惨敗

ここまでの惨敗だとは予想していなかった。70議席台になるかもしれない、とは思っていたけれど、60議席を割ったというのは、予想外と言うより予想を超えたと言うべきかもしれない。

閣僚8人、経験者10人が落選=菅前首相は比例で復活【12衆院選】

民主党は16日投開票された衆院選で歴史的大敗を喫し、連立を組む国民新党と合わせ、現職閣僚8人が落選、閣僚経験者も10人が国会から姿を消した。閣僚の落選は現行の小選挙区比例代表並立制導入後最多で、民主党への逆風の強さを浮き彫りにした。

落選した閣僚は、民主党の樽床伸二総務相、城島光力財務相、田中真紀子文部科学相、三井辨雄厚生労働相、藤村修官房長官、小平忠正消費者担当相、中塚一宏金融相の7人と、国民新党の下地幹郎防災担当相。

自民党が大敗した2009年の前回衆院選では、与謝野馨財務相(当時)ら6閣僚が小選挙区で敗れたが、いずれも比例代表で復活し、落選は免れた。

一方、閣僚経験者で落選したのは、官房長官経験者の平野博文、仙谷由人両氏や川端達夫前総務相ら。菅直人前首相や横路孝弘前衆院議長は小選挙区で敗れたが、比例で議席を得た。

このほか、大物候補では自民党の加藤紘一元幹事長が落選。新党日本の田中康夫代表も敗れ、同党は議席を失った。

◇落選した閣僚ら

【落選した現職閣僚】
三井辨雄厚労相(北海道2区)
小平忠正消費者相(北海道10区)
城島光力財務相(神奈川10区)
中塚一宏金融相(神奈川12区)
田中真紀子文科相(新潟5区)
藤村修官房長官(大阪7区)
樽床伸二総務相(大阪12区)
下地幹郎防災相(沖縄1区)
【落選した閣僚経験者】
鉢呂吉雄前経産相(北海道4区)
鹿野道彦前農水相(山形1区)
細川律夫元厚労相(埼玉3区)
田中慶秋前法相(神奈川5区)
小宮山洋子前厚労相(東京6区)
川端達夫前総務相(滋賀1区)
平野博文元官房長官(大阪11区)
平岡秀夫元法相(山口2区)
仙谷由人元官房長官(徳島1区)
松本龍元環境相(福岡1区)
【復活当選した首相・閣僚経験者】
荒井聡元国家戦略相(北海道3区)
海江田万里元経産相(東京1区)
松原仁前国家公安委員長(東京3区)
菅直人前首相(東京18区)
赤松広隆元農水相(愛知5区)
原口一博元総務相(佐賀1区)
高木義明元文科相(長崎1区)

(2012/12/17-07:45, 時事ドットコム)

今回、復活当選者に関しては、少なからぬ遺恨を残すことになるのではないだろうか。菅直人や、発言・言動のブレで批判されている原口、そして復活当選ではないものの、史上初めて、首相でありながら比例代表名簿に名前を載せた野田に関しては、おそらく相当の不満が向いているものと思われる。特に首相や前首相という立場は、選挙がふるわない場合に第一にその責任が問われてしかるべきものなのだから、重複立候補ということ自体おかしな話だと思うのだが。

そして、閣僚で落選した連中にしてみたら、元閣僚が4人も重複で助かったというのも承服し難い話であろう。自分達が応援演説などに飛び回っていたときに、保身第一のドブ板選挙を展開していた元閣僚の方が身分を保証されるというのは、これは心中穏やかならぬことに違いあるまい。

民主・原口一博氏が小選挙区で敗れる 発言のぶれに批判

佐賀1区では、民主前職の原口一博氏(53)が自民新顔の岩田和親氏(39)に敗れ、「力不足で申し訳ない」と険しい表情で語った。比例では復活した。

多くのテレビ番組に出演し知名度は抜群。鳩山、菅内閣では総務相として地方交付税を増額するなど地域主権改革を進めた。地元後援会からは「大隈重信以来の総理大臣に」という声まで上がった。

