なぜ Dimension が必要なのか
実は今日はうれしいことがひとつあった。前から探していた Roland™ Dimension D の代替 VST であるWOK VDIMENSION VSTを見つけ、入手したのだ。これでようやく自分の録音の大きな制約をはずすことができる。
……などと書くと「そんなエフェクタがなければ音楽も作れないのか」とか何とか言われそうなのだけど、この Roland™ Dimension D というのは、プレートエコーと並んで僕が長年使いたくて、でも使えなかったエフェクトで、これなしにはとにかく空間構築ができないのだ。今日はその理由も含めて、この Roland™ Dimension D の話を書いておくことにしよう。
Roland™ Dimension D ……オリジナルの型番で言うと SDD-320 ……というのをご存知ない方も多いと思う。それも道理で、もともとこのエフェクタはスタジオで使用されるものだったし、未だに「知っている人は知っている」エフェクトなので、もし中古市場に出ても即効で買い手がついてしまう。だから、どこかに陳列されているのにお目にかかることはまずないし、これを読まれている方が知らないとしても無理もない、と思う。
で、これは何なのか?という話なのだけど……世間に普通にあるエフェクトで言うと、コーラスなどに近い、というと分かりやすいかもしれない。ただし、コーラスとこの Roland™ Dimension D が決定的に違うのは、前者の出音がゆらぎを伴うのに対して、後者はあまりゆらぎを感じないように、音を空間的に拡げるように作られているところだ。これに関しては、実際の音を聴いていただかないと分かってもらいようがない。
で、ここに三種類の音源を用意した。以下、聴いていただきたい。
- Fender Rhodes Stage 2 (raw)
- Fender Rhodes Stage 2 (using Dimension)
- Fender Rhodes Stage 2 (using Dimension and plate echo)
Dimension を70年代の終わりに開発した Roland™ は日本の企業だけど、この音は、アメリカのスタジオシーンを発信地として世界中に受け入れられた。それまでのマルチトラックレコーディングにつきまとっていた閉塞感を打破し、80年代の音を空間描写に富むものとして僕たちに印象付けたのは、ひとえにこの Dimension のおかげだと言っても過言ではないだろう。オリジナルの Dimension は BBD (Bucket Bridge Device ……微細な FET 間で電圧のバケツリレーを行うことで信号を遅延させるアナログ素子)を使ったばりばりのアナログ機器なのだが、未だに市場に出ると誰かがさっくり買ってしまうのは、とにかくこの音がミックスダウンにおいて不可欠なものとされているからだ。
僕ももちろん、この Dimension の音に魅せられた一人なのだが、SDD-320 はさすがに持っていない。Roland 自身がこの SDD-320 をシミュレートしたものが、ハーフラックサイズのマルチエフェクタである BOSS SE-50 のプリセットに入っているのだけど、こちらの方は中古で即買いした(この SE-50 はその他にもヴォコーダーとして使えるプリセットがあったりするので、その価値を知っている人にとってはマストアイテムのひとつである)。ただ、最近は僕も Cubase 上で VSTi(いわゆるヴァーチャル音源とかソフト音源とか呼ばれるもの)の利用頻度が上がってきたので、わざわざエフェクトループを組むのが大変で、かなり困っていたところだった。今回のこの音源も、実際には Cubase 上で Applied Acoustics Systems の Lounge Lizard EP-3 という VSTi を立ち上げて演奏しているのだが、以前だと SE-50 を通す時点でノイズの混入が避けがたかった。そういう意味でも、今回の WOK VDIMENSION VST の導入は、僕にとっては画期的なことである。
本当は松本明彦氏の開発したプラグインが Windows に移植されるのを待っていたのだが、こちらの方が進んでいない(勿論進んでいないことを非難などできない……欲しいなら自分で作るか金を出せ、というのがソフトの世界の掟なので)ようで、日々代替になるものを探していたところであった。とにかくこのエフェクトが得られるだけでも、僕にとっては有難い。制作時間が確保できるのが今から楽しみである。