なぜオスプレイは危険だといわれるのか (9)
以下に、V-22 の今まで起こした事故の一覧を示す。
年 | 死者 | けが人 | 原因 |
---|---|---|---|
1991 | 0 | 0 | 操縦システムの配線ミス |
1992 | 7 | 0 | エンジン油圧系もれ→発火 |
2000 | 19 | 0 | VRS |
2000 | 4 | 0 | 油圧系トラブル、警報システムの不備 |
2006 | 0 | 0 | 操縦システムの配線ミス |
2006 | 0 | 0 | エンジン、もしくは制御システムのトラブル→エンスト |
2007 | 0 | 0 | 制御コンピュータ誤作動→操縦不能の可能性 |
2007 | 0 | 0 | 吸気部塵芥除去装置の設計欠陥→エンジン油圧系もれ→発火 |
2010 | 4 | 16 | 低視界? 着陸の際の不手際? 状況認識の欠如? 降下速度大?(不明) |
2012 | 2 | 2 | 機械的欠陥は発見されず→人為ミス? |
2012 | 0 | 5 | 不明、調査中 |
合計すると、死者36名、けが23名ということになる。これは結構な数である。
しかも、これらの中にカウントされていない事故も散発している。メディア等でも流されている例を以下に示す:これらはいずれも「事故ではない」とされている。これらのようなものまで含めたら、到底ここに書き切れる量ではないだろう。
さて。では、V-22 の何が問題なのかを、ひとつづつ挙げていくことにしよう。
まず、ティルトローター機が本質的に抱えている問題として、ローターに関する問題が挙げられる。ローターは、ホバリングに最適化すると、水平飛行時の際に抵抗を生み、これが機体を不安定にする振動の原因となる。しかし、水平飛行に最適化してしまうと、ホバリングに必要な推力を得られない。V-22 は、この二者のバランス点を、水平飛行にかなり寄ったところに置いている。ローターはヘリコプターのそれよりも、むしろプロペラ機のそれに近い形状で、大きさの方より回転速度の方で揚力を稼いでいるような印象を受ける。
ローターやプロペラの推力は、単位時間あたりにどれだけの体積の空気を動かすことができるか、で決まるから、大きいローターと同じ揚力を小さなローターで得るためには、必然的に回転数を大きくしなければならない。そして、同じ揚力が得られたとしても、ローターの投影面積が小さければ、下方への風速はより大きくなり、流体力学的により不安定な要素が増えるのである。
これに対しては、XV-15 の時代から、風洞内や屋外で固定した実機の周りの空気の流れの測定が行われている。また、近年はスーパーコンピュータを用いた数値流体解析も行われている。NASA の公開している例を以下に示す:
- http://www.nasa.gov/multimedia/imagegallery/image_feature_2108.html
- http://www.nas.nasa.gov/SC11/Chaderjian_Rotorcraft_Backgrounder.html
このことは、おそらく VRS とも関わっている可能性が高い。ローターの投影面積が小さいために、降下速度が本質的に増加し易く、またローターのブレードからの気流の剥離が生じやすい傾向があると思われる。
また、ティルトローター機の本質的な問題として、遷移状態の問題がある。ホバリングモードと水平飛行モードの間の移行に関する問題である。オスプレイの場合、この移行に要する時間は12秒程度といわれているが、この12秒の間に何らかのトラブルがあった場合、安全に降りるための方法は皆無だと言っていい。だからこそ、XV-15 には射出座席が装備されていたのである。V-22 には射出座席はない。あっても貨物室に乗った人達は逃げようがないのだ。
更に、遷移状態にあるティルトローター機は横風、特に強い追い風を受けたときに姿勢が不安定になる可能性を指摘されている。これに関しても、大きな有効面積のローターで保持されたヘリコプターと比べて、ローターの投影面積が小さく、また大面積の翼や尾翼を持つティルトローター機は風に対する機体の挙動が敏感だろうから、事故の一因になっている可能性は高い。
そもそも、ヘリコプターは(意外に思われる方がおられるかもしれないが)緊急時にはむしろ固定翼機より安全だと言われている。オートローテーションという操作を行うことで、エンジンを停止していても減速・降下が可能なのである。一例として、ユーロコプター EC-120 がオートローテーションで着陸するデモ動画をリンクしておく:エンジン音がしないことがお分かりだろうか。このように、完全にエンジンを停止した状態でも、安全に着陸することが可能なのである。ちなみに、ヘリコプターの操縦免許を取得する際には、必ずこのオートローテーションが行えることが要求されるし、実際に訓練としてこの着陸操作を行わされる。