しかし、その後の言動に批判が集まった。

昨年6月、野党提出の菅内閣不信任案に同調し、賛成を表明しながら、採決では党の方針に沿って反対に回った。今年6月にも、消費増税法案への反対を表明しながら、採決では棄権した。「党の分裂を避け、党を鍛えていく」と苦しい説明に終始した。

こうしたぶれを、自民は「ラグビーボール」と揶揄(やゆ)した。どこに転がっていくかわからないからだ。

党派を超えて広がる「原口党」からも批判された。

20年以上、原口氏の選挙を支えてきた佐賀市の男性(63)は酷評した。「ぶれが目に余る。不信任案など見るに堪えなかった。何を言っても信用できない」。前回は演説会に50人を集め電話作戦も手伝ったが、今回はなにもしなかった。

佐賀県鳥栖市に住む主婦(54)は2005、09年に原口氏に投票した。「子育て施策など、彼が語る未来にひかれた」。だが、今回は「反省が必要」と話す。

公示前には野田首相、公示後には細野豪志党政調会長ら党幹部が続々と応援に駆けつけ、てこ入れした。社民県連合は今回、自主投票を決めたが、終盤になって「自民党に勝たせていいのか」との声が出て、支援に回る動きがあった。

原口氏は「どうか助けてください」と選挙カーから繰り返した。それでも、信頼は取り戻せなかった。

比例復活が決まり、原口氏は「うれしい」と喜んだが、「自分への批判もあった。真摯(しんし)に反省し、党を立て直す」と語った。

(2012年12月17日, asahi.com)

衆院選:菅氏「最後の最後、執念」 離党者には恨み節

毎日新聞 2012年12月17日 10時31分(最終更新 12月17日 10時57分)

東京18区で、菅直人前首相(66)は自民元職の土屋正忠氏(70)に敗れたが、比例復活で辛くも議席を守った。東京都府中市の事務所に姿を見せたのは17日午前3時半ごろ。厳しかった選挙戦の疲れからか、うつろな表情で振り絞るように言った。「『原発ゼロを実現してくれ』というみなさんの執念が、自分を最後の最後で押し込んでくれた」。あいさつは万歳がないまま終わった。

民主党への逆風は、市民運動出身の菅氏に「原点回帰」を余儀なくさせた。「必ず勝たせていただきたい」。地元に張り付き、街頭演説を繰り返す日々。陣営の女性スタッフは「30年も前に選挙を手伝ったことがある私に、本人から『助けてほしい』という電話があった。今回は昔のような草の根選挙だった」と振り返った。

復活当選のあいさつに同席した妻の伸子さんは、菅氏が首相を辞めた昨年9月に「首相は政治家にとってすごろくの上がり。もうおしまいにすれば」と引退を勧めていた。菅氏は「原発ゼロが新しいテーマだ」と再選にこだわったという。「脱原発」一辺倒の選挙戦を振り返り、菅氏は「訴えは届いたと思う」と胸を張った。

しかし、首相経験者として民主党の大敗をどう思うか、と問われると言葉に詰まった。「(マニフェストで)掲げた通りには、かなりできなかった」と反省を口にする一方で「一番大きかったのは、党を飛び出していく人が出て、まとまれなかったこと」と離党者への恨み節も漏らした。

13日に選挙カーに乗っていた時に交通事故に遭い、頭の傷に張られた黒いテープが痛々しい。45分にわたる報道各社のインタビューが終わると「お待たせをしたって言っていいのか……」とようやく表情を緩めた。しかし足元のテレビに目をやると、再び表情を曇らせた。60に満たない民主党の議席数と、大勝に沸く自民党・安倍晋三総裁の顔が大写しになっていた。【川崎桂吾、安高晋】

