櫛の歯が
システムの更新をすると、古いシステムで使っていた HDD などが余るわけだが、僕は今まで、そういう HDD を手軽な外部記憶領域として使ってきた。3.5 inch でも 2.5 inch でも、いわゆるケースを買ってくればいいわけだし、インターフェイスをうまく選ぶと非常に快適に使うことができる。
しかし、この何年かで、そうして使っていた HDD がひとつ、またひとつと壊れ出した。僕は喫煙しないので、やはりこれは機械的な限界というものなのだろうと思うけれど、まるで櫛の歯が欠けたように、外部記憶領域が消えていくのは、何やら厭な思いがしてならない。人というのも、こんな風に、少しづつ、少しづつ、僕の身辺から消えていくのだろうか、いや、僕自身が、そんな風に消えていってしまうのかもしれないのだ。HDD と人を比較するのは無意味な行為かもしれないけれど、この similarity は恐ろしい。
この数年で、まず最初に壊れたのは、Cubase VST を使っていた頃のタワーから抜き出した 3.5 inch の HDD だった。こいつは 7200 rpm のスピンドルだったので、有効な使用法を少し考えた。Cubase を動かすのに使うのは shannon (Dell Inspiron 1501) が多いのだけど、Inspiron 1501 には ExpressCard スロットがひとつ付いている。こいつを有効活用して、高速記憶領域として活用できないか……そう考えたのだ。
この手のニーズですぐ思い浮かぶのは FireWire で、僕も最初は FireWire カードの購入を考えた。しかし、カードの値段が結構なもので、おまけに業界標準の TI のチップの載ったカードがなかなか見当たらない。それに、そもそも Inspiron 1501 のカード周辺のインターフェイスはリコーのチップだし……と、ふと eSATA の存在を思い出したのだった。eSATA の転送速度はたしか 3 G bps とか 6 G bps だったはずだ。しかも、カードはたしか……おお、玄人志向にちゃんとある。ということで、ExpressCard バスに、eSATA 端子がふたつと USB 端子のひとつ付いたカードを挿して、そこから SATA で外部に HDD を接続したのだった。
カードの USB バスには Cubase のハードウェアキーを挿して、本体の USB バスにサウンドインターフェイスを挿して……という形態で、数年の間レコーディングを行っていたのだった。これは本当に快適だった。しかし、一昨年だったろうか、この HDD もお亡くなりになったのだった。
shannon はかなり早い段階で HDD を換装してあって、ちょっと前から使っている shannon-x61 (ThinkPad X61) も、購入後程なく HDD を換装した。どちらも、もともとの HDD は 120 GB 位しかない(換算すると実質 112 GB 位である)し、高回転のスピンドルというわけでもないのだが、小さな USB 端子付きのケースに入れれば、USB スティック感覚……とまではいかないが、簡単に持ち運べるメディアとして重宝する。どの道、内蔵メディアの更新時にケースは必要になるので、そのままそういう風に使い続けていた。
そして、shannon から抜き出した HDD が、今日、とうとう御臨終と相成った。さっき Windows 上で CHKDSK をかけていたのだが、もう尋常でない音がし出したので、さっき中断し、外してから Linux でリブートしたところである。しかしなあ……こんな風に、徐々に手元の HDD が死んでいくのは、本当に何か、こう、不安な心持ちにさせられるのであった。