尖閣諸島ビデオ流出事件においては、神戸の漫画喫茶から画像が投稿されたとの情報が流れている。管内閣は、今回の事件を、公務員の守秘義務違反事案として取り締まる気がマンマンのようであるが、この何日かの間に「あれは『秘密』と言えるのか?」という議論が噴出している。
国家公務員法における諸問題に関しては先日 blog に書いたとおりであるが、あれの最大前提として、「秘密を侵した」ということが求められるわけだ。で、あの尖閣ビデオは「秘密」なのか?という話になるわけだけど、そもそも法における秘密の定義って何なんだろうか。
おそらく、この手の法律で言うところの秘密の定義は、以下のようなものと考えられる:
一般的に了知されていない事実であって、それを一般に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの
もっとくだけた表現をするなら、「秘密」とされるものの条件というのは:
- 知られていないこと
- それが知られることで何かしら利益が損なわれる(と客観的に考えられる)もの
ということであろう。これに照らして、今回のビデオが「秘密」なのかどうか、を考えると……まず、映像それ自身に関しては、国会議員と一部の公務員以外には知られていない。しかし、国会議員の証言などを元に、その内容が CG として再現されたものがひろくメディアで流布されているわけで、この状態において「一般的に了知されていない」と言えるかどうかは、ちょっと首を捻らざるを得ない。
そして、あのビデオの内容が知られることで客観的に利益が損なわれるようなことがあるのかどうか、である。今回の場合は、中国政府の態度が硬化する、というのが「利益が損なわれる」というのにあたるのだろうけれど、これは先方の意向なのであって、日本の法体系で規定・保証されたかたちで、何者かの利益が損なわれているというわけではない。
おそらく仙石はこう言うんだろう:「現政権の利益が損なわれていることは明々白々な事実である」と。しかし、だ。日本の法体系の範囲内で「それを一般に了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられる」のだろうか?現政権が利益を損なわれたと考えているだけでは不十分だ。なにせ「客観的に考えられる」ことが求められているのだから。
というわけで、各方面から「あれって秘密じゃねーんじゃねーの?」という疑問が噴出しているわけだが、東大法学部3年で司法試験に合格、東大を中退した仙石は、この辺を法曹として何もちゃんと説明していない。ぜひ、法的な根拠を以て、あれのどこが秘密なのかを示していただきたいものである。
尖閣諸島沖における中国漁船の問題で、ビデオ画像を公開したのが誰なのか、目下犯人探しが進んでいるようである。正直言って、刑事事件としても処分保留・被疑者釈放となってしまった事件の証拠物件に対して、公開がそれ程の問題になるとも思えないし、そう扱うべきでもない、とは思うのだが、一時期とは言え国家公務員であった僕としては、どうしても気になる問題がある。
国家公務員法という法律がある。この国家公務員法、通称公務員法で、公務員の守秘義務が以下のように規定されている:
(秘密を守る義務)
第百条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。
○2 法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表するには、所轄庁の長(退職者については、その退職した官職又はこれに相当する官職の所轄庁の長)の許可を要する。
○3 前項の許可は、法律又は政令の定める条件及び手続に係る場合を除いては、これを拒むことができない。
○4 前三項の規定は、人事院で扱われる調査又は審理の際人事院から求められる情報に関しては、これを適用しない。何人も、人事院の権限によつて行われる調査又は審理に際して、秘密の又は公表を制限された情報を陳述し又は証言することを人事院から求められた場合には、何人からも許可を受ける必要がない。人事院が正式に要求した情報について、人事院に対して、陳述及び証言を行わなかつた者は、この法律の罰則の適用を受けなければならない。
○5 前項の規定は、第十八条の四の規定により権限の委任を受けた再就職等監視委員会が行う調査について準用する。この場合において、同項中「人事院」とあるのは「再就職等監視委員会」と、「調査又は審理」とあるのは「調査」と読み替えるものとする。
で、これに違反するとどうなるか、だけど、これも国家公務員法に規定があって、
第二款 懲戒
(懲戒の場合)
第八十二条 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法 又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項 の規定に基づく訓令及び同条第四項 の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
第四章 罰則
第百九条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(中略)
