なぜオスプレイは危険だといわれるのか (2)

次に、「なぜオスプレイが必要とされているのか」について。

ヘリコプターは便利な航空機である。滑走路なしで離発着できるし、空中に静止したり、ゆっくり任意の方向に動くこともできる。だから、滑走路のない艦船から離船して、滑走路のない陸上地点で着陸し、再度そこから離陸し、船に戻る……というようなことが行えるわけだ。

しかし、ヘリコプターには、その構造に起因する本質的な問題がふたつある。それが速度と航続距離の問題である。

ヘリコプターは、ローターが揚力と推進力の双方を担っている。もし速度を上げたいならば、ローターの回転速度を上げるしかないわけだが、ローターの回転速度には限度がある。ローターの端部(外周部)の対気速度が音速に近付くと、抵抗や振動が生じるためである。また、進行速度と回転速度がともに大きくなってくると、ヘリの右側と左側とで、ローターの羽根が空気を切る対気速度の差が大きくなってくる。これは簡単なはなしで、ヘリの進行速度を V 、ローターの回転速度を v とし、ローターが時計回りだとすると、ローターの実際の大気速度 v' は、

v'R = V - v ……右側
v'L = V + v ……左側

∴ v'R < v'L

……まあ、簡単な算数である。これによって、左右で得られる揚力に差が生じてくることになるわけだ。

これらのような問題があるために、ヘリコプターの速度の物理的限界は時速 400 km 程度だろう、と言われている。実際には、CH-46 の巡航速度で時速240 km、改良型の CH-47 でも時速 270 km 程度である。世界最速のヘリといわれているアグスタウェストランド・リンクスでも、無改造での速度記録は時速 321.74 km である。これらは、たとえばプロペラ輸送機の代表格である C-130 ハーキュリーズの巡航速度 550 km には遠く及ばないものである。

また、ヘリコプターは常に大きなローターを回転させ続けなければならないために、燃料消費も問題になってくる。実際には、CH-46 の航続距離が 1100 km(外部タンク使用時)、改良型の CH-47 でも 2060 km である。これは空荷で直線飛行のときの値だから、人員や貨物を載せ、ホバリング等も行った場合の実際の行動範囲はせいぜい 7、800 km 程度、ということになる。

CH-47 を特殊任務用に改修した MH-47 は空中給油ができるように改修されている。ローターと給油機が接触すると大事故につながりかねないので、まるで槍のように長いプローブを装備することになるのだが、このようなプローブを用いて空中給油を行うとしても、先の速度の問題は如何ともし難い。行動可能な範囲は、速度と航続距離のかけ算で決まってくるわけだから、海という制約から解放された、とは言え、ヘリによる強襲揚陸作戦の行動可能な範囲は、決して広いものではない、ということになるわけだ。

こういう状況になると、ヘリと固定翼機のいいとこ取りができないか……という話が出てくるわけだ。実はその最初の実用的解こそがオスプレイなのである。これに関しては次のエントリで少し詳しく書こうと思う。

2012/07/13(Fri) 12:47:16 | 社会・政治
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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