最近、日本人の論理的思考力が落ちている、ということがしきりに言われている。僕は最初のうち「いやぁそんなことないんじゃないの」と思っていたのだけど、小中学生で、論理的思考を問われる問題が出ると、教科の別なくお手あげだ、という子が結構な割合でいるらしい。
うーん、たとえば、こんな問題が出たら、解けなかったりするのだろうか。
ここに27個の小球がある。27個は全て同じ外形で区別がつかないが、ひとつだけ重さの違うものが混じっている。天秤を3回だけ使って、重さの違う小球を選別する手順を示せ。
これって、小球の数が9個、ということでよく出てくるらしいけれど、12個でも13個でも15個でも21個でも、そして27個でも解けるはず、なんだよなあ。何故9個なのかしらん。
ちなみに(書く必要性をあまり感じないのだけど)一応解を書いておく。
まず、27個の小球を、小球9個からなる集合 A, B, C に分割する。天秤に A と B を載せた(1回目)とき、天秤の下がった方の集合に重い小球がある。つりあったときは C に重い小球がある。
次に、重い小球の含まれる集合を、小球3個からなる集合 D, E, F に分割し、D と E を天秤に載せる(2回目)。天秤の下がった方の集合に重い小球がある。つりあったときは F が重い小球である。
次に、重い小球が含まれる集合の小球 G, H, I から G と H を取り、天秤に載せる(3回目)、天秤が下がった方が重い。もしつりあった場合は I が重い小球である。
春が近付くと、愛知県では地魚が色々と売られるようになる。なるのだが、どうもこの辺の人達は地魚を美味しく食べる術を知らないらしい。こういうものを工夫して食べられない人達の文化程度なんて知れたものだ、と毒を吐きたくもなるけれど、知っている人はちゃんと知っているようなので、この辺の人達はそういうことの差が激しい、ということのようだ。
今位の時期だと、小女子(こうなご)がトレイに入ったものが売られているのだが、僕が外に用事があった帰り、午後10時過ぎにスーパーを覗くと、決まって小女子の売れ残ったのが処分価格で売られている。昨日も、200 グラム程ありそうなトレイがひとつで78円で売られていたので、二つ購入して冷凍しておいた。
で、昼食にこれをいただくことにする。小女子は、形の大きいものは、鰯のように手開きにして生姜醤油で食べると美味だけど、ちょっと小振りで、世間では佃煮にしてしまうような大きさのものは、実は柳川にすると美味である。まずは手持ちの牛蒡を笹がきにしておく。
小女子は半解凍の状態にして、フライパンに湯を沸かし、塩を入れたところにこの小女子を入れる。無理して解そうとすると身が崩れるので、そうっと混ぜてから、一煮立ちさせたところで湯を切り、笊に上げておく。さっと洗ったフライパンに、濃い目の鰹出汁を1カップ半張り、酒大匙4、砂糖大匙2、味醂大匙1、醤油大匙2、生姜一かけの擦りおろしを加えて煮立てたところに小女子を入れる。出汁が沸騰したところで牛蒡の笹がきをたっぷり入れて、3分程煮てから卵で閉じる。これだけである。
本物の柳川で言うところの「まる」である。鰓蓋や目がやや口に触るのが気になるという方は、大ぶりの小女子を買って手開きにしたもので作れば上品に仕上がるだろうけれど、やはり腸を含めて食べる方が味はよろしい。78円と牛蒡と調味料、それに卵だけでご馳走の出来上がりである。知らない奴ぁ食えないからねえ、と苦笑いしながらいただくのであった。
僕は普段は家に酒を置かない主義だ。というのも、仕事に就いて間もなくのことだけど、いつも置かない家に置こうと買ってきたラガヴーリンを3日で空にしてしまって、あーこれは家に置いてはいけないんだな、と思ったことがあるからだ。
とは言え、このところのこのバタバタした状況でも、僕はアイラモルトが飲みたくて飲みたくてたまらない。いよいよ我慢できなくなったので、吉田屋に向かった。
吉田屋というのは、名古屋市の日本酒・ウイスキー愛好者と飲食業者の方々なら皆(?)知ってる有名な店である。前は基幹バスの通り沿いにあって至極便利だったのだけど、そこから歩いて十分少しのところにあるオートバックスの対面に引っ越して、もう結構な時間が経った。今日は基幹バスの停留所から久々に通りを歩いて、この吉田屋に入ったのだった。
