さて、いよいよ TeX Live で日本語を扱うための設定を行っていくわけですが、最初にまず、フォントに何を使うかを考えましょう。
フォントの選択をする場合には、そのフォントの適用範囲に関しても考慮する必要があります。たとえば、出版関連の仕事をされていて、モリサワパスポート等のような、膨大、かつグリフ数の充実したフォントを持っている方の場合と、我々の大多数(もちろん僕もこれに属します)のように、フォントに多額の出費をするのがはばかられるような生活をしている人では、この辺りの事情は大分変わってきます。
日本語フォントの収録文字数を知る目安が、そのフォントが Adobe-Japan 1-X のどの辺りに位置するのか、ということです。Adobe-Japan 1-X は、Adobe Systems 社が日本語組版目的に開発したコード体系で、Apple、NEC、富士通、IBM等の外字、共同通信の K-JIS や U-PRESS、写研 SK コード等にも対応しており、Unicode では区別されない異体字なども区別して、漢字を取り扱うことができます。Adobe-Japan 1-X の詳細に関しては、以下の論文を参照されることをお薦めします:
『Adobe-Japan 1-6 と Unicode—異体字処理と文字コードの現実』:安岡孝一, 情報管理 48[8] (2005), pp.487-495.この論文の著者である安岡氏は、Adobe-Japan 1 収録の漢字を異体字毎に分類した PDF ファイルを公開されています:
(JSTAGE で公開されている PDF ファイル)
『Adobe-Japan1の漢字(部首画数順)』: http://coe21.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~yasuoka/publications/Adobe-Japan1kanji.pdf
Adobe Reader に付属する「小塚明朝 Pr6N-Regular」「小塚ゴシック Pr6N-Medium」は、現在最も収録文字数が多い Adobe-Japan 1-6 を(ほぼ)満たしています。Mac OS X に付属する「ヒラギノフォント」は、リリース当初はこれに準ずる Adobe-Japan 1-5 (Pro)、もしくは Adobe-Japan 1-4 を (Std) 満たしていましたが、現在のヒラギノフォントは Adobe-Japan 1-6 準拠となっています。
これはあくまで僕の個人的印象ですが、小塚フォントにはやや癖があります。しかし、決して見苦しいものではなく、むしろその癖は見出しなどにおいていいアクセントになってくれるようです。こういう印象を得ているので、僕は普段は Linux 端末上での TeX / LaTeX 使用時には小塚フォントを常用しています。
これに対してヒラギノフォントは、教科書体のような格調高さを感じます。書体も明朝・ゴシック合わせると6書体あるので、フォントマップで場所によるフォントの使い分けも細かく設定できます。ただし、特に小さな文字を使う場合には、小塚フォントと比較するとやや線が細いという印象も受けます。僕の場合は、教育目的の文書や書類を作成する場合には、Mac OS X 上の TeX / LaTeX でヒラギノフォントを埋め込んだ PDF を作成し、印刷などに供しています。
フォントを使うときに注意しなければならないのが、このライセンスの問題です。フォントは一種の知的財産で、それを所有するということは、フォント供給者との間の契約条項に違反しない形態での利用権を得る、ということですから、
そんなの持ってる人の勝手でしょという理屈は通らないのです。
前述の Adobe Reader 付属の小塚フォントや、Mac OS X 付属のヒラギノフォントの場合について調べてみると、小塚フォントは「Adobe Reader を用いた日本語文書の表示・印刷」、ヒラギノフォントは「Mac OS X 上での日本語文書の表示・印刷」に、その使用範囲が限定されているようです。
特に TeX / LaTeX の場合、PDF 内にフォントを埋め込むことができますから、この使用範囲に関しては注意が必要です。フォントを埋め込んだファイルは、そのフォントがインストールされた端末上での閲覧・印刷(小塚フォントに関しては Adobe Reader による閲覧・印刷)に、その用途を限定しておくのが安全だと思われます。特に、作成した PDF を配布する場合には、この限定の範囲外となってしまう可能性があるので、配布する PDF には IPA フォント等の配布可能なフォントを埋め込むようにするか、あるいは日本語フォントを埋め込まないようにするか、いずれかの措置を講ずるのが安全だろうと思われます。
ただし、モリサワフォントに関しては、モリサワのサイトのコンテンツである『製品情報 商業利用に関して』中の Q & A に、以下のような記述があります:
これを書かれている通りに解釈するならば、モリサワのライセンスを得ている人が、フォントデータの埋め込まれた PDF ファイルを作成して公開・配布することは問題ない、ということになります。PDF へのフォント埋め込みに関してこのように明示されたのは、商用フォントではひょっとしたら初めてのことかもしれませんね。Q4:モリサワフォントを使用して作成した成果物は、モリサワパスポートの契約期間終了後も使えますか?