このオートローテーションは、まずローターとエンジンの接続を切る(クラッチを切ったような状態……ただし、メインローターとテイルローターの接続はされている)。機体の降下がはじまると、それに伴ってローターが回転する。ローターが回転すると下向きの気流が生まれ、揚力が生ずる。生ずる揚力は機体を浮かべ続ける程ではないが、機体を減速するのには十分な力が生ずる。地表に近付いたところで機首を上げ、グラウンド・エフェクトを最大限に利用して推進と落下の双方にがっちりブレーキをかけて、着地する。こういう原理で行われている。
このようにオートローテーションを行うためにはふたつの要素が重要となる。まず、ローターが十分な投影面積を持っていること……これによって、降下速度が減速された状態でも十分な揚力が発生することが保証される。そして、ローターの回転に対して十分な慣性力がはたらくこと……これによって、地表に近付いたときの減速時にも十分な揚力が維持される。ところが、ティルトローター機は先にも述べたとおり、ローターの投影面積が純粋なヘリコプターより少ない。そして、ローターの回転速度をエンジンでコントロールし易くするために、ローターが軽く作られていることと、ローターの回転半径が小さいために、その慣性力も純粋なヘリコプターより小さい。
そもそも、XV-15 に関する NASA の文書などを読んでも、XV-15 のオートローテーションに関する記述は出てこない。仕様に関する記述に、わずかに「オートローテーション時にはローターを 5°後方に傾ける」という記述があるのみである。V-22 においては、2002年に米海兵隊はその性能の必要要件の中からオートローテーションに関する項目を削除しているのである。つまり、V-22 は実際にはオートローテーションが使いものにならない、ということなのだろう。
もちろん、オートローテーションの試験をしているかもしれないけれど、V-22 の水平飛行時にはオートローテーションに入れる可能性はまずないと言っていい……だって、ローターを垂直にするのに12秒以上かかるんだから、それまでにどれだけ落下するか考えれば、これは実際には無理と考えるべきだろう。ではホバリング中はどうか……ホバリング中の高度は低いと考えられるのだけど、オートローテーションを行った場合に、降下速度を抑えるのは、上述の2つの要素が乏しい V-22 には困難だろうから、これも難しい、と言わざるを得ない。実際、数少ない V-22 のオートローテーションに関する記述では、いずれもかなり高度を確保した上でしか試験を行っていないのだ。各種資料をあたってみると、V-22 のオートローテーションには最低でも 1600 ft(500 m 以上)の高度が必要、とある。これでは緊急避難手段としては使いものにならないのである。
じゃあ、飛行機の通常の操作……滑空して不時着、でいいだろう、という話になるわけだ。たしかに、V-22 のローターは、接地時に容易に脱落するように作られている。だから、ローターがあの大きさでも安全に滑空・着陸できるのだ……というふれこみなのだけど、実際には、滑空となると、ヘリとしては小さ過ぎたはずのローターが仇となる可能性が高い。
プロペラ機でエンジントラブルが発生した時にどうするか、というと、フェザリングという操作を行う。これはプロペラのピッチ(迎え角)を最大(ブレードが進行方向に対してほぼ平行になる位)にして、プロペラをロックする措置だが、何故こんなことをするかというと、滑空時にプロペラが回転すると、推進力に対する抵抗を生んでしまうからだ。これは、先のオートローテーションで揚力が発生するのと全く同じ理由による。しかし、ヘリとしては小さいオスプレイのローターは、固定翼機のプロペラとして見ると、通常より遥かに大きい。つまり、滑空する上ではより邪魔なものになってしまうのだ。
しかも、V-22 の翼は同じ大きさの固定翼機と比較すると小さい。つまり、滑空時に得られる揚力は決して十分ではない。そこにきてローターの抵抗が大きい、となると、これは問題である。しかも、ローターの向きを適正にできなかった場合、その抵抗はローターが水平になっているときよりも遥かに大きくなる。結果として、滑空して不時着するという選択が、必ずしも安全なものとはなり得ないということになるのである。
さて、ここまでは、ティルトローター機の本質的に抱えている問題を見てきたけれど、ここからは V-22 独自の問題を見ていくことにしよう。
まず問題として目がいくのは、やはりエンジンであろう。事故原因を見返していただくとお分かりかと思うのだが、エンジンナセルからの出火が何度か起きている。これは、ローターと共にエンジンも角度を変える、という V-22 の仕様が関わっている可能性を否定できないだろう。
上の動画で、離陸時にエンジンから白煙が上がっている様子を撮ったものがあったが、この手のエンジンから白煙が出るとき、その原因の多くは、漏れた油が燃焼したか、気化したものが再凝結して細かい霧状になっているかのいずれかである。この場合も、エンジン停止時に漏れた油が、始動したエンジンの温度上昇に伴い白煙となった可能性が極めて高い。
