迷惑なニックネーム、迷惑なメディア

ニックネームというのは、ほとんどの場合、好意で付けてもらうものだろう。だから、あまり文句を言うべきものではない、と仰る方もおられるかもしれない。しかし、そういうもので、文句を言い難い雰囲気があるものだからこそ、付けるときには少し気にしてもらいたいと思うことがある。

最近話題のダルビッシュ・有選手を「ダル」と呼ぶのは、これは彼の身辺の人達が「ダルビッシュ」を縮めて言い始めたのだろうし、それを責める気などは毛頭ない。大阪風に言うなら、ワシの連れのダルや、みたいな感じで、これはこれでいいのだろうと思う。しかし、彼がアメリカ大リーグに行く、となると、これは話が別である。

ダルと聞くと、おそらく英語圏の人々だったら dull と聞くだろう。dull の意味なんて、ちょっと考えたら分かりそうなものだし、このリンク先を御一読頂いたら、英語は苦手な人であっても、この愛称がアメリカ大リーグのプレイヤーに使われることの意味がすぐに分かりそうなものである。

当然、ダルビッシュ選手の大リーグ行きの話が具体化したら、マスコミもこの愛称を使わなくなるだろう……と僕は思っていたのだが、その予想に反して、マスコミはこの愛称をかなり長い間使い続けた。彼がアメリカのメディアの俎上に乗るようになった頃、ようやく日本のマスコミも「ダル」という愛称を使うことをやめたのだった。

僕がこのことで(十分分かっていたけれど)思い知らされたことは……日本のマスコミは「意思」というものを以て何事かを行うことを、とことん避けようとする、ということだ。こう書くと、一見、このことが好ましいように思われるかもしれない。しかし、メディアが何事かを伝える、ということにおいて、多くの人々が幻想として抱いているような「中立の立場」など、実は到底維持できるものではない。

ネット全盛のご時世である。たとえば、竹島問題に関する報道を、MSN 産経ニュース中央日報の日本語サイトで読み比べることだって可能な時代だ。何かしらニュースを読み比べてみれば、そんな「中立」性など幻想に過ぎないことは明白である。しかし、そのようなナイーブな幻想に浸り切っている人が、残念ながらこの国では多数派を占める……これがこの国の現実である。

メディアは根本的に厳密な中立性を持ち得ないものなのだ。それは少しでも相互比較をすれば明白な事実だ。それをメディア自身も認識しているはずだ。知らないとは言わせない。分かっている、そうに違いない筈なのに、なぜ、せめて、どのような立場で言論を発信しているのかをつまびらかにすることができないのか。それこそが、メディアの良心というものではなかろうか。「ダル」というのは英語では良くない意味なので、私達は今後ダルビッシュ・有選手の愛称として「ダル」を使うことをやめます、と、はっきり言うべきだったのではなかったのか。

言うべきことを言いもしないなんて、それはメディアのレゾン・デートルに関わる重大なサボタージュだ。僕は大リーグで活躍するダルビッシュ選手のニュースを耳目にする度に、この国の迷惑なメディアのことを意識する。そうか、「ダル」は彼らにこそふさわしいニックネームなんじゃないだろうか。そう思いすらするのである。

2012/05/01(Tue) 23:43:09 | 日記

Re:迷惑なニックネーム、迷惑なメディア

まあそれもひとつの考え方だと思います。そういう考え方に則って「ダル」と使い続けるメディアが出てきてもいいのかもしれません。しかし、それこそが "「意思」というものを以て何事かを行うこと" で、日本のメディアはそういうことはしないようですね……アメリカのメディアとクロスオーバーするまでは「何となく」ダル、と使い続け、彼が今のような状態になったら「何となく」使うのをやめる、と。それが問題だ、と思うわけです。
Thomas(2012/05/02(Wed) 07:29:02)

Re:迷惑なニックネーム、迷惑なメディア

上のguestはyorozuyaことtohmaでした。
guest(2012/05/02(Wed) 04:02:20)

Re:迷惑なニックネーム、迷惑なメディア

dullでいいんでない?野球選手で評価されるのは結果だし。ボンクラ、ノロマといわれつつ結果を残したなら、それは大物だし。結局、ダル本人が嫌と思うか否かそれだけだと思う。本人が嫌と思っていないんでしょ?だったらいいじゃないの?
guest(2012/05/02(Wed) 04:01:23)
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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