この人達はおそらくまだ分かっていない。おそらく、今回落選した閣僚は、何故俺達が冷や飯を食ってアイツは復活なんだ、と思っているに違いないのだ。それを納得させなければならない、そうしないと党内に敵が増えることになる、という、そんな簡単なことも、この人達はまだ分かっていないのだろう。まあ、そんなだからこうなるわけだけど。

南北宇宙開発戦争

北朝鮮のロケットと称するミサイルの発射が成功した。後付けで、金正恩が立ち合った等のニュースが流れている辺りはいかにも、と思わせるわけだけど、これに関してあまり声高に言われていない話を書こうと思う。

ミサイルとロケットの区別、というのは、実はあってないようなものである。アメリカの場合も、純粋に宇宙開発のために作られたロケットというのは、おそらくアポロ計画のサターンが初めてだったはずだ。マーキュリー計画で使われたレッドストーン、そしてマーキュリー計画からジェミニ計画まで使われたアトラスは、共に大陸間弾道弾のロケットとして開発されたものである。そういうわけで、北朝鮮の今回の「いわゆる」ロケットがミサイルの組み合わせだとしても、それだけで彼等を責めるということになると、少々話がおかしくなる。むしろ彼等を糾弾するならば、それは、今回のロケットの打ち上げのために国家の食糧費3年分とも言われる多額の金を費したことをもってなされるべきだろう。

今回北朝鮮が打ち上げたロケットは、1段目はノドンのロケットモーターを4本束ねたいわゆるクラスターロケット、2段目はノドンと同じく北朝鮮が開発した IRBM(中距離弾道ミサイル)であるムスダンのロケットモーター、そして3段目は詳細は不明だが、旧ソ連の SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)である R-27 Zyb か、独自開発の固体燃料ロケットかのいずれかだろうと言われている。打ち上げの映像をよく見ていただくとお分かりかと思うが、ロケットモーターの炎の中でベーンと呼ばれる推力偏向板がチラチラと動いている。あの規模のロケットをベーンで制御し仰せる、というのは、これはこれである意味技術的には大したものだと思う。

実は、人工衛星を自前の技術で打ち上げられる国は、今迄9か国しかなかった。米露英仏中、インド、イスラエル、イラン、そして日本である。厳密に言うと、ESA(欧州宇宙機関)に参加している国、たとえばイタリアや、旧ソ連から技術が継承された国、具体的にはウクライナなども入るわけだけど、歴史的経緯から言うと9か国、という言い方でいいと思う。ちなみに日本は、米ソ仏に続く4番目の人工衛星打ち上げ国で、しかも軍事技術の背景を一切持たない、という意味においてはまさにオンリーワンだと言っていい、世界でも稀有な存在である。

で、北朝鮮は10か国目の人工衛星打ち上げ国、ということになったわけだけど、これで鳶に油揚げを奪われたような心地になっているのが、実は韓国なのである。というのも、先月、韓国は人工衛星の打ち上げにまさに失敗したところだったのである。

【取材日記】奇形的開発が自ら招いた韓国ロケット「羅老」の教訓

韓国初の人工衛星搭載ロケット「羅老(ナロ)」(KSLV−1)は、高興(コフン)羅老宇宙センターで横になって精密診断を受けている。しかし先月29日以降、まだ正確な故障の原因は確認できず、いつ起き上がるかは分からない。10月の打ち上げ前にはロシア製の1段目のロケットに、今回は韓国製の2段目のロケットに問題が発生した。「準備は完ぺきだった」「今度は必ず成功させる」という科学者の言葉を信じた国民の失望感は大きい。

ロケットは衛星を宇宙に打ち上げる運搬体だ。米国・ロシア・日本など世界9カ国だけが技術を持つ。独自の発射体がない韓国は、1995年から今まで打ち上げた13基の衛星をすべて外国の地で、外国企業に任せた。巨額を支払っても技術を一つものぞき込めない“宇宙弱小国”の限界も感じた。このため自分たちの手で作ろうとして、10年前から8500億ウォン(約650億円、羅老5205億ウォン+宇宙センター33114億ウォン)を投入して挑戦しているが、いつも苦杯をなめている。