そもそも吉田屋は、個人客がメインの店ではない。ただ、非常に良心的な価格で、手に入れるのが面倒なものまで含めて、モルトウイスキーを種類・量共に豊富に置いている。モルト以外にもスピリッツ全般、リキュール、そしてシェリーも品揃えが豊富で、ちなみにトムジン(甘味をつけたジン)でよく知られている、黄色ラベルに黒猫の描かれている Arctica Distillers の Old Tom Gin(最近は Hayman だろう、とか何とかグダグダ言う奴がいそうだけどねえ)は、この吉田屋が輸入代理店である。
モルトの棚に向かうと……あー、これ、まだ安定供給されてるんだなあ。SIGNATORY VINTAGE ISLAY の 40 % のとカスクのとが安価に売られている。これの中身はラガヴーリンの5年もので、一説には、Signatory が蒸溜所の従業員向けに出している、なんて話があるのだけど、これは若い暴れんぼうのアイラを飲みたい人にはお薦めなんだろう。ただ、落ち着いて飲む酒なのか、というと、まあそういう感じではないかもしれない。ということで、ボウモア12年(もうサントリーが蒸溜施設を元に戻してからの時期のもの中心でヴァットされているだろうから、味は一時の化粧品香が抜けてアイラらしくなっているんじゃないだろうか)とラフロイグ10年(43°, 750 ml)でちょっと悩んで、結局ラフロイグを購入した。
ラフロイグは僕にとって思い出の酒である。北新地の某バーに初めて行ったとき、ラフロイグのソーダ割りを頼んだら、
「お客さん、アイラがお好きなんですか?」
と話しかけられたのだった。そのちょっと前に、スコットランド人と一緒に仕事をしていたことがあって、彼にアイラのことを色々聞いてから、ラガヴーリンやラフロイグを飲んでいるんですよ、と話したら、あーそれでしたらちょっと……と、カウンターの下で何やらごそごそやって、スキットルをちょっと大きくしたような瓶を取り出してきたのだった。
「このラフロイグ、ご存知ですか?」
こういうとき、知らないものは素直に知らないと腹を割った方が幸せになれるものだ。素直に知らない、と僕が言うと、いや、これはですね、30年位前にボトリングされた30年もののラフロイグなんです、と言うのだ。
「え?ウイスキーって、たしか樽の熟成年数で、しかもヴァットした中で一番若い酒の年数を名乗るんですよね」
「ええ、ですからこれは、最低でも60年以上前のものです、この当時はフロアモルティングのシステムが今と違うので、現行の30年ものとももう大分違うんですよ。折角ですから、現行のと一緒に味をみて下さい」
え?いや、それはお高いのでは……と言うと、店主は「これは今日お目にかかったご挨拶ですから、サービスですよ」と言い、ショットグラスを二つ、僕の前に置いてくれたのだった。
そのバーテンダーは、実はアイラモルト親善大使のM氏で、僕はそれからこのM氏にはとにかく本当にお世話になった。今も僕が酒や飲食に関して意地汚なくなったりスノッブを気取ったりせずに、スマートに楽しめているのは、このときの出会いがあってこそなのである。そしてこの後も、人生の嬉しいとき、悲しいとき、絶望に打ち拉がれたとき……僕に生きる力を分けてくれたのは、このアイラのピートと、その背後に漂う野の花のような馥郁たる香りなのである。だから今も、僕はラフロイグを飲むと、自分が命の水 uisge beatha を飲むこととその意味に、思いを馳せるのである。
先日から知人に頼まれて、子供の国語の家庭教師のようなことをしている。読解に関して、先日までで一通りのトレーニングをしたので、短くて印象深い文章を読ませよう、ということで、漱石の『夢十夜』を読んでもらったりしているのだけど、色々聞いてみると、漱石辺りを読むのに必要な前提知識というものを、まだ小学校ではちゃんと教えていないらしい。
うーん……と僕は考えた。自分が小学生の頃のことを考え返してみると、僕は最低限必要な知識は頭に入っていて、それは父や祖母、あるいは通っていた剣道の道場の館長先生などに、その辺のことを教えてもらっていたからなのだろうと思う。ということは、別に学校で教えていなくても、僕が、僕が小さかった頃のそういう人達の代わりになるようなものを書くか、話すかして教えれば用は足りるのではなかろうか。
そう思って、空いた時間を利用してちょこちょこと書いてみたのだが、いやこれぁ大変だ。漱石が登場するまでに20ページ近くかかってしまったではないか。まあ書くこと自体にはそう時間も労力もかかっていないのだけど、自分にとって当たり前のことを分かるように説明する、というのは、これはやはり神経を使うことである。
まあそんなわけで、漱石の説明(ただし漱石が登場する直前まで)の PDF を作成したので、話のタネに公開しておくことにする。souseki2.pdf