踏んではいけないお百度

今日は日曜日。まあカトリックなので日曜の朝は教会に行くわけだが、今日はその後も予定が入っていた。某修道院のシスターに頼まれ事をしていたからだ。

このシスターは外国人なのだけど、日本語の読み書きは相当使える(外国人のシスターや司祭に知人がいると、己の外国語への不勉強を恥じることが多いなあ)。このシスターから、

「何か変な日本語変換が入ってしまって……」

ということで、昼過ぎに修道院を訪れる。シスターが持ってきたノートパソコンを立ち上げると……あー、これかー。うーむ。

このシスターは日本語と母国語を切り替えて使用するようにしている。だから、青の白抜き文字で "JP" と書かれたアイコンがメニューバーにあるのだけど、その右側には、Microsoft IME を入れていればそのアイコンが、google 日本語入力を入れていればそのアイコンが表示されているはずである。しかしそこには見慣れぬアイコンがある。これは……と、その時点で何となく読めたのだが、右クリックしてみると、果たせるかな、"Baido IME" の文字が。あーやっぱりかー、と呟きつつ、コントロールパネルを開き始めたのだった。

ここをお読みの方のどれ位が、Baido(百度)という会社をご存知なのか分からないから一応書いておくけれど、Baido は中国検索サイトの最大手である。こちらは皆さんご存知かと思うけれど、今から2年前の夏、google は中国からの撤退を表明して、世間で大きな話題になったことがある。これ以来、Baido はおそらく中国におけるポータルサイト市場で一人勝ちの状態である。一説では、中国の検索サイト市場の 80 % 以上を握っている、と言われている。

そんな Baido が日本市場を着々と狙っているのは、おそらく IT 関連の方々はよくご存知だろう。Baido の日本法人は 2006 年に設立されている……ちなみに、本社があるのは「あの」六本木ヒルズである。一時は、日本のケータイ関連を中心とした市場に、

  • モバイル検索「Baiduモバイル」
  • コミュニケーションプラットフォーム「てぃえば」
  • ソーシャルライブラリー「Baiduライブラリ」
……といったサービスを展開し、それなりに食い込んでいたのだが、これらのサービスからは、去年の夏に全て撤退している。

まあ簡単に言うと、悪い意味の中国式ビジネス、というか、とにかく商売がアラいのだ。「Baiduライブラリ」では、多量の違法アップロードによる著作権問題で物議を醸した。その他でも、どうもいい評判を聞かない。たとえば、『愛と苦悩の日記』という blog に、こんな話が掲載されている。むー。もうコントロールする感満載、という話である。

この Baido が現在提供している日本向けサービスで、おそらく一番力を入れているであろうものが、「Baido IME」と "simeji" である。前者は Windows 端末、後者は android 端末向けの日本語変換システムなのだけど、いずれもクラウド型の「賢い」日本語変換……早い話が google 日本語変換と同じような……を謳っている。

僕は使っていないのであまり知らなかったのだけど、simeji は android 端末での日本語変換システムとしてはかなり人気のあるアプリらしい。ここをお読みの方でお使いの方もあるだろう。あるいは、Baido IME を使っていますよ、という方もおられるかもしれない。しかし、上でリンクした blog のような話を読んで、尚それらを使いたい、と、あなたは思われるだろうか。

しかも、baido IME は、この2年程、

などをはじめとしたいくつかのソフトに抱き合わせるかたちで配布されているらしい。特に問題だと思うのが RealPlayer とソースネクスト社の無料キャンペーンだが、これらのために、入れる必要のない baido IME を「うっかり」インストールしてしまう、という「事故」が頻発しているらしい。実は今回のこのシスターの場合も、ヴァチカンのストリーム映像を観るために RealPlayer をインストールした際に、うっかり baido IME を一緒にインストールしてしまったのが原因だった。baido 自身も、いくつかの提携ソフトウェアのインストールに伴い、自動的にインストールされる場合があることを自社サイトで認めている!

しかも、baido IME は一度入るとかなり「しつこい」らしい。boot する度に default にするかどうかいちいち聞いてくる(コンピュータに慣れていない人がこれでうっかり default にすることを狙っているとしか思えない程、確実にこれが出てくるらしいのだが)。アンインストールしようとしても、ご意見頂戴、みたいなパネルがポコポコ出てくる。で、そこに何か(変換精度が低いからだ、とか、勝手にインストールされたからだ、とか)書いてやろうと思っても、そのパネル上では日本語変換がきかないのである。これは、官僚的というのを超えて、どす黒い悪意と傲慢さを感じてしまう。

なんだかなあ……と思っているうちに、どうやらシスターの PC からの baido IME の「駆除」は終了した。シスターに取り得るオプションをいくつか提示して、その要求に従って今度は google 日本語変換をインストールしたのだが……いやあ、google だって分かりませんよ。企業の利益、そしてアメリカの国益のためだったら、何をどう採取されるかなんて、分かりませんからね。相手はあのエシュロンを持っている、あの NSA のある、あの国なんですからね。まあ、このシスターの場合は、傲慢故に愚かである baido IME のように、彼女の業務を妨害しないのであるならば、実害はないわけだけど。

TeX Live 2012 with tlptexlive

tlpretest には、従来の tlptexlive の内容があらかた収録されている。しかし、pxdvi と pmetapost に関しては未だマージされていないので、これを多用される方は、そのままでは不自由な状態になってしまっているかもしれない。

実は、TeX Live 2012 の tlmgr は新しい機能として、複数のリポジトリを登録することができる。これは、あるリポジトリから特定のファイルを取得したい場合などにも対応できるようになっていて、TeX Live 2012 ではこの機能を利用して tlptexlive を導入することができる。詳細は:

http://tutimura.ath.cx/ptexlive/?tlptexlive%A5%EA%A5%DD%A5%B8%A5%C8%A5%EA
に書かれているのだけど、一応ここでも簡単に手順を紹介しておく。

TeX Live 2012 の導入と最新の内容への更新が終わったところで、まずは tlptexlive のリポジトリを登録する。

$ sudo tlmgr repository add http://www.tug.org/~preining/tlptexlive/ tlptexlive
先にも書いた通り、tlptexlive から取得したいのは pxdvi と pmetapost だけである。これを実現するために、$TEXMFLOCAL/tlpkg/(通常は /usr/local/texlive/texmf-local/tlpkg/)というディレクトリを作成し、この中に pinning.txt というテキストファイルを作成する。このファイルに、どのリポジトリからどのファイルを取得するかを記述するわけだ。

今回は、tlptexlive リポジトリから pxdvi と pmetapost だけを取得するので、このファイルには以下のように記述する。

tlptexlive:pxdvi*,pmetapost*
pinning.txt の作成・記述が終わったら、
$ sudo tlmgr install pxdvi pmetapost
で、pxdvi と pmetapost が導入される。導入後は、単純に、
$ sudo tlmgr update --all
などと入力するだけで、登録された全てのリポジトリでの更新がチェックされ、必要な場合にはアップデートが行われる。

この tlmgr の新機能を含めた、TeX Live 2012 で新しくなったことの一覧は:

http://www.tug.org/texlive/pretest.html
の下の方 "Notable changes" に記されているので、興味のある方は御一読されることをお薦めする。

TeX Live 2012

いよいよ今日から、TeX Live 2012 の tlpretest が本格的に開始された。以下に、興味のある方のために、導入する方法を書いておく。

最初に強調しておかなければいけないのだけど、あくまで現時点で tlpretest はその名の通りテスト版である。大規模なパッケージの更新が頻繁に行われることもあるし、場合によっては再インストールする必要があるかもしれない。そういうものだということを、まず念頭に置いていただきたい。

現在、tlpretest 版の TeX Live を導入するためには、いくつかの方法があるのだけど、一番確実なのは、配布パッケージを rsync で取得することである。パッケージは全部で 2 GB を超えるので、相応の空き容量のある方、ということになるけれど、TUG における tlpretest の説明にあるように、任意のディレクトリで、

rsync -a --delete --exclude="mactex*" rsync://somemirror/some/path/ /your/local/dir
を実行すれば、パッケージ一切がダウンロードされる。更新する場合も同様のコマンドで更新される(--delete オプションを付けているのはそういう向きのためである)。

問題は "rsync://somemirror/some/path/" のところに何を入れるのか、という話である。これに関しては先に拙 blog 『金盾、矛盾』にも書いてあるけれど、mirror が複数設定されているので、これらの中から選ぶ、ということになる。僕が試したところでは、

rsync://ftp.ctex.org/mirrors/texlive/tlpretest/
が一番ネットワーク的に近く、かつ速かったのだが、人によっては、
rsync://ftp.math.utah.edu/texlive/tlpretest/
の方が近いかもしれない。ちなみに元になっているのは、
rsync://ftp.tug.org/texlive/tlpretest/
だけど、TUG のサーバで一から落とそうなどとは努々考えないように。もし最新のパッケージを確実に取得したくても、まずは mirror で手元に基盤を確保してから、差分を TUG で取得すればいいだけの話なのだから、mirror を是非とも活用していただきたい。

DVD の中身みたいなのはいらないよ、という方は、各々の OS に合ったインストーラを、mirror から取得されればよろしい。先の例に従って中国のサーバを使うならば、

を取得・展開し、中のスクリプトを実行すればインストールが行われる。

インストールが終わったら、最新の状況に対応できるように、インストールファイルの取得先を設定しておく。たとえば、

$ sudo tlmgr option repository http://ftp.ctex.org/mirrors/texlive/tlpretest/
のように、tlpretest の配布ディレクトリを指定すればよろしい。アップデートをかける場合は、tlmgr を含む infra パッケージの更新もこの時期には頻繁に行われる可能性があるので、
$ sudo tlmgr update --all --self
のように、--self オプションを併記しておいた方がよろしい(不要のときは無視されるだけなので)。アップデートに部分的に失敗した後には、
$ sudo tlmgr update --reinstall-forcibly-removed --all --self
のように --reinstall-forcibly-removed オプションを指定する。

TeX Live 2012 には、tlptexlive で配布されていた成果物がマージされる予定で、現時点では Preining 氏が書いているように pxdvi と pmetapost 以外は既に収録されている。一枚岩で日本語環境が使える状況が、もうすぐ完全に整うということなのだろうか……今後の展開が楽しみである。

げさっか

U の実家に行ったとき、父上が時々この言葉を口にしていた(誤解なきように書き添えるが僕に向けてではない)。九州の多くの地域で通じる方言らしい。僕は語感から何となく分かったのだが、この言葉は漢字で書くと「下策か」と書く。なるほど、実に伝わりやすいニュアンスである。

プロフィールにも書いてある通り、僕は九州の出身ではない。しかし、今住んでいる辺りでは、しばしばこの「げさっか」という言葉を呟きたくなるときがある。この地で生まれ育っている人達が皆悪者というわけでもないし、この辺りが皆駄目な土地柄だというわけでもないのだけど、この辺りの方がもしもお読みなら、苦言として受け取っていただけると幸いである。

昔、こんなテレビコマーシャルがあった:
タクトを振っているのは、最近の方はあまりご存知ないかもしれないけれど、山本直純という方である。「大きいことはいいことだ」というこのフレーズは、戦後の高度経済成長期を代表するものとしてよく知られている(いた? 最近の世間がどうなのかなんて知らんのだけどね)ものだけど、どうも僕の住む辺りは、これを未だに引きずっているようなところがある。地元ローカルのテレビ番組(僕は滅多に観ない……けれど予告編とかは目に入ることがあるわけだ)などで、ネタが尽きたときなのだろうか、すぐこの手の「大きいことはいいことだ」的なグルメ企画が流されるのである。

グルメ企画が乱発されることは全国的風潮かもしれない。そりゃあ、制作費を安く抑えられるし、人間の欲求に、これ程までに強くアピールするものはない。まあ、キャッチーで、受け手の教養も何も求めない、という点では、ポルノグラフィと同じ位に「使える」テーマなのだろう。しかし、ことこの地においては、「甚だしい」ことがとにかく賛美されるのである。

上述のような企画の煽り文句として、外されることのまずないキーワードが「デラうま」「テラ盛り」である。「デラ」は、この地方の人に聞くと、deluxe に由来するものだ、とか言われることがあるけれど、それは嘘だろう。どう考えても「どえりゃあ」「でぇらぁ」という方言の方が先に存在しているのだから。おそらく「テラ盛り」というのも、もともと「デカ盛り」とか「デラ盛り」だったものが、tera(1012を意味する接頭辞)という言葉を聞き知った誰かが「テラ盛り」と言い始めたのだろう。

僕はこの手の「甚だしい量」をあれ程有り難がる人々が存在する、ということが、どうにも理解できないのだ。何故って、人の胃袋というものは、多少拡張するとは言え、その容積に限界があるものなのに、食事という一連の行為を甚だしく逸脱した量の料理が出されて、何が有り難いのか……その分「質」に投入することの方が、どう考えても贅沢というものだと思うのだけど、この辺の人にはそれが理解できないらしい。

これに対する責めは、メディア側は巧妙に回避している。要するに、これらの言葉は多くの場合、「B 級」という言葉と共に使用されるのである。B 級という言葉で、まず、質と量の質の方を頭打ちにしておいてから、じゃあアピールすべきは量に決まってますよね、ほら!……と、愚かなる受け手の思考を停止させてから情報を浴びせるわけだ。こんな稚拙なことで思考が停止してしまうのか、と不思議に思うのだけど、この手の企画が一向に廃れないという事実こそが、この戦略が成功している何よりの証明である。

それにしても、つくづく僕には不思議に思える。名古屋はもともと城下町である。僕が知る限り、城下町の文化というのは、たとえ金沢などのように贅沢であったとしても、それが下品にならないような慎しさ、というか、程、というか、そういうものが暗に要求されるもののはずなのだ。城下町の佇まい、とか、武家様式の町、とか言われるものは、そういう「程」の統制によって醸成されるはずなのだ。しかし、名古屋で僕がそういう雰囲気を感じることは、皆無ではないけれど、かなり少ない。水戸という、城下町における質素な武家気質の極みたい(だったのですよ、僕の居た頃はね)な町で生まれ育った自分のことを割り引いても、やはりこれは非常に奇妙なことである。

先のテレビコマーシャルと、トヨタの存在とを、このような状況に重ねてみると、この辺りの人は、高度経済成長期の幻想に、未だにどっぷりと浸っているのではないか、と勘繰りたくもなるというものだ。もはや、日本も世界も、そんな幻想に浸っている余裕すらない状況だというのに、今日もまた、テレビでは、高さ何十センチのパフェが、とか、こーんな大きいエビフライが、ほら三匹(三尾とは言ってなかったなあ)も! とかやり続けている。もう本当、免許制の公共性の高い放送事業で、電波資源をこんなことに使い潰すのは、一刻も早くやめていただきたいのだけど。

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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