pTeX が消える日
かつてアスキーという出版社があった。今はアスキー・メディアワークスという会社になっているけれど、このアスキーの遺した大いなる遺産のおかげで、僕達は今でも Linux 上でのタイプセッティングを容易にできている。
Publishing TeX (pTeX) は、現在に至るまで、日本語を TeX で扱うためにはなくてはならないものである。僕も、論文を含む数多くの文書を LaTeX で組版してきたし、現在もほぼ日常的に LaTeX を使っているので、この pTeX なしにはそういった仕事に多大なる障害を来してしまうだろう。
しかし、pTeX には大きな負の側面もある。pTeX 成立以後の TeX における日本語環境の進歩が、ほぼ止まってしまったのである。これに関しては、この何年かの間に問題が表面化してきた。特に、レジスタの数が256に限定されていることは、大きな問題であるとされ、北川氏によるe-pTeXで拡張がなされるまで、皆の頭を悩ませた。
e-pTeX と、土村氏によるpTeXLiveによって、現在は問題なく TeX/LaTeX での日本語処理ができている状況ではあるのだが、世界の趨勢というのはこれを遥かに引き離して前進している。e-TeX によるレジスタの拡張だけではなく、pdfTeX の登場によるダイレクトな出力(これは Device Independent な中間出力という Knuth の方法論を超えているわけだが)の実現と microtypography の実装、そして UTF への数々の対応策と、それらの総決算とも言うべき LuaTeX の登場によって、ヨーロッパ系言語における TeX 環境は、日本語のそれとはもはや別次元と言ってもいいような状態になっている。
じゃあ、僕は今一体どうしているのか、というと、TeXLive 2010 上での日本語環境というのを試してはダメ、試してはダメ、というのを何度か繰り返していたのだけど、ついに、こういうプロジェクトが立ち上がったことを今日になって知ったのである:
http://sourceforge.jp/projects/luatex-ja/wiki/FrontPage
(LuaTeX-ja(仮称)プロジェクト)
ようやく、という感じである。今後に注目したい。僕の環境から pTeX が消える日が、着々と近付いているのである。