打ち上げの失敗は宇宙先進国も繰り返し経験している。日本はN1ロケットの技術を米国から丸ごと導入し、3回連続で失敗した。独自開発したH2ロケットも98、99年にN1の前轍を踏んだ。90年代から独自開発に着手したブラジルは03年、ロケット爆発で21人が死亡するなど3回連続で失敗したが、挑戦を続けている。

韓国もあきらめてはならない。とはいえ、「羅老」の開発方式には根本的に問題があると考えられる。独自開発でも技術導入でもなく、不明瞭な奇形方式だからだ。草創期から発射過程で多くの問題が発生する余地があるという指摘があったが、結局その通りになっている。ロシアと韓国が独自開発した1段目、2段目の各ロケットを打ち上げ1、2カ月前に連結するため、“相性”を徹底的に点検するうえで根本的な限界がある。しかも1段目ロケットはロシアが技術を徹底的に隠し、のぞき見ることもできない。一方、ロケット技術を保有する9カ国はどうか。独自開発や技術導入をし、開発・製作・試験など発射体全体を統合設計する方式を選択した。

「羅老」の奇形的な開発方式は韓ロ契約に基づくものだ。宇宙弱小国の韓国としてはやむを得ない条件だった。それでも「羅老」の相次ぐ打ち上げ失敗と延期の免罪符にはならない。科学界では開発過程の誤りに責任をあまり問わないのが慣行だ。しかし慣行に安住するのはよくない。単純なミスで打ち上げ失敗や延期などが繰り返されていないか徹底的に調べ、問題があれば厳重に問責する必要がある。しかも国産の2段目のロケットは製造から3、4年も経っている。保管過程、作動可否、部品点検など総体的な問題も確認しなければならない。避けられるものであるのなら、それによる国民の虚脱感はあまりにも大きい。

(2012年12月03日, パク・バンジュ科学専門記者, 中央日報日本語版)

ちなみに、この韓国のロケットの写真を見てみよう。ちなみに一段目はロシアの全面的な技術供与によって作られており、韓国が作ったのは二段目だけである:

……あー、いや、下からアオっている写真だと誤解されそうなので、そうではない図も示す:
……これはいくら何でも、アンバランスの極みだとしか言いようがない。

まあ、韓国が焦るのも無理もないかもしれないが、今迄軍事技術の裏打ちなしで衛星打ち上げに成功しているのが日本だけだ、ということを、彼等にも冷静に、よーく考えてほしいものである。日本は、東大の糸川氏(彼は死ぬ前にちょっとアッチ系になってしまったけれど)のグループが、黒色火薬の小さなロケットで障子紙を破る、なんて小規模な実験から始めて、数度の失敗の末にようやく成功しているのである。もうそれは43年近く前の話だけれど、今やったって大変なものは大変なのだ。もっと腰を据えて、バランス感覚を持って事に臨むべきではないのか。

今回の北の成功で、韓国のロケット関係者は今迄にもまして焦らされることだろう。やっつけ仕事は恥を重ねる結果を生むだけなのだから、いきなりロシアの技術など持って来ずに(何せ、韓国側は1段目に関してはタッチするどころか、打ち上げの制御も、通信も、近付くことすら許されていないのだそうな……そんなものに頼っている時点でもうダメダメだろう)もっと小さなところから着実に積んでいくべきなのではなかろうか。あの不恰好さを見るにつけ、そう思われてならないのだが。

市民感覚を考える

僕は子供の頃からクラシックのコンサートに行くことが多かったのだけど、貼られているポスターを見ると、いつも不思議に思うことがあったのだ。大抵東京辺りで公演を行う前哨戦として、僕の郷里である茨城県水戸市でコンサートが行われることが多かったのだが、東京と比較すると「え?」と思う程チケットが安い。安いので、親に「今度の***フィルの行きたいんだけど」とか言っても、何も問題なくチケット代を出してもらえるのだった。

