僕はスリーフィンガーができない
もともと僕はギタリストではない。ないのだが、必要上弾くことが求められるし、弾く以上はちゃんと弾きたい。
先日の加藤和彦氏の死去で、メディアは主に彼がフォークミュージックの舞台で残した作品を流している。で……『あのすばらしい愛をもう一度』を聴く度に、僕は猛烈なコンプレックスに襲われるのだ。僕はああいうスリーフィンガーができないので。
スリーフィンガーというのは、その名前の通り、三本の指でギターを演奏する方法だ。親指が和音の根音を弾いて、それを鳴らしながら親指・人差し指・中指でアルペジオ(分散和音)を弾くのだけれど、僕は高校時代にこれの習得に一度挫折している。当時、僕のギターに関する相談に乗ってくれていた某先輩は、
「できないんだったら、フォーフィンガーで弾けば楽だぞ」
「フォー、ですか?ということは……薬指も?」
「そうそう。親指はベースノート(和音の根音)専門にしてやりゃいいんだよ。俺も最初はそうしてた」
と言われてやってみるのだが、どうもこれがうまくいかない。そのうちベースのスラップの練習の方に逃げてしまって、結局身に付かなかった。
もうこれは、怠慢としか言いようがない。だって、あの呑んだくれとして有名だった高田渡氏も、べろべろに酔っ払っててもちゃんとスリーフィンガーで弾いてたし、森山良子氏や加藤登紀子氏も、ギター一本でちゃんとスリーフィンガーで弾き語る。この世代の人に恐る恐る聞くと、皆こう言う:「えぇ?嘘ぉ?基本じゃない?」
かくして僕は、四畳半フォークを嫌悪しつつ、それ以前のプロテストフォークの世代の人々に強烈なコンプレックスを抱えたまま今に至っている。桑田佳祐氏は僕同様スリーフィンガーができないのだそうだが、彼はそのコンプレックスをボトルネックに昇華させた(いや、実際桑田氏のスライドって巧いんですよ)。翻って僕は……うーん。
かくして僕のコンプレックスはますます深くなっていくのであった。