A:
モリサワフォントを使用して作成した成果物が、例えば、アウトライン化もしくは画像化されたデータまたはフォントデータが埋め込まれたデータ(PDF等)のような、機器にインストールされた当該フォントデータ無しにその表示および出力が可能な形式によるもの、または、紙もしくはフイルム等の媒体に出力された成果物である場合には、契約終了後でも使用出来ます。
契約期間中、終了後を問わず、モリサワフォントのライセンスを持たない方がその成果物を使用することも出来ます。
知的財産としてのフォントに対する弁理士の見解としては、以下の文書が、過去の経緯を含めて簡潔にまとめています:
『著作権実務ガイドライン 3 ——著作物—— フォント・タイプフェイスの保護』:丸山温道,月刊「ぱてんと」59[1] (2006年1月10日発行),pp.24-6.特許庁の見解も以下に示しておきます:
『タイプフェイスの保護』:特許庁,(社)発明協会アジア太平洋工業所有権センター,2009.
とは言うものの、実際に、商用フォントを埋め込むことがそこまでシビアな著作権上の問題になるものなのでしょうか。また、問題にすべきものなのでしょうか。
僕の身近にいる印刷媒体の関係者(この人はイラストレーターで、文字情報の流し込みを含む組版まで込みで仕事をしています)に聞くと、即座に「アウトライン」と返ってきます。文字情報が中心でない場合には、こういう解を選択すればいいのでしょう。しかし、アウトラインをかけるということは、文字情報を失うということですから、TeX / LaTeX の文書の場合にはこれは現実的ではありません。
では、公に公開されている PDF 文書ではどのようになっているのでしょうか。たとえば、
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/1905typeface_honpen.pdfこれは、特許庁の外郭団体である一般財団法人 知的財産研究所が平成20年3月に出した「平成19年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 『タイプフェイスの保護のあり方に関する調査研究報告書』」という文書です。まさにそのものずばりの文書ですねえ。この文書を斜め読みしていると、pp.59 脚註にこのような記述を見つけました:
この記述を以て、フォント埋め込みに目くじらを立てられることはない、と断ずるのは、いささか拙速だと思います。しかし、ここで注目すべきなのは、この記述よりもむしろ、この PDF 文書で使用されているフォントに関して、です。Adobe Reader でプロパティを見ると……108 本調査研究委員会においては、上述の問題のほかに、電子文書にフォントを埋め込み、インターネット等を介して当該文書を送受信することにより、当該文書を受け取ったユーザーにおいてその埋め込まれたフォントを使用することが可能となることから、こういった行為をも問題として採り上げるべきとの指摘もあった。しかしながら、国内アンケート調査及び国内ヒアリング調査結果からは、このような問題は顕在化しなかった。

実は、世間で公開されているほとんどの PDF 文書において、このように OS にバンドルされているフォントが埋め込まれています。おそらくこれらは、フォントの商用利用までが制限されているわけではない、という判断によるものだと思います。
たしかに、紙媒体で使用したり、アウトラインをかけたかたちで利用することに関しては、たとえばヒラギノをバンドルしている Apple や、Microsoft Windows のバンドルフォントの版権を持つ Microsoft やリコー等は OK との判断をしているようです。しかし、フォントを埋め込むことは、それらと同じ商用利用の括りで同一視できるかどうか……これは、やはりグレーなところです。埋め込まれたフォントはフォントとしての電子的情報を残したかたちでファイル内に存在しているわけで、これは厳密に解釈するとファイルの複製と言えないこともないわけです。
個人的意見を述べるなら、フォントが埋め込まれた PDF からフォントファイルを生成し、不法に用いるような輩が現れない限り、フォントの埋め込みに関しては問題ないものと考えています。また、そういう行為が為されたとき、その責めを負うのが、フォントファイルを「埋め込んだ側」か、「逆生成した側か」ということを考えると、「埋め込んだ側」に責めを向けるのはいささか問題があると言わざるを得ません。ですから、僕自身は、他人に渡すことのないファイルに対しては、比較的安易にフォントの埋め込みを行っていますし、それで法的問題が生じたことはありません。
ですから、ここでは、自家用等の(二次利用でないと言い切れる使用状況下における)商用フォントの埋め込みと、著作権的にツッコまれる危険がないフォントの埋め込みの双方に関して、解説を行っていこうと思います。
2011年10月29日に、TeX Live 2011 の配布パッケージに "ipaex" がマージされました。このパッケージに収録されているファイルを以下に示します。
以下、自力で日本語フォントが使えるようなセットアップを行っていきましょう。まず、TeX Live のインストールディレクトリを見てみます。