この理由を知ったのは、高校時代、学校の文化行事担当というのになって、マル秘書類である「アーティストのステージギャラ一覧表」なるものを見る機会を得たときであった。要するに、茨城県も水戸市も、この手の文化行事に多大なる助成金を出していて、そのおかげで、中高生が映画の延長のような感覚で親に金を出してもらい、クラシックのコンサートに行くことができるようになっていたのだ。当時は「ラッキー」位しか思っていなかったけれど、今にして思えば、文化に金を惜しまない、ということの重みが本当によく分かる。

僕が大学に進学する辺りの時期、水戸市は、僕の通っていた小学校が移転した跡地に芸術館を建てていた。

このタワーをご存知の方もおられると思うけれど、このタワーの下には、パイプオルガンを設置した(主に室内管弦楽向けの)ホールが建てられ、座付の室内管弦楽団が結成され、常任指揮者として迎えられたのはかの小澤征爾氏である。まあ、水戸というのは、水戸徳川家の水戸藩の城下町だった場所で、こういう文化に対する意識は他の土地よりは高いのだろうけれど、こういうことに贅沢をする、というのは、そこの出身者としては実に誇らしいことである。

さて。同じ徳川家の城下町だった名古屋の方だけど、こちらは実にお寒い限りである。実は U が、先日「市民の『第九』コンサート」なるものに参加したわけだが、半年前からの練習の段階で、まあそれはそれはひどい話ばかり聞かされていた。練習に来ても、飴など配ってキャッキャッ言って楽しそうにしているだけで、いざ歌となると、地声胴間声、ピッチもリズムもグダグダの状況で、指導者はパート毎に、あまりひどい状態の人に、

「あなた、ここは歌わないで」

と「間引き」を行わざるを得ない状況だったのだ、というのだが、とりあえず練習も終わり、11月25日に金山のホールで本番、ということになった。

僕はチケットを貰って、その本番に行ったのだけど、まぁこれがひどかった。いや、合唱の方は U の言う通りにひどかったのだけど、僕が呆れたのは観客の方である。おそらく知り合いが出るので観に(≠聞きに)来たのだろうか、主婦層の友達連中複数連れ、みたいな人々があちこちに居て、ステージを指差しながらボショボショ喋っている。曲が始まろうというのにそれをやめようともしない。1曲目の、序曲「エグモント」が始まる直前、とうとうたまりかねて、僕の左側で喋り続けている女性達を睨むと、たまたまその一人と目が合った。僕は声を出さずに「だ・ま・れ!」と口を動かしたら、慌てたその女性、横の友人達を肘で突いて、ようやく声が止まった。

まあ、これで事が済む筈もない。第九に入って、第2楽章が終わったところで合唱隊が入ってくると、舞台に先立って客席のあちらこちらで囁きの大合唱である。オーボエが鳴り出して、コンサートマスターが音を合わせ始めたのを見ながら、僕は何とも厭な気分になった。こいつら、どうして合唱隊がこのタイミングで入ってきたのか、全く理解していないに違いない。

案の定、連中はぼしょぼしょ喋るのを止めようとしない。第九の第3楽章は静かに静かに始まるのである。そしてコーダからあまり間を置かずに第4楽章に入っていく。だからこのタイミングで合唱隊を入れるのである。曲が始まるが、やはり連中は喋るのを止めようとしない。たまりかねて、

「お静かに!」

と言うと、まるで暴言でも浴びせられたかのようにピシャリと黙り込み、それ以後はこちらと目を合わせようともしなかった。

ったく、何てことだよ、小学校の学芸会じゃねぇんだ、これぁ金取ってるクラシックのコンサートだぞ……と心の中で毒突きながら、ふと思ったのだった。あれ? 俺は水戸に居た頃、市民オーケストラ(茨城交響楽団)の定期演奏会には山程行ったけど、一度だってこんなめに遭ったことはなかったぞ?

