must と have to の違い

先日の「えーっと」問題の中学生に、今度はこんなことを聞かれた。

must と have to の違いがよく分かりません。
うーん。普段だったら「自分で調べろ」とか言うところだけど、これに関しては、結構大人でもちゃんと分かっていない人がいるものなあ。ということで、教えたのだけど、その内容をここにも書いておくことにする。

まず、must と have to の話、というと、英語を使う人にこんなことを言われそうな気がする:

いや、今日日 must なんて使わないでしょう。
うーん。そうかなあ。まあ確かに、現代英語、特に会話においては、義務に関して言うときにはほとんどの場合 have to を使うだろう。しかし、だからといって must が不要だというのは、これはあまりに暴論に過ぎる。

まず、ここにはっきり書いておかなければならないけれど、must は have to の古い表現、ではない。これは以下の文例を考えたらすぐに分かるだろう:

  1. You have to study English hard.
  2. You don't have to study English hard.
  3. You must not study English hard.
最初の英文は、「あなたは英語を懸命に学ばなければならない」という意味である。いわゆる「義務」を表す文というやつだ。しかし、義務(……しなければならない)というのは、実は結構厄介な代物である。そのままのときはまだいいのだけど、これを否定しようとすると、実は義務の否定には2種類あることに気付くわけだ。つまり、「……しなければならない」の否定は:
  • ……しなければならない、というわけではない
  • ……してはならない
の2つが存在するのである。

英語の場合、この2者の区別は明確だ。「……しなければならない、というわけではない」が don't have to ... で、「……してはならない」は must not ... なのである。すなわち、最初の例では:

  1. You have to study English hard.(あなたは英語を懸命に学ばなければならない)
  2. You don't have to study English hard.(あなたは英語を懸命に学ばなくともよい)
  3. You must not study English hard.(あなたは英語を懸命に学んではならない)
となるのである。2. と 3. が全く違う意味なのに関しては、多くを書く必要もないだろう。

では、肯定文では must と have to は同じ意味になるのだろうか、というと、実はこれも微妙に異なる。つまり、

  • You have to study English.
  • You must study English.
のニュアンスは微妙に違うのだ。

たとえば、この話の you の英語の成績が悪かったとする。この場合、彼もしくは彼女が「英語を勉強しなければならない」ということは、誰から見てもその必要・義務があると思われるものだ。このような客観的な必要・義務を表すときには have toを使う。

また、客観的な必要・義務ということは、それが客観的でないと思われるのならば従う必要がない、つまり拒否権があるということである。だから、have to を使う方が表現としてはややマイルドな感じになる。

では、彼もしくは彼女の英語の成績が非常に良く、周囲からは「この子は英語が無茶苦茶できる」と思われているけれど、僕から見て、彼もしくは彼女の英語が僕の満足するレベルに達していない、とする。この場合、僕が彼もしくは彼女に「英語を勉強しなければならない」と言うということは、客観的に言う必要があるのではなく、僕の主観でそう言うわけだ。このような主観的な必要・義務を表すときには、have to ではなく must を使う。

主観的な必要・義務というのは、他に比較するようなものがあるわけではないから、これを言われた相手が判断したり拒否したりする権利を認めない、つまり非常に強い強制のニュアンスを持つことになる。だから、相手に義務を負わせ、ときには服従を強いる命令・勧告として must は使われるのだ。

他にも、must は過去形がなく、また助動詞なので will と共に使えないので、must は現在形でしか使えないのに対し、have to は現在・過去・未来のいずれの場合も(完了形ですら)使うことができる。まあ、こういったことが must と have to の違いということになるわけだ。

しかしなあ……これを説明するのは一苦労だよなあ。どうしたものだか。

2012/09/28(Fri) 02:42:32 | 日記
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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