$ ls -l /usr/local/texliveとすると、TeX Live 2012 が入っている 2012 というディレクトリと共に、texmf-local というディレクトリがあるのがお分かりでしょうか。
google などでネット上のコンテンツを探すと、TeX Live の改変を行うのに、/usr/local/texlive/2012 内のファイルを直接書き換えている例を散見します。しかし、先に書いた通り、TeX Live は tlmgr というユーティリティでオンラインアップデートをかけることができます。このアップデートが、改変したファイルに対して適用されると、そのファイルの改変部は消えてしまうことになります。また、もし来年 TeX Live 2013 が出たとして、ここでこれから行うような改変をまたやり直す、というのは、あまり効率のいい話ではありません。
こういう場合のために、TeX Live では /usr/local/texlive/texmf-local というディレクトリが用意されています。この中に追加する部分を構成しておけば、アップデート時に消えてしまうことや、次年度の TeX Live に改めて改変しなければならないような状況を回避することができます。
また、TeX Live の新しい年度のリリース直後にしばしばあることなのですが、tlmgr によるシステム更新が上手くいかず、それ以降の更新が滞ったままになる場合があります。もちろん、原因をきちんと究明する(そしてそれを開発者にフィードバックする)のがベストなのは言うまでもありませんが、texmf-local を有効に活用している場合には、/usr/local/texlive/texmf-local/ をそのままにして /usr/local/texlive/2012 をばっさり消去→再インストール→システム更新、という緊急措置を講ずることができます。これはあくまで副次的効果と言えるでしょうけれど、時間がないときにトラブルが発生した場合などに、こういうことができると助かるものです……
フォントのインストール先は、
/usr/local/texlive/texmf-local/fonts/です。僕の場合は、
/usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype/public/kozuka/というディレクトリを作成し、この中に小塚フォントのシンボリックリンクを張っています。
小塚フォントは、僕のシステムの場合は、
/opt/Adobe/Reader9/Resource/CIDFont/KozGoPr6N-Medium.otfの二つです。ですから、
/opt/Adobe/Reader9/Resource/CIDFont/KozMinPr6N-Regular.otf
のようにして、リンクを作成しておきます。$ sudo mkdir -p /usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype/public/kozuka/ $ cd /usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype/public/kozuka/ $ sudo ln -fs /opt/Adobe/Reader9/Resource/CIDFont/Koz*.otf ./
尚、Linux 版の Adobe Reader(現在 Adobe は UNIX 系 OS の Adobe Reader は version 9 のままで開発を進めていて、2011年11月7日に version 9.4.6 を公開予定とのことでしたが、11月19日時点、英語版のみがリリースされている状況です)のパッケージには、どういうわけか KozGoPr6N-Medium.otf が入っていません。通常の Adobe Reader の使用時にですら、これが原因で、ゴシックが指定された文字列の表示がおかしくなることがあるので、僕は暫定的に同じ端末の Windows 版 Adobe Reader に添付される KozGoPr6N-Medium.otf を /opt/Adobe/Reader9/Resource/CIDFont/ にリンクして使用しています。
許諾条項的にグレーなんじゃないか、という話もあるんですが、これで訴えられるんだったら訴えてみろやゴルァ……という感じですね。だって、小塚ゴシックが入っていないせいで、見出しが明朝になるだけならばまだしも、ゴシックの文字列が「・」の集合体になったりするし、これが先の小塚ゴシックのコピーでピタリと治まる、ということは、明らかに Linux 版の Adobe Reader が /opt/Adobe/Reader9/Resource/CIDFont/KozGoPr6N-Medium.otf の存在を前提にしている、ということでしょうから。
この場合も、
/usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype/public/hiragino/というディレクトリを作成し、この中にヒラギノフォントのシンボリックリンクを張っています。
ヒラギノフォントの場合に注意しなければならないのは、元々のフォントファイルが日本語のファイル名になっていることです。そのままリンクを張ると、後々フォントマップの作成等で面倒なことになるので、
