Adobe Reader 復活

実は、この何十日かの間、Adobe Reader が使えない状態だった。Linux、特に Debian GNU/Linux (sid) を使っているとしばしばあることなのだけど、今回は libgtk-2.0-0 に関わる不整合があって、長らく Adobe Reader を入れられない状態だった。

しかし今日、午前中にちょっと用事があって外出し、帰ってきてから apt-get の更新をかけたら、GTK 関連のライブラリの更新がかかっていて、問題の libgtk-2.0-0 も更新対象になっていた。これはひょっとすると……と、"apt-get install acroread" とすると、おー、ちゃんとインストールされたよ。何か久々だよなあ。

正直、今回の不整合の問題は長かったし、Adobe が Linux 版の Adobe Reader の更新に熱心でないことなどもあって、『TeX Live を使おう──Linux ユーザと Mac OS X ユーザのために──』の Adobe Reader に関わる記述を削除した方がいいのだろうか、と考えたりもしていたのだったが、もう少しの間はあのままでも問題ない、ということか。しかしなあ。Adobe もどうかと思うよな。Windows 版なんかもう ver.11 だってのに。

備忘録……シンボリックリンク用ツール

TeX の環境を Windows 上で構築する際、シンボリックリンクで苦労することが多い。Windows には MKLINK というコマンドがあって、このコマンドでシンボリックリンクを作成することができるのだが、このコマンドはワイルドカードが使えない。これでは、大量に存在するフォントファイルのリンクを作成する際などに不自由なことこの上ないわけだ。

で、ふとネットを彷徨っていたところ、こんなものを発見:

Link Shell Extension

まだ検証していないのだが、一応メモ代わりに書いておくことにする。

で、早速使ってみた。エクスプローラ上で簡単にシンボリックリンクやハードリンクが作れる、というものだったのだけど、これが困ったことに、C:\Windows\Fonts に関しては使えないんだな……これじゃあ TeX のセットアップでの旨味はないに等しい。結局バッチファイルを書いて MKLINK でリンクを張ったのだった。

視覚的理解の効能

何かと質問を受けることの多い今日この頃なわけだが、今度は高校生の数学の質問だった。

| x - 2 | + | x - 4 | = x を解け。

なんでも、数学 I という科目では、絶対値のついた方程式がよく出題されるらしい。うーん、丁寧に場合分けをするか、グラフでも書くかするかすればいいんじゃないの? と言うと、意味が分からぬらしくきょとんとした顔をされる。うーん……

| x - 2 | =
x ≥ 2 → x - 2
x < 2 → 2 - x
| x - 4 | =
x ≥ 4 → x - 4
x < 4 → 4 - x
だから、
| x - 2 | + | x - 4 | = x
x < 2 → (2 - x) + (4 - x) = x ...(1)
2 ≤ x ≤ 4 → (x - 2) + (4 - x) = x ...(2)
x > 4 → (x - 2) + (x - 4) = x ...(3)
と書くことができる。これらを解くと、
(1) x < 2 →
(2 - x) + (4 - x) = x
3 x = 6
x = 2 ……これは x < 2 に反するので棄却。
(2) 2 ≤ x ≤ 4 →
(x - 2) + (4 - x) = x
x = 2 ……これは 2 ≤ x ≤ 4 に属するので解。
(3) x > 4 →
(x - 2) + (x - 4) = x
x = 6 ……これは x > 4 に属するので解。
よって解は x = 2, 6 となる……と紙に書いてみるが、「ん? ん?」となってパニクってしまう。うーむ。ではこれならどうよ。

abs-plot-20130629.png
「y = |x - 2| ってのをグラフに書くと、y = x - 2 を 書いて、x 軸の下側を上側に折り返したものになるよな。だったら、このグラフの黒線になるだろう?」
「はい」
「次。y = |x - 4| ってのをグラフに書くと、y = x - 4 を 書いて、x 軸の下側を上側に折り返したものになるよな。だったら、このグラフの赤線になるだろう?」
「はい」
「では、グラフの黒線と赤線の y の値を足したものを考える。そうすると、x < 2 では傾き -2、x > 4 では傾き2、そしてその間では傾き 0 の直線になる……このグラフの青線のように。これが、y = | x - 2 | + | x - 4 |、だよな」
「はい」
「| x - 2 | + | x - 4 | = x の解、ってのは、この青線と、y = x の交わる点だよな。交わってるところでは | x - 2 | + | x - 4 | = x なんだから」
「……はい」
「じゃあ、y = x をピンクの線で書いて……交点の x 値を読めば、それが答だな。えーと…… x = 2, 6。これでいいよね?」