郷里を不当に持ち上げているわけではない。本当に、そんなめに遭った記憶が、ひとつもないのである。これはやはり、名古屋という土地の民度が低いのだ、と思わざるを得ない。

で、今日 U と話していて、驚愕の事実が判明したのである。

「ところでさあ、この間のコンサートの CD、頒布案内とか来たんじゃないの?」
「いや、それがね、ひとつもそういう話が来ないんだよね」
「はぁ? コンサートの後打ち上げだとか言って藤岡幸夫や錦織健を囲んで一席持ってたって話だったよな?」
「そうそう。出なかったけどね」
「そういうイベントはやって、その癖自分達の音は何も確認しないの?」
「そういうことらしいよ」
「歌い捨て、か」

ここをお読みの皆さん、これから、「ワタシは市民第九に参加しててぇ」とか誇らし気に言う人にお目にかかったら、是非とも蔑みの視線を向けていただきたい。いやはや、こんなもので、よくもまあ満足していられるものだ。

豚レバーの生食?

生レバーは僕の好物のひとつだった。今は食べられないが、新しい殺菌消毒手法の開発で、遠からず再び口にすることができるときが来ると信じているのだが、最近、禁止されたはずのレバ刺しを堂々と出している飲食店がある、という話を耳にした。聞くと、なんと豚レバーを生で出している、というのだ。おいおい。

豚レバー、生で食べないで 厚労省が注意喚起

重い食中毒を起こす恐れがあるとして牛のレバ刺し提供が7月に禁止されて以降、豚のレバ刺しが一部の飲食店などで出されているとして、厚生労働省は4日、店や消費者に注意喚起を求める通知を都道府県などに出した。生で食べずに加熱するよう求めている。

同省によると、豚の生レバーをめぐっては、サルモネラ菌やカンピロバクターなどによる食中毒が2003年以降、宮城、群馬、神奈川、愛知、岐阜各県で1件ずつ、計5件報告されている。死者は出ていないという。

牛のレバ刺しは、腸管出血性大腸菌O157による食中毒の恐れがあり、加熱以外に防ぐ方法がないとして提供が禁止された。

まず、通常肥育の豚を生食する、というのは、正直言って気違い沙汰だとしか言いようがない。E型肝炎やサルモネラ菌、カンピロバクターなどの感染はもちろん、最悪の場合は豚の持つ有鉤条虫を取り込んでしまうことになりかねない。有鉤条虫は人間の体内では成体になることができないので、幼生である有鉤嚢虫の姿のままで、全身のあちこちを彷徨う。人体の中で有鉤嚢虫が死ぬまでに数年を要するといわれているが、脳や眼球など、命を落とす可能性の高いエリアにも、この有鉤嚢虫は入り込んでしまうのである。

有鉤嚢虫は主に豚の筋肉を生食することで罹患するといわれている。しかし、豚の肝臓を生食するリスクが低いというわけではない。では、たとえば SPF 豚に代表される、いわゆる無菌豚なら大丈夫なのか。これに関しては日本SPF豚協会のコンテンツを参照していただきたいのだが、SPF の生産者も、豚の生食ということを表には出していないのだ。たしかに、SPF 豚が話題になり始めた今から20数年前、ホテルのレストランなどでも、この豚を使用した生、もしくはレアでの豚肉料理が供されていたのを僕も記憶しているのだが、これだけ牛の生レバーが禁止された状況であっても、SPF 豚がその安全性を前面に出して生食用に供されているという話は聞かない。これはおそらく、と畜・解体のプロセスまで完全に独立・無菌化するまでに至っていない、ということなのだろう。

いずれにしても、豚の生レバーは、牛のそれと比較しても危険性があることには変わりはない。しかも、豚の持つ有鉤嚢虫に万が一罹患した場合、有効な駆虫手段はない。このリスクを十分に考慮した上で、自分で食べるかどうか決めていただきたいものだ。僕はちなみに、豚のレバーを生で食べる気にはなれそうにない。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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