十二 第百条第一項若しくは第二項又は第百六条の十二第一項の規定に違反して秘密を漏らした者
ということで、今回の画像公開が内部告発によるものである場合には、国家公務員法の規定からみると、まず「免職、停職、減給又は戒告の処分」が適用され、その上で「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」という罰則が適用される可能性が大きい。まあ、ああいう告発をするからには、おそらくは職を賭して行ったのだろうと思うけれど、もし告発者が同定されたら、内部告発者の保護という観点からも、弁護士会辺りに大弁護団を作っていただきたいものである。おそらく国民は皆、そうあってほしいと思っているだろうから。
さて。世間では、この問題に関して、僕が書いた通りの騒ぎになっているわけだけど、ではこのビデオは、一体どうやって流出したのだろうか。
これに関しては、先にも書いたけれど、(9割位の確率で)今回のビデオは内部関係者からの流出だと言っていいと思う。秘術を尽くして、まるでスパイ映画のようなプロセスを経て今回の動画が流出した、と、考えるのはその人の勝手だけど、欲しい情報にネットワーク経由でアクセスできる可能性は決して高くない。この手の動画を、わざわざ HDD 内、それもネットワーク経由でアクセスできる場所にストアしておく人、というのは、公私の別なく少数派ではないだろうか。
しかも、今回の動画にはちゃんとタイトルがしつらえられている。画像でそれを出しておくけれど、
と、このような感じである。モザイクにしてある部分には、撮影者と思われる個人の名字が入っている。このようなかたちになっている、ということは、内部で動画を整理した「後」の状態にある動画にアクセスできる者、ということになるわけだ。今回のケースでは、海上保安庁・石垣海上保安部に所属する誰かが、内部から動画を持ち出して YouTube に投稿した可能性が高いだろう。
今回の事件は、たしかに APEC を控えた日本の危機管理において大きな問題を生じさせる事件である。しかし、その根底にある、今までまともにタッチされていなかった問題というものを、ちゃんとする必要があって、少なくともそういった政治責任が果たされていなかった、その責めがまずなされるべきであろう。だから、閣僚は遺憾だ何だとしたり顔でメディアに言う前に、まずは恥じ入り、そして責めを負え、と、国民は声を大にして叫ぶべきなのである。
昨夕 NHK で放映された『クローズアップ現代』で WikiLeaksの問題を取り上げていたのだが、それとタイミングを合わせるかのように、昨夜遅くに YouTube で尖閣諸島での漁船衝突のビデオがリークされた。僕は既に6個の flash video file をダウンロード・所有しているが、これは大事件だと言わざるを得ない。
まず第一に、今回流出したビデオは、合計すると、国会議員に公開されたものよりもはるかに長い。あれだけ管内閣が隠蔽しようとしていたものが、実にあっけなく露呈されてしまったことになる。このようなビデオをあれだけ頑なに隠し続けてきた管内閣の姿勢が、まずは問われるべきであろう。
そして、管内閣の危機管理体制が極めて杜撰なものであることがこれで露呈したわけだ。今回のビデオは、那覇地検において数分の長さに編集され、DVD に焼かれたものが国会で公開されたとのことなので、今回の漏洩に関しては、那覇地検、もしくは海上保安庁のいずれかの内部からの漏洩である可能性が極めて高い。いや衛星回線でどーのこーの、などという話も出ているようだけれど、セキュリティの問題に関して少しでも知っているなら、情報漏えいの9割がインサイダーによるものだ、というのは、これは常識中の常識である。もし実際に今回もそうだとすると(おそらく職を賭してリークしたのだろうと思うのだが)、漏洩した者が公務員である可能性が高いということであって、今回の行為が公務員法違反である可能性が極めて高いことを示している。公開しないならしないで、綱紀粛正を徹底すべきなのであって、それができていない管内閣って何なの?危機意識なんてないんじゃないの?という話である。
そして、今回の件に関して、内閣から今に至るまで何らコメントが出ていない、ということが、またお粗末な話である。まあ、これは簡単な話なのであって、誰も責任を取りたくない、ということなのだろう。しかし、だ。
- 政治家は結果だけでその業績が論じられる職種である
- 政治家は政治に責任を持ち、それを果たすことこそが仕事である
というのは、これは歴史的にコモンセンスなのではなかろうか?それが全然できていない管内閣がどういう内閣なのか、それが全然できていない民主党政権がどういう政権なのか、もう書くまでもないことではないか。
しかし、民主党の各閣僚、そして周辺の政治家のコメントをみると、どうも彼らは今回の問題を単なる危機管理上の問題に矮小化したくて仕方ないようである。僕達は、決して今回の問題を、そのような矮小化した文脈で受容してはならない。今回の問題は、あのとき中国漁船が何をしたか、ということへの国の説明責任、そして政治家の政治責任という文脈でまずは受け止められるべき事項なのだ。この点、僕達はゆめゆめ忘れてはならない。