おかしいのかなあ
昨夜、所用で某所に赴いたときのこと。
そこは構内が土足禁止なので、入口で上履きに履き替えることになっている。僕はいつも、そこにある上履きで目についたものを履くことにしていた。そうして下さい、と言われてそうしていたわけだが、今回に限って、いつも履いている上履きが見当たらない。下駄箱を見ると、小さなクロックスが何足かあったので、その中の一足を「窮屈だなあ」と思いながらも履いて、中に入った。
しばらくして、入口の方で何やら人の話す声が聞こえる。よく聞いてみると、
「……がない」
と言っているように聞こえる。ん……もしや、と思い行ってみると、
「アタシの上履きがない!」
と訴える女性と、あれーおかしいねえ何処にあるんだろう、と辺りを探している数人の人がそこにいたわけだ。
「あのー、ひょっとして……これのこと?」
と、おずおずと足を示すと、あー、それー! と声が上がる。どうやら犯人は僕だったらしい。参ったなあ。
当然だが、まずその女性に事情を話し「ごめんなさい」と言う。それから、下駄箱の奥の方に押し込まれていたいつもの上履きを発見したので、それを履き、小さなクロックスを揃えて彼女の前に置いた。
こういうときは、関西に長く住んでいた者としては、ただ置くだけでは済まされない、と思うものである。関西エリアにおいて、笑いというものは、こういうときに人間関係がギスギスしないで済むための一種の安全装置なのであって、場の緊張を解す一言というのが、暗黙のうちに求められるものなのである。だから僕も、当然、何と言おうかなあ、と考え、
「……温めておきましたので」
と言ってみたわけだ。しかし、次の瞬間、そこにいた僕以外の全員が爆笑したのである。
うーん。オヤジギャグだと厭がられるのを警戒していたのだが、そういうことにはならずに済んだらしい。しかし、
「いや Thomas さん面白過ぎだわ」
……そ、そうかなぁ。うーむ、僕ってひょっとしておかしいのかなあ。