無意識という名の暴力

噂で聞いたんだけどね……

 ストーカーやクラッカーだけが他人を攻撃するわけではありません。当然そ れらに対する対策も必要なのですが、それ以上に注意しなければならない存在 があります。実は、僕が耳にする事例のほとんどがこれによるものなのですが……

 こんな例を考えてみましょう。

ホームページで自分の恋人と撮った写真を公開したところ、その写真に対して、 何人かの人がコメントを各々のページに書き込んだり、掲示板に書き込んだり した。

 その反応の中には無責任なものもあるかもしれません。例えば、写真の印象 だけから、その恋人に対して、

「この人はきっと*****な人なんだろうな」

などというコメントが付いたりすることがあり得ます。そしてそれが必ずしも 好意的なものであるとは限りません。

 そのようなコメントの中で、恋人の性的な嗜好とか宗教とか、そういうこと に関する中傷めいたものがあったとしますね……それが二次的に多数の人に広 まることもあり得るわけです。

 恋人が何も知らないところで、恋人に関する間違った、しかも privacy に 関わる事項が喧伝される……これはもはやその人自身も制御できないものになっ てしまっているわけです。

 実は、privacy の露出とともに問題なのが、この

cyberspace における「噂の伝播」の問題

なのです。

ふたつの社会の接点

 「嘘も百遍繰り返したら真実になる」というのは、ナチス宣伝相であった ゲッベルスの言葉と記憶しているのですが、「潜水艦社会」である cyberspace では噂の出元が見えませんから、この問題は一層深刻なものに なります。

 更に問題なのが、cyberspace から real-space への噂の伝播です。他人の privacy に関わることをWWW で見て、現実の場で第三者に話す人が存在すると いうことはしばしばあり得ることです。

 例えば、

会社の他の課の人間にある時いきなり自分の恋人のことを話題に持ち出され、 問い詰めたところ、その課に自分のホームページを読んだ人がいて、課の酒席 でそのことを話題にしていたことがあったらしい……

などということがあり得ます。あなたの実社会であまり公にしていない顏に cyberspace で出会った人が、もし実社会でのあなたをよく知る人だったら、そ のギャップだけでも十分に「面白い」ことなのです。

 個人ページを持っている人達のほとんどは、そのような、ふたつの社会の像 のリンケージというものを反射的に避ける傾向があるようです。しかし、単な る受け手、単なる読者としての立場であなたのページを見た人にとって、個人 ページで目にする情報は、テレビや雑誌で見た情報と全く同次元のものとして 意味を持ち、しかもなまじ身近な人間に関する話題であるが故に、より「面白 い」ものとして喧伝される可能性があるわけです。

cyberspace is included in real-space

 このような情報伝播のプロセスに共通しているのは、情報を公開している側 も、それを広める側も、その行為に対しての問題を一切感じず、無意識のうち にそれを行っているということです。無意識であるが故に、ある日突然それに 見舞われる可能性があるわけです。噂のようにあなたやあなたの関係者の個人 情報(しかもそれが正しいものであるとは限らない)が伝播するわけです。し かも電子メディアの特性……迅速、距離に依存しない、ファイルとして記録・ 保存可能……が生かされたかたちで……

 もちろん、他人の privacy に関わることを不用意に他人に話さない、とい うのは、我々の実社会におけるひとつのモラルです。しかしそれが常に守られ るわけでないのは、皆さんお分かりと思います。

 我々が個人ページを運営している cyberspace というのは、real-space と 完全に分離された別世界ではありません。所詮は real-space に内包された、 ひとつの巨大なメディアに過ぎないのです。その中には確かに多くの可能性が 秘められていますが、その外を real-space に包まれた世界であることを、ど うか忘れないでいただきたいのです。


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