ティルトローター機において、エンジンそのものを傾けることが不可欠というわけではない。以前に挙げたように、XV-15 構想時のボーイング・バートルのプランでは、エンジンナセルは翼と共に固定されていたし、現在構想の段階にあると言われている、C-130 クラスの大型ティルトローター機(2枚の主翼に4つのローターが付き、エンジンナセルは固定とする形のスケッチが出ているらしい)の場合も、エンジンは翼に固定されている。
では何故 V-22 でこのレイアウトが採用されたのか。それは原型機が XV-15 だからだ。では XV-15 で何故このレイアウトだったか、というと、これはベル・エアクラフト社がこのスケッチを出してきたからである。ベル社がこのレイアウトを採用したのは、エンジンを固定すると、エンジン=ローター間の伝達機能が複雑化することを、前世代の XV-3 で経験していたからなのだが、本当にこれはシンプルなアイディアだったのだろうか。そもそも、ガスタービンの回転速度はローターのそれに比べるとかなり高速で、エンジンの回転をローターに伝える過程でかなり減速比の大きな変速機構を挟まなければならない。しかも、変速機構も傾きを変えるので、特にギアに関しては大きな負担がかかることが予想される。事実、XV-15 の開発過程において、この変速機構の耐久試験には2年以上の時間を要し、その結果、ギアの溶接強度等の改善が行われているのだ。
あのようなエンジンの配置をしているもうひとつの理由として、エンジンの排気を推力 / 揚力として有効に活用したい、という要請があると考えられる、これは、ターボプロップの航空機一般で求められることなのだけど、あのようなエンジン配置の場合、ホバリング時に、ローターと排気とで巻き上げられた塵芥が、落ちてくる過程でそのままエンジンに吸われてしまう可能性が高い。勿論、この問題への対処として、エンジン吸気口には塵芥除去装置が付いているのだけど、エンジンに砂などの異物が入り込んだ場合、一時的な出力低下の原因となることがあり得る(エンジン内部のタービンや燃焼室に溶融した塵芥が付着するためだが、熱履歴などで剥離するので、また推力が回復する場合も少なくないだろう)。事故で報告されている出力低下が、このような塵芥の影響と本当に関係ないのか、十分な検討とその結果の情報公開が必要になるだろう。
エンジンの配置以前の問題として、姿勢制御におけるエンジンへの負担の問題にも言及しなければならない。何度も指摘しているように、V-22 のローターはヘリコプターとしては小さ過ぎるわけだが、この結果、上下動の微調整のために、エンジンの回転数を細かく調整する必要が生ずる。何らかの理由で下降が生じた場合、エンジンは急激に回転を増すことを要求されるわけだが、そもそもガスタービンエンジンは、このような急激な回転数の変化を得意としていない。自動車などにガスタービンエンジンが(ごくごく一部の例外を除いて)使用されない最大の理由がこれなのだけど、ローターが小さく、また軽い V-22 の場合、通常ならばローターの慣性によって吸収される負荷変動が、そのままエンジンにかかることが予想される。クルマにも劣らない程の細やかな出力調整が求められることは想像に難くない。このことが、エンジンへの過大な負荷の原因になってはいないだろうか。
エンジン以外の問題としては、制御システム、特に各種センサーとフライバイワイヤシステムに関わる問題が重要である。V-22 の初期における事故の多くはこれが原因であるからだ。固定翼機において、フライバイワイヤシステムの不備で事故に至った事例を前に動画で示したが、ティルトローター機の場合は、全く新しいシステムであるだけに、このシステムの問題は固定翼機に増して重要である。工学屋が言う「枯れた」システムにするために、初期の段階では十分な試験(ありとあらゆる操作を行い、想定外の結果が出るかどうかチェックし、改善を行うような試験)が行われる必要があるのだが、XV-15 を原型としたために、V-22 のシステムに対して、そのような厳重な「ダメ出し」チェックが軽視されてはいなかったろうか。この1、2年の間ですら、原因がはっきりしない事故が複数件数ある、ということは、この点をはっきりと否定し切れないからではないだろうか。
……と、技術的な検討を行うと、ツッコミどころが次から次へと湧いてくる。このような状況で何故、米軍は V-22 にこれほどまでに固執するのか。次回はそれに関して書くことにする。
Re:なぜオスプレイは危険だといわれるのか (9)
あと書き添えますが、ここだけ読まれて粘着的に書き込まれても、何もどうにもなりませんからね。あなたの書き込みの内容からは、あなたがこのドキュメントの (10) を一読だにしていないという結論しか導き出せないんですけど。何か言いたいことがあるなら、ちゃんと全部読んでからにしていただきたいんですけど。