や政府が考えているような、コンクリートで埋めるようなことで漏水を阻止できるとは到底思えない。場合によっては、決死隊のような人達が内部で作業しなければならなくなるかもしれない。しかし、それでも、核物質の飛散という観点においては、これはチェルノブイリと同じ状態には程遠い。

東京の下水処理施設3か所の汚泥から、10万〜17万ベクレルという高濃度の放射性セシウムが検出されたというニュースも流れていて(http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011051301000689.html)、不安になるのも無理はないし、実際、健康面で今後問題が出ない保証はない。しかし、繰り返すけれど、今回の福島第一原発の状況を、そのままチェルノブイリの状況に重ねるのは、無意味な行為である。たとえば、今回の汚染範囲と汚染状況を、日本の地図にチェルノブイリの汚染マップをそのまま重ねて評価する、というのは、これは論理的根拠のない行為である。この点だけは、何が何でもはっきりさせておかなければならない。不用意なアジテーションで右往左往してはならないし、ましてやさせてはならないのである。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

New Entries

Comment

Categories

Archives(902)

Link

Search

Free

e-mail address:
e-mail address