のように、英字のファイル名にしてリンクしておきます。$ sudo mkdir -p /usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype/public/hiragino/ $ cd /usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype/public/hiragino/ $ sudo ln -fs "/Library/Fonts/ヒラギノ明朝 Pro W3.otf" ./HiraMinPro-W3.otf $ sudo ln -fs "/Library/Fonts/ヒラギノ明朝 Pro W6.otf" ./HiraMinPro-W6.otf $ sudo ln -fs "/Library/Fonts/ヒラギノ丸ゴ Pro W4.otf" ./HiraMaruPro-W4.otf $ sudo ln -fs "/Library/Fonts/ヒラギノ角ゴ Pro W3.otf" ./HiraKakuPro-W3.otf $ sudo ln -fs "/Library/Fonts/ヒラギノ角ゴ Pro W6.otf" ./HiraKakuPro-W6.otf $ sudo ln -fs "/Library/Fonts/ヒラギノ角ゴ Std W8.otf" ./HiraKakuStd-W8.otf
上記以外のフォントを使用されたい場合も、/usr/local/texlive/texmf-local/fonts/ 以下にシンボリックリンク、もしくはフォントファイルを配置し、適切なフォントマップを用意して ls-R データベースを更新すれば、使用することができます。フォントは TrueType フォントも OpenType フォントも使用できますが、/usr/local/texlive/texmf-local/fonts/truetype と /usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype というサブディレクトリを切って、その中に配置するといいでしょう(上の小塚フォント・ヒラギノフォントの場合はそうしています)。
また、IPA フォントや Microsoft が供給しているフォントを使用する場合、これらのフォントは CID に対応していないので、/AJ16 オプションを明示的に書き、Unicode への変換過程で Adobe-Japan1-UCS2 テーブルを参照するように指定する必要があります。具体例としては、この文書の下の方にある「IPA ex 明朝 / ex フォントを埋め込むフォントマップ」のファイル内記述を御参照下さい。
フォントマップの作成に関しての詳細は『美文書作成入門』の第13章に説明がありますので、ここではふれません。とりあえず、僕が普段使っている4種類のフォントマップをここに用意しました。
埋め込みなしのフォントマップは、ptexlive のフォントマップを流用させていただいています。それ以外のフォントマップは『美文書作成入門』 pp.238-241 の記述を参考に作成しました。これらの4種類のフォントマップは、後でインストールを行う OTF パッケージにも対応した内容にしてあります。
今回は、dvipdfmx で PDF ファイルを生成することを考えていますので、
としてディレクトリを作成して、このディレクトリ内にフォントマップを配置します。$ sudo mkdir -p /usr/local/texlive/texmf-local/fonts/map/dvipdfmx/
TeX / LaTeX ではおなじみの、ls-R データベースの更新をしておきます。
$ sudo mktexlsrもしくは、
$ sudo texhashとすることで、ls-R データベースが更新されます。更新時のメッセージをよく見ていると、texmf-local 内にもちゃんとデータベースが作成・更新されていることが分かります。
一般的な TeX / LaTeX の処理に関しては、『美文書作成入門』等を御参照いただければよろしいかと思いますが、上記のようなフォント・フォントマップを使用する場合でも、そのプロセスは基本的には変わりません。
で、foo.tex から foo.dvi が作成されます。問題は、この DVI ファイルから最終的な出力ファイルを得るプロセスですが、ここでは例えば、$ platex foo.tex
のように、明示的にフォントマップを指定して dvipdfmx を起動します。そうすると、$ dvipdfmx -f hiraginoEmbed.map foo.dvi
のようにメッセージが出て、foo.pdf が生成されます。実は、"** WARNING ** 1 memory objects still allocated" という warning がどうしても出るのですが、$ dvipdfmx -f hiraginoEmbed.map foo.dvi foo.dvi -> foo.pdf [1][2][3][4][5][6][7][8][9] 231096 bytes written ** WARNING ** 1 memory objects still allocated
http://www.tug.org/pipermail/tex-live/2011-June/029415.htmlによると、これは開発者用のメッセージで無視してもさしつかえないもののようです。
【追記】2011年9月14日時点で、この warning は出ないようになりました。
配布目的で、フリーフォントだけで埋め込みを行いたい、という場合があるかもしれません。また、論文や学会の proceedings の原稿を提出する際に、フォントの埋め込みを求められるケースがあるかもしれません(英語の場合だと、たとえば IEEE などは 煩いらしいですね)。ここではそのようなケースに関して触れておきます。
まず、欧米文字に関してですが、これは基本的には TeX Live の default がフォント埋め込みになっているので、たとえば IEEE の場合だったら、URW ベースのフォントセットを指定してやればいいでしょう。詳細は『美文書作成入門』第12章「欧文フォント」を御参照いただきたいのですが、一番簡単かつ確実なのは Mathptmx を使用することでしょう。
厄介なのは日本語の文字の方です。TeX Live の豊富なフォントライブラリをあてにすることができないからですが、もし、そのファイルを受け取った全ての人が、日本語の表示に支障のない環境下で Adobe Reader で閲覧・印刷が可能であろうと思われるなら、フォントを埋め込まないのが一番安全でしょう。
しかし、たとえば日本語未対応の gv や xpdf のユーザが多い場合や、日本語環境が十分整備されていない状況下でそのファイルを閲覧・印刷するであろう人がいる場合には、ちゃんと埋め込むべきフォントを埋め込まなければなりません。
たとえば、OTF パッケージが想定している日本語フォントは:
基本となるフォント、すなわち明朝とゴシックですが、完全にフリーなものを求めるならば、IPA フォントが現実的な選択でしょう。IPA フォントの詳細は関しては、次章「IPA フォントに関して」を御参照下さい。
IPA フォント以外にも、派生したフォントで使えるものがいくつかあります。後述する migu フォント / migmix フォントや Mobo / Moga フォントなどのように、部分的に IPA フォントや M+ フォントを用いたものがほとんどですが、中には Bitstream Cyberbit フォントのようにオリジナルのものも存在します。
以下取り上げませんが、Bitstream Cyberbit フォントに関して簡単に説明しておきます。このフォントはその名の通り Bitstream Inc.(BITS) によって制作されたフォントですが、Unicode で用いることを考慮した国際化がされており、日本語文字も収録されています(日本語文字に関しては IPA から供与を受けているようです)。ライセンスに関しては、非商用目的に供する限りはフリーで、特筆すべきなのは、埋め込みに関してライセンス上で明示的にその使用を認めていることです。単独で用いるのには非常に線が細い明朝体で、しかも縦書き用の句読点・記号を収録していないフォントなのですが、選択肢のひとつとして知っておく意味はあるかもしれません。
Bitstream Cyberbit フォントは、以下の URL から入手できます:
http://aol-4.vo.llnwd.net/pub/communicator/extras/fonts/windows/また、このフォントから派生した TITUS Cyberbit Basic font というフォントが存在します。このフォントは以下の URL で許諾条項の了解を得た上で配布されています:
http://titus.fkidg1.uni-frankfurt.de/unicode/tituut.asp
世間で出回っているフリーフォントを物色すると、明朝と比較して圧倒的にゴシックの方が多いようです。ですから、それらの中から太ゴシック、もしくは丸ゴシックに相当するものを探すということになります。
先にふれた IPA / Takao フォントには、残念ながらウェイトのバリエーションがありません。dvipdfmx のフォントマップでは、"Bold" のオプションを付加することで、機械的に太くしたフォントを生成してくれますが、この機械的に生成された字体は埋め込まれない仕様になっています。
僕の場合は、太ゴシックとして 「MigMix2P ボールド」を使っています。MixMix フォントは M+ と IPA の合成フォントで、グリフ数の多いフリーフォントとしては珍しく、複数のウェイトを提供しているのでこれを使っています。
丸ゴシックとしては、当初、モトヤフォントの「NFモトヤシーダ1」の使用を検討していました。IPA ゴシックよりもやや丸みを帯びた美しいフォントです。モトヤフォントでは、この「NFモトヤシーダ1」に加え、「NFモトヤバーチ1」「NFモトヤアポロ1」の計3書体を、グリフの制限なし(ただしウエイトは各々1種類のみ)で無料公開しています。ダウンロードの際にメールマガジンへの登録が必要(ダウンロード後に解除可能)ですが、無料で TrueType フォント(「バーチ」は OpenType フォントも提供されています)を入手できます。
また、株式会社モトヤは2010年9月に Open Handset Alliance (OHA) に参画する旨プレスリリースを出し、モトヤLシーダ3・モトヤLマルベリ3の2書体を Android オープンソースプロジェクトに対しオープンソースライセンス (Apache License) で提供を始めました(ただし、これらの「モトヤL」フォントは、印刷用のフォントとは異なり、携帯機器に特化した軽量フォントだとのことですのでご注意下さい)。
しかし、実際にこれらのフォントを dvipdfmx で埋め込んでみると、
** NOTICE: This document contains `Preview & Print' only licensed font **……と怒られます。うーむ。作成した PDF ファイルを第三者に渡さず、自前のブラウズと印刷にのみ供するのであれば問題はないと思うのですが、ここでは配布可能な PDF ファイル作成を目論んでいるので、モトヤフォント使用は諦めて「MigMix1M レギュラー」を使用することにします。他のゴシック体との差別化という意味ではやや弱いのですが、「和田研細丸ゴシック」を現在使用するというのは、フォントの質という意味では問題があると思うので(歴史的には極めて意義深いフォントですし、グリフの数も多く、CID 化もちゃんとされているのですが……)
おそらく、フリーの日本語フォントを探していて、一番問題になるのは、この太明朝に相当するフォントでしょう。とにかく、適当なものが見つからないのです。
僕の場合は、この太明朝に相当するフォントとして、当初は「出島明朝」を使用していました。しかし、「出島明朝」にはアルファベットが含まれていないために、グリフ欠落に起因するエラーが生じ易いという問題があります。Liner Note というサイトを主宰されている leva 氏が、jgaramond フォントでそこを補った ttf ファイルを公開されていますが、たとえば全角のコロン(:)やセミコロン(;)が落ちている、等の問題があります。
ということで、他に何か使えるものはないか探してみたところ、"Y.Oz Vox" というサイトで公開されている MogaMincho フォントに辿りつきました(公開先リンク)。これらのフォントは M+ フォントと IPA フォントを合成したもので、ちゃんとボールド書体が含まれています。しかも JIS 第四水準までカバーしている、ということなので、MogaExMincho Bold を使うことにします。
僕の場合は、Linux 上でこれらのフォントの埋め込みを行っています。僕の端末は xfstt で TrueType フォントを使用できるので、/usr/share/fonts/truetype 以下に適宜ディレクトリを作成して、そこに TrueType フォントを収容しています。
TeX Live でこれらの TrueType フォントを使用される場合には、先の小塚フォントのセットアップの場合と同様に、
/usr/local/texlive/texmf-local/fonts/opentype/public/にシンボリックリンクを張って、ls-R データベースを更新しておきます。
フォントマップは、たとえばこんな風に(allfree.map)作成すればいいでしょう。注意することは、
実際に上で定義した5つのフォントを表示してみましょう。
\documentclass{jsarticle}
\usepackage[expert, deluxe]{otf}
\begin{document}
\noindent {\usekanji{JY1}{hmc}{m}{n} \Huge 漢字仮名交じり文の例:明朝}
\noindent {\usekanji{JY1}{hmc}{bx}{n} \Huge 漢字仮名交じり文の例:太明朝}
\noindent {\usekanji{JY1}{hgt}{m}{n} \Huge 漢字仮名交じり文の例:ゴシック}
\noindent {\usekanji{JY1}{hgt}{bx}{n} \Huge 漢字仮名交じり文の例:太ゴシック}
\noindent {\usekanji{JY1}{mg}{m}{n} \Huge 漢字仮名交じり文の例:丸ゴシック}
\end{document}
のように文書を作成します(ただし、これを platex で処理するためには「OTF パッケージのセットアップ」で後述する OTF パッケージをインストールする必要があります)。これをたとえば foo.tex という名前で保存したら、
のように処理すると、以下のような出力が得られます:$ platex foo.tex $ dvipdfmx -f allfree.map foo.dvi

比較用に、ヒラギノフォントで同様の埋め込みを行った結果も以下に示します。

尚、これらの出力結果は、前者は Linux 端末上で、後者は Mac OS X 上で作成した PDF を Mac OS X 端末上で画面表示し、その画面のスクリーンショットから切り出したものです。直接出力ではありませんので念のため。
【追記】某日夜、上を見ていて唖然としました……「漢字仮名混じり文」になってる!……もちろん、「漢字仮名交じり文」の誤記です。即刻訂正しました。すみません……