この文書は、Prof. Donald E. Knuth が公開されている "Important Message to all Users of TeX" を参照目的で試訳したものです。訳に不備な点がある場合は全面的に訳者に責任がありますので、何卒ご容赦の程よろしくお願いいたします。
もし貴方のシステムが:
のような字体をギリシャ文字の小文字のデルタとして生成するならば、至急、システム管理者に旧バージョンの Computer Modern fonts をアップグレードするよう言っていただきたい。
私は1992年春に、これらのようなフォントに対して重要な修正を施したのだが、嗚呼、私は未だに数多くの書籍、雑誌、別刷において旧バージョンが使われているのを目にする。どうか、旧バージョンの字体をこの地球上のタイプフェイスから根絶するのを手助けしていただきたい。
1992年に改良した字体において、とりわけ目立つのは矢印である。より濃く、より大きな矢頭を持つように改良したので、複写機にかけても簡単に消えてしまうことがない。しかし、改良の大部分は、小文字のデルタが劇的に改善されたのと比較しても、より微かなものである。実のところ、旧バージョンでのデルタはあまりに醜くて、私はこの字体を用いて論文を執筆することが耐え難かった。だから、この字体が未だに使われている論文を読むことは耐え難いのだ。
1992年の新バージョンリリース時には、字体を低解像度で用いるための新処理法を導入した。そして、いくつかの筆記体大文字に改良を施した。顕著なのは {\cal H}、{\cal I}、そして {\cal T} である("Computers & Typesetting, Volume E: Computer Modern Typefaces (Computers and Typesetting)" の初版……1986年から2000年……と2001年以降の版で pp.126 および pp.134 を比較せよ)。
これらの新しい字体の文字は、TeX で用いる限りにおいては、紙面において旧バージョンと正確に等しいスペースを占める。だから、修正されたフォントを用いても、その際の改行や改ページは、1986年のオリジナルフォントを用いたときと同じである。唯一の違いは、貴方の文書がよりよい見映えになり、より読み易くなることである。
これらのフォントは今後二度と変えることはない。今こそ、旧バージョンを駆除する最良の機会なのだ。修正した METAFONT ソースは、世界各地に数多く存在する TeX archives のミラーサイトから入手可能だ。これに関わるサブディレクトリは fonts/cm/mf および fonts/cm/ps-type1である。 もし貴方が DVI ファイルの印刷に dvips を使用されているならば、全てのフォントを METAFONT で再生成する必要はない。ただ旧バージョンを削除しさえすれば、dvips は必要に応じて新しいフォントを生成する。
貴方が新刊の出版物で旧バージョンのフォントを使い続けているのに出喰わすことがあるかもしれない。例えば、SIAM Journal of Computing は、少なくとも2008年3月 (volume 37 page 1906) まであのひどい旧バージョンのフォントを使い続けている。そして、これ以外にも、より良いものを知るべき存在が多数存在するのだ! アメリカ数学会は修正済のデルタを使っている。日本応用数理学会の英語論文誌もそうだ。しかし彼らも、筆記体大文字に関しては、彼らが変更してしまうべき時期から長い長い時間が経過したにも関わらず、更新を行っていないのだ(例えば、Bulletin of the AMS 2009年1月号の pp.144、Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics 2007年10月号の pp.276 を見よ)。これ以外にも ACM, Springer, そして Elsevier は「有罪」である(ACM Transactions on Algorithms 2008年8月号の pp.46:13、Discrete and Computational Geometry 2008年12月号の pp.625、Journal of Computer and System Sciences 2009年1月号の pp.18 を見よ)。
パブリッシュされた論文で旧バージョンの字体が使われているのを目撃されたらすぐに、その著者にこの web ページのことをお伝えいただきたい。彼らの仕事はより美しく組版されるに値するのだ。
ちなみに、私の小さなモノグラムAxioms and Hulls は、最終形の Computer Modern fonts を用いた最初の出版物である。1992年のフォント改良作業の内容に関しては、全て、1993年3月に刊行された"Computers & Typesetting, Volume E: Computer Modern Typefaces (Computers and Typesetting)" 第4刷中に文書化されている。