「まりん」、虐待、そしてエゴ

U は、しばらく前から1匹の猫を預かっている。この猫、名前を「まりん」と言う(本当は漢字で「真凛」と書くらしいのだけど、僕はそういう暴走族の落書きみたいな名前を自分のブログになんか書きたくはないのだ……この名前のセンスがそもそも最悪だと思うのだけど、これは U がつけたわけではないので何ともしようがない)。

そもそも、U がまりんを預かることになった経緯はどんなものか、というと、以前に U が飼い猫の「みかん」を譲渡された団体の代表から、「今現在、自宅で飼育できる限界を超えて飼育している状態なので、よかったら1匹面倒をみてはもらえないだろうか」という話を聞いて、それだったら一時的に面倒をみましょう、餌代位だったらまあもってもいいでしょう、でも医療費は病院にツケにしておくからそちらでお願いね、ということで引き受けたのだった。U に見せられた「まりん」の写真は、怯えた表情で丸まっているもので、僕はどうも、背後に何かあるんじゃなかろうか、と思っていたのだった。

U の家に連れてこられた「まりん」だったが、これがとにかく人を怖がる。僕を見て怖がるだけだったら、男性を警戒してのことだろうとも思えるのだけど、給餌やトイレの世話を一手に引き受けている U のことも一切信用しようとしない。ケージの中のトイレの陰に隠れて、撫でようとすると威嚇音を発する。U は、まあこういうこともあるだろう、と、あまり気にしていなかったけれど、僕にはどうにもこの状態が気になった。

いやあ、捕獲されるときに怖い思いでもしたんじゃないの、と U は言うのだが、とにかく執拗に人を警戒し、気を許さないこと、そして、手に何か持って近寄ったりしたときに、まるでスイッチが入ったように逃げ、隠れ、そして怯える様は、ただ単に捕獲時に怖い思いをしたためだとは、到底思えない。あたかも、「まりん」側のトラウマに触れるような何かがあって、それに触れるような行動をこちらがしたときに、先のようにスイッチが入ったように怯える……その様を見ていて、僕の頭にはひとつ大きなものが引っかかったのだった。

「なあ、まりんは、保護された後に虐待を受けていた可能性があるんじゃないか?」

最初は U も、まさかそれはないでしょう、と言っていたが、僕が何度もそう言うので、気になったようで、先の団体の代表に訊いてみたらしい。

U の聞いてきた話は恐るべきものだった。「まりん」を保護した人物は、不祥事を起こして職を追われ、保護した猫の世話ができない状態になったために、その団体代表に泣きついて「まりん」をはじめとした何匹かの猫を預けたらしい。で、その「まりん」を保護した人物は、

「どうもね、目付きが気に入らない猫がいると、そのケージに一面に紙を貼って見えなくしたり、とか、やっぱり気に入らないことがあったときに、猫をペットボトル(中身の入った)で殴って、猫が鼻血を出すようなこともあった、という話らしいよ」
「……その話は、例の団体代表から聞いてきたんだな?」
「うん」

何のことはない、僕の予想通りだったわけだ。「まりん」は、路上生活から解放されたかと思ったら、今度は気分次第で何をされるか分からないような環境に置かれ、ペットボトルで殴られるようなめに遭った。おそらくそれ以外にも、「まりん」を保護した人物は「まりん」に対して(そしておそらく「まりん」以外の猫に対しても)虐待を行っていた、と考えるのが自然だろう。

何か月かが経過して、「まりん」はようやく、人に対する警戒を緩めはじめた。僕を見たときは隠れることが多いけれど、U には擦り寄って甘えたり、床に転がって愛嬌を振りまいたりもするようになってきた。「まりん」の心は、U の毎日のケアによって、確実に快復してきたのだ。ところが、である。「まりん」を保護した人物から、

「まりんは私の保護猫です。私が責任を持って引き取ります」

というメールが送られてきたらしい。ちなみに「まりん」を保護した人物は、現在定職に就いておらず、住環境に関しても、とてもまともに猫の面倒がみられる状態だとは思えないものらしい。しかも、かつて、まりんの心にこれだけの「トラウマ」を埋め込んだ人物である。「まりん」が引き取られたら、遅かれ早かれ、また「まりん」が虐待を受けるようになることは想像に難くない。

例の団体代表も、この件に関してまともに対応する気はないらしい。その周囲の人達が、「まりん」の行く末を案じて、問題の人物の元に戻されないように尽力してくれているらしいけれど、それだってどうなるか分からない。U も、あくまで一時的になら預かれる、ということで「まりん」を預かっているわけで、そういう状態なら飼ってしまえばいい、などと簡単に言える話ではない。猫の医療費は人間と違って全額飼い主負担である。人間と比較しても「え?」と声を上げたくなる程に高いのだ。既に「みかん」というパートナーがいるのに、そう簡単に猫をもう一匹飼うというのは、無理な相談である。

え?僕が何を言いたいか、って?こうやって動物が非道いめにあうことは往々にしてあって、それは大抵は人間のせいだ、ということだ。そして、動物を非道いめにあわせている当事者は、どういう訳かそういう意識が欠片程もないらしいのだ。こんな非道い話はない、そういうことを言いたいのだ。

2010/12/05(Sun) 16:44:43 | 日記

Re:「まりん」、虐待、そしてエゴ

guest(2015/04/02(Thu) 11:57:12)
> 真凛って名前の人だっているかもしれないぞ…!

なるほど。たしかにおられるかもしれません。
もしその方が直接クレームを寄越された場合は
伏せ字にするようにしましょう。ただ、私は
いわゆるキラキラな名前にあまり良い感情を
持っていないんですね。その辺りだけはご理解
下さい。あくまで主観なのですが……
Thomas(2015/04/09(Thu) 14:53:34)

Re:「まりん」、虐待、そしてエゴ

真凛って名前の人だっているかもしれないぞ…!
guest(2015/04/02(Thu) 11:57:12)
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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