彼はまた「ん? ん?」と言いながらグラフを見直し始めたが……あー、分かりました、と呟いた。

まあ、いきなりこれに慣れるのも難しいか、ということで、次の問題をこの方法で解いてみてもらう。

| | x - 4 | - 3 | = 2 を解け。

うーん……となる彼に、
「まず、y = | x - 4 | のグラフを書いてみようか」

abs-plot-2-1-20130629.png
「……こ、こうですか」
「うん。じゃあ、それを基に y = | x - 4 | - 3 のグラフを書くとどうなる?」
「マイナス 3 って……どうしたらいいんですか?」
「3 引くんだから、3 下にずらしたらいいんだろう」
abs-plot-2-2-20130629.png
「……こうだよな。で、この | x - 4 | - 3 の絶対値ってことは、どうなる?」
「折り返すんですよね……」
abs-plot-2-3-20130629.png
「……こうですか?」
「そう。これで、y = | | x - 4 | - 3 | が書けたわけだ。で、これが 2 になるとき、ということは、y = 2 の線を引けば……」
abs-plot-2-4-20130629.png
「……こうですか?」
「そうそう。この赤線と青線の交点の x の値が解、ということになるわけだ」

彼は目を丸くして、しばしグラフに見入っていたのだった。

僕は、式だけでこのような式を解くときでも、このようなグラフをラフに書くのが習慣になっている。こうやれば見落しを防げるし、思いもしなかったことに気付くこともあるからだ。そして、高校生的には、このグラフにはもうひとつの大きな利点がある。解答用紙にこのグラフをちゃんと書けば、「上図より x = 2, 6 である」とか、「上図より x = -1, 3, 5, 9 である」とか書くだけで、このグラフ自体がそのまま解答になってしまうのだ。これは便利である。

このような視覚的理解というのは、一見、厳密な数学的理解を満たさないように見えるかもしれない。しかし、言葉を連ねるより図をひとつ書く方が、書くのも簡単だし、伝わる情報も多い。このようなセンスは理系には大事なものなのだが……もっと、脳ミソの力を抜かなきゃならないんだろうなあ、この子は。

TeX Live 2013

何日かぶりに TUG のページを見て、ついに pretest が完全終了して TeX Live 2013 が正式リリースになったことを知った。いやー、これでとりあえずは手元も安定するなあ。

2013 には、いくつか便利(とされている)なラッパーが入っているわけだけど、その中でも最近使っている人が多いらしいのが ptex2pdf である。これを僕のコンテンツで紹介するかどうか、ちょっと考えたのだけど、やめた。このラッパーの存在意義をあまり感じないからだ。

ラッパー wrapper というのは、この場合は、煩雑な複数のプログラムの組み合わせをひとつに「包んで」提供するユーティリティを指す。ptex2pdf の場合、それ自体は texlua で書かれたスクリプトで、ptex / uptex, platex / uplatex と dvipdfmx を一度の入力で適切に動かして、最終的な PDF 文書を出力するようになっている。こう書くと、さぞ便利そうに聞こえるわけだけど、果たして本当にそうだろうか。

いや、インストールしたままで、あるいは、tlptexlive の流儀に従って全てが整えられていれば、そういう恩恵を受けられるのかもしれない。しかし、僕の場合は、フォントの埋め込みをするかしないか、によって、複数のフォントマップを常に使い分けている。また、これも場合によって A4 と A5 と B4 という複数種の紙のサイズを使うし、縦横も変えることがある。こうなってくると、「デフォルトの設定をこれにしておけば後はオッケー」というような使い方は、小回りがきかない分苦痛を生むだけなのだ。

しかも、横書きでルビを使わない文書に関しては、パッケージの対応に関する問題がない限りは LuaTeX で扱うことが多くなってきた。そうなると、もはやこんなラッパーははなっから必要ないのである。

僕は何も「だからこんなものは消えるべきだ」などと暴論を展開する気はない。おそらくこのラッパーは TeXworks での利便性を確保するために書かれたのだろうから、そういう向きの方々は便利に使っておられるだろう。しかし、僕は教育的見地から統合環境を他人に積極的には薦めないし、自分でも使う気はない(vi や Emacs 以外で書く気にはなれない)。だから、おそらくこれからも ptex2pdf を使うことはないだろう。

ひとつ厭なのは、それを使う必要がないのに、たとえば TeX Wiki におけるコマンドの例を片っ端から ptex2pdf を使うように書き換えている輩がいることだ。そんな必要ははなっからないし、それは各プロセスでのトラブルの切り分けを意識させなくしてしまう。あれを見る度に「馬鹿の一つ覚え」という言葉が頭をよぎるわけだが、そういうわけで、『TeX Live を使おう──Linux ユーザと Mac OS X ユーザのために──』では ptex2pdf に関して特に言及する気はない。そのことだけここに明記しておくことにしよう。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

New Entries

Comment

Categories

Archives(902)

Link

Search

Free

e-mail address:
e-mail address